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87話 バニア国

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ラクレス、リーネ、ドラコの三人はバニア国の手前まで迫っていた。

「ラクレス様、もうすぐです。」ドラコが言った。

「分かった。今日はもう暗くなってきたから、この辺で休憩して、明日の早朝にバニア国を探索しよう。それでいいか?」ラクレスは辺りを見渡すとそう提案した。

「えぇ」「はい」リーネとドラコも同意した。

三人はその場にキャンプを張り、休息を取ることにした。辺り一帯はみるみるうちに闇に包まれ、夜が深まっていった。そんな中、ラクレスは星空を見上げながら考え事にふけっていた。

「ラクレス様、寝なくていいんですか?」ラクレスの後ろからドラコが心配そうに訊ねた。

「ドラコこそ大丈夫なのか?」

「私は神獣ですので、睡眠はいりません。」ドラコは胸を張って答えた。

「そうか、便利な体だな。ところで、話は変わるけど今日は本当にありがとう。急な呼び出しに応じてくれて。」ラクレスは感謝の意を示した。

「いえいえ、ちょうどペルネ山の後片付けも終わったところでしたので、これからはラクレス様と一緒にいられます。」ドラコは微笑んで答えた。

「それは良かった。」ラクレスはドラコの言葉に安心し、軽く微笑んだ。

「ラクレス様、一つお尋ねしてもよろしいですか?ラクレス様はヨルムンガンドをご存知ですか?」ドラコは神妙そうな面持ちをして言った。

突然の質問にラクレスは首を傾げた。「ヨルムンガンド?..........聞いたことがないな。それがどうかしたの?」

「...........いや、なんでもないです。」ドラコはすぐに言葉を引っ込め、「ラクレス様も早くお休みください。見張りは私がしますので。」と続けた。

「分かった。お言葉に甘えるよ。何かあったらすぐに起こしてくれ。」

「はい。」

そうしてラクレスは眠りについた。

夜が明けると、三人は日の出とともに行動を開始した。

「ラクレス様見えました。あれがバニア国です。」ドラコが指さした。

「随分と大きな国だな..........」ラクレスは感心した。

「ほんと、オックス王国とは大違いね。それに、周りは広大な砂漠に囲まれているんだね。」リーネが付け加えた。

バニア国の面積はオックス王国の三倍以上あり、周囲には広大な砂漠が広がっていた。国の一番奥には巨大な城が堂々と構えられており、バニア国は賢者バニアの生まれ故郷として、非常に強大な国であることが見て取れた。

「これだけ大きな国なら、侵入してもバレることはなさそうだな。さぁ行こう、二人とも。」

ラクレスは指示を出した。

その後、三人はバニア国に無事侵入した。国に入ると、ラクレスは作戦を立てた。「さぁ、あとは怪しまれずに情報収集を行うだけだ。皆、手分けして調査をしよう。」

リーネ、ドラコ、ラクレスはそれぞれ別々に動き始めた。ラクレスは通りすがりの老人に声をかけた。

「おじいさん、最近兵士をよく見かけるんですけど、何かあったんですか?」

「兵士?それは別大陸への進行準備のためじゃろ?若いのにそんなことも知らんのか?」

「はは、田舎から出てきたもので...........」ラクレスはそう答えた。

「はっは、そうかそうか。」

「では、この侵攻はまだ続くのですか?」ラクレスはさらに質問を続けた。

「いや、つい先日、当分の侵攻は避けるという通達が出たぞ。実はな..........ここだけの話、侵略に失敗したらしい。」老人はこっそりと教えてくれた。

「そうなんですね。ありがとうございました。」ラクレスは礼を言って、情報をメモに残した。

次にドラコが道行く夫婦に話しかけていた。

「すいません、お二人さん。」

「おやおや、迷子かい?」夫婦は心配そうに見ていた。

「いや、迷子じゃないです。ちょっと聞きたいことがあって。」

「何でも聞いてみなさい。」夫婦は親切に対応してくれた。

「神獣について知っていますか?」ドラコは子供のように無邪気な声で訊ねた。

「神獣?それは...........あの罪人の一族ブラッドの?」夫婦の表情が険しくなった。

「神獣について知っているなら、今どこにいるのか教えてください。」

「ちびっこ、その名を口にするな。あの一族は滅びたんだ。口に出すことも許されないんだよ。」夫婦は強い口調で答えた。

「知っているなら、どこにいるか教えてください。」しかし、ドラコは夫婦の言いつけを無視して質問を続けた。

「分からないわよ。あの一族が滅んだとき、一緒に死んだんじゃないの?それにな、その名は二度と口にするなよ。」夫婦はそう言い残し、その場を去った。

「...........」ドラコはその後、落ち込んだ様子で戻った。

再び三人が集まった。リーネは有益な情報を得ることができなかったが、ラクレスとドラコはそれぞれ収集した情報を共有した。

「じゃあ、今分かったことは、当分の侵攻はないということだけだな。」ラクレスが確認した。

「そうね。」リーネとドラコも頷いた。

日が暮れた頃、三人は静かにバニア国を後にした。

「じゃあ、一旦ゲルマンに報告しに行こう。」ラクレスが提案した。

三人は来た道を引き返し、船に戻った。

「おお、やっと戻ったか?」ゲルマンが出迎えた。

「さっそくだが、人間たちの当分の侵攻はないらしい。」ラクレスが単刀直入に報告した。

「そうか。それで、お前たちはこれからどうするつもりだ?」ゲルマンが尋ねた。

「..........俺はここに残るつもりだ。」ラクレスは決意を示した。

「だと思ったぜ。俺たちは一旦国へ戻って、このことを伝える。その後、対人間に備えて色々と準備する必要がある。さぁ、決まったなら即行動だ。リーネ、早く船に乗れ!」

ゲルマンはそう言って、船に戻っていった。

「私も残る。ラクレスと一緒にここに残るわ。」リーネは宣言した。

「はぁ?..........まぁ、いいや。うるさいのが一人いなくなると思うと、少しはすっきりするぜ。」

ゲルマンは分かってましたと言わんばかりの顔をして言った。

「止めないの?」リーネは驚いた。

「止めたところでどうせ残るんだろ?王様には俺から言っておくよ。じゃーな、元気でな。」ゲルマンはそう言うと、船に乗り込んだ。

すると、ドラコが突然声を上げた。「ちょっと待った。これを持っていけ。」

「何だこれ?..........それより、お前誰だ?」ゲルマンは驚きつつも、少し警戒感を持ちながら言った。

「我のことはどうでもいい。それより、これは通信機だ。」ドラコは説明した。

「お前、こんなものを持っていたのか?」ラクレスは初めて見る機器に興味を示していた。

そんな興奮するラクレスを余所目にドラコは「持っていたことを思い出した。」冷静に言った。

「ほぉ、これが噂の通信機か。これがあれば連絡手段に困らないな。ありがたく受け取っておくぜ。じゃーな。」ゲルマンも通信機器に興味を示すと、ドラコに感謝し船に乗り込んだ。

こうして、ズメイ隊は二手に分かれ、それぞれの任務を続けることになった。
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