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【1話完結】
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私ことマリアンナ・ミュゼット(18歳)には、3人の幼馴染がいます。(そして一応伯爵令嬢です!)
1人は、とっても美人で、セクシーなボディが羨ましい同じ年のオリビア・ターナー伯爵令嬢。
もう1人は、隣国サンドラに留学中で将来は伯爵家当主でもあるウィリアム・バミール伯爵令息(22歳)
そして、最後の1人は、私の大好きな人。物心ついた時からずっとずっと大好きな人
――――ロベルト・バミール伯爵令息。
私と同じ年で、ウィルの弟でもあります。
男の子なのに、私なんて比べ物にならないくらいのサラサラな金髪に、子犬のようにかわいいブラウンの瞳。いつも優しくて、リードしてくれるとっても大切な人。
ウィルが学園を卒業してから貿易や外交を学ぶために隣国のサンドラに留学してしまって以来、私たち3人は学園でも助け合いながら学園生活を送ってきたわ。
それはそれは楽しい思い出ばかりで……。
と思っていたのは私だけだったみたい。
もともと、どちらかと言えば気が弱くて、オリビアとロベルトの陰で守られてばかりだった私は二人が私をどう思っていたかなんて、あの時まで全く気づきませんでした……。
だって、それまでは、将来はロベルトのお嫁さんになるものだと思って生きてきたから――。
あの日。
そう、学園で成績が優秀だった私は、隣国のロベルトに留学する権利を得て、どうしようかと相談するためにこっそりとロベルトの部屋を訪れたの。こんなこと良くあることだし、幼馴染だから門番から始まって執事や侍女や使用人たちともほぼ顔なじみだから全く問題はなかったのだけど……。
ロベルトの部屋の前に行くと、女性の声が聞こえてきたわ。
良く聞きなれた女性の声――。
オリビアだった。
(何か用事があったのかな?私が一緒でも大丈夫かな?)
そう考えながらドアをノックしようとしたんだけど、その二人の会話を聞いて驚いて動けなくなってしまったの……。
「……ねぇ、ロベルト?卒業したら本当にマリーと結婚するの?マリーはいつもあなたと結婚するって宣言してるみたいだけど?」
「……それはしないよ。正式に婚約もしてないしな。何ていうか……。マリーはちょっと子供っぽいだろう?恋愛対象にはならないしな……。俺は、オリビアがいい。オリビアが最高だよ!」
「……ロベルトったら!」
「……お前の体、本当に最高だよ……」
「もーーうっ!!」
私は少しだけドアに近づき、中の様子を伺いました。
更に驚いたことに、二人は裸でベットにいたのですから……!!
抱き合う二人を目の当たりにし、私は涙をこらえながら伯爵家を後にしました。
(いつもの優しいロベルトはどこに行ったの?なんでなんで?思わせぶりなことをしたの?お子様な私なんて初めから眼中になかったなんて……ひどいわ……)
私はミュゼット伯爵家に戻ると、自室に鍵をかけて思いっきり泣きました。
容姿は、どんなに頑張っても美人になれないから、学園でも常に成績が上位になるように努力したし、伯爵夫人に必要なことはずっつ学んできたのに……。
(あんまりだわ……!!)
私は夜通し泣き崩れ、1日以上泣いたら何だかそれ以上泣くのがもったいないような気がしてなりませんでした。
(そうよ!ちょうど隣国に留学できるんだから、あの二人の結婚式なんて見たくないわ!早く隣国に行く手続きをしなくちゃ!)
私は、早速学園に連絡を入れ、隣国への留学に関して準備を始めました。そして、1か月後、サンドラへと向かいました。
向かった先は、ロベルトの兄であり、幼馴染のウィリアムのところでした。
ウィルにロベルトのことを話したら、部屋が余っているから一緒に暮らして問題ないと言ってくれたので留学期間中はお世話になることにしたのです。両親は未婚の男女が云々いっていましたが、私は家を飛び出しました。
もう思い出の詰まったこの地にいたくなかったのです。
ウィルはロベルトと全く性格が異なり、寡黙で何を考えているか分からないところがある人でしたが、しばらくぶりに会ったウィルは、学園卒業時と全く異なり大人の男性へと変貌していました。
「……ウィル、元気だった?その……何だか随分と大人になったのね!見違えたわ。とっても素敵よ!」
もちろんお世辞ではなく本心でした。
「……そうか?マリーにそういってもらえると何だか嬉しいな……」
照れ笑いするウィルが何だかとっても可愛く見えました。
「……その、弟が済まなかった……」
「……ウィルが謝ることじゃないから……」
「……まさか、オリビアと弟がな……。俺は、弟もその、マリーを好きなのばかり思っていた……」
「……私、馬鹿よね?オリビアとロベルトは恋仲だったのに、気が付かないなんて……。そりゃあ、ロベルトもそんな私なんて好きにならなわよ……」
幼馴染と親友を同時に失ってしまい、心の穴がぽっかりと開いていたのですが、隣国に来てウィルと一緒に大学に通ったり、街に繰り出したり、休みに一緒に遠出したりしているうちにすっかり元気を取り戻していました。
そして、半年くらいした頃にロベルトから手紙がきたと伝えられました。
その内容は……。
ロベルトとオリビアが結婚する旨、結婚式に参加して欲しい旨が書かれていました。
「……マリーはどうしたい?」
「……本当はあまり行きたくないけど、心の整理をつけるために行くわ。ウィル」
ーー私の気持ちはもう前を向いている。
ーーだから大丈夫!
そう思って参加を決意したのですが、現実はそんなに甘くありませんでした。
私とウィルは結婚式に間に合うように伯爵家に戻りました。すると、帰国を聞き付けたオリビアが会いに来たのです。
「マリー!会いたかった!」
以前なら私もー!とハグしていたかも知れませんが、少しぎこちない笑顔でオリビアを迎えました。
「……結婚おめでとう」
……上手く言えたでしょうか?
「…もう、マリーったら!勝手に留学するんだから!寂しかったー!でも結婚式に参加してくれるのね。ありがとう。てっきり参加してくれないかと……」
私がロベルトを好きだから、参加しないと思ったのでしょうか。本当に……ひどい。
時間がなかったからごめんね、と伝えると、オリビアから驚きの提案がありました。
「……ねぇ?結婚式で私の準備を手伝ってくれない?ロベルトからもどうしてもって。当日はマリーがいたら緊張しないだろうって。ねぇ?どうかな?」
どうかな?と言われても、まるで決定事項のように話すオリビアに嫌悪感を隠せませんでした。
親友が好きだった男との結婚式に参加させるだけでなく、手伝いまでさせるなんてーー。
(……何て厚かましくて、図々しいお願いだことっ!!)
いかに自分が幸せかアピールをしたいだけなのでしょう。
仕方ないので、今回だけは餞別として手伝いすることにしました。これで、あの2人とは『さよなら』です。
結婚式当日は、オリビアの近くにいて衣装を着る手伝いや、化粧のフォローなどをしました。
「オリビア様は、ロベルト様にとっても愛されているんですよ」
「ロベルト様は、オリビア様にぞっこんで……」
ちらちら耳にする耳障りな情報はもちろんシャットアウト。
途中ロベルトに会いましたが、2人っきりになり何か陰口を言われるのも嫌なので、軽く会釈だけし、おめでとうと伝えました。
(……はぁ。疲れた……。オリビアってあんなに無神経な人だった?)
式に参列するため、大聖堂に着席した頃には疲れ果ててしまいました。幸いなことにウィルが隣でフォローしてくれましたが。
(……自分が幸せだと、他人の気持ちなんてどうでもいいのね……)
オリビアからしたら、所詮私が勘違い女で、2人の恋仲を邪魔したお邪魔虫なのでしょう。私とウィルは結婚式を終えると、すぐさま隣国に戻りました。
そして2人の結婚式に参加し、帰国まで半年を切った頃でした。
(……もうあの2人が結婚して2年近くになるのね……)
留学先での生活は楽しいことばかりで、ウィルと過ごす時間がかけがえのないものになっていました。帰国するのが惜しくなっていたほどです。
私は隣国の言葉もマスターし、留学を終えたら王宮の外交官試験を受けるつもりでした。
ウィルは伯爵家を継ぐために戻るそうです。
そんなある日、またしてもあの2人は……。
忘れかけた頃にやってくるのです。
「……マリー、突然弟が来たんだ。君に会いたいと……」
わざわざ隣国まで来るなんて……。
あまり良い予感はしませんでした。
「……分かりました。ウィル、同席してもらってもいいですか?」
私のお願いに、ウィルは喜んでと手を差し出してくれました。
「……久しぶりね、ロベルト」
私はウィルと一緒にロベルトが待つ部屋に行きました。
「……ああ。結婚式以来だな。元気そうでよかった」
「お陰さまで、ウィルと仲良くやってるから心配しないで」
私たちの様子にロベルトが些か驚いたような表情をしました。
「オリビアは元気?」
私が当たり障りのない会話を始めると、ロベルトは思い詰めた表情で私にこう切り出しました。
「……マリー。オリビアは最近、女の子を出産したんだ」
「……そうなのね。知らなかった。お、おめでとう!良かったわね」
「……ああ。それでその……。難産で体調を崩してしまって…。それで……。もう子供がこれ以上産めないと医師に宣告されたんだ」
「……それはその……お気の毒に……」
オリビアは跡継ぎだから、ロベルトが入婿さしたはずですが、それとここまで来る用事と何の関係があるのでしょうか?
「……それでオリビアが、女が当主になるのは本当に大変だから何とかして男の子が欲しいと言うんだ」
「……えーっと。話が良く分からないのだけど、別に養子を迎えるなり、優秀な婿を迎えるなりすれば良いのでは?」
何が問題なんでしょう?
「……俺もそう思ったから、オリビアにそう話したさ。でもオリビアが…」
あー、もう!オリビア、オリビアうるさい男。
入婿になって頭が上がらなすぎでは?
こんなにうじうじしいだったかしら?
「……オリビアが?」
「……マリーに愛人になってもらって、男の子を産んでもらって、と。子供はオリビアが育てると。マリーは、その……昔から俺のことがずっと好きだったし、逆に喜んでくれるって……」
私は話を聞いてあまりの非常識ぶりに怒りが込み上げてきました。
私がどう話をしようか無言で下を向いていると、ウィルがロベルトをいきなり殴り付けました。
「……ウィル!!」
私は慌て止めに入りましたが、ロベルトの頬は赤く腫れていました。
「……ロベルト、そんなこと伝えにここまで来たのか?最低だな……。マリー、行こうか」
ウィルが私の手を取り、2人で立ち上がりました。
「……ロベルト、さよなら」
「……お、おい!待ってくれ、マリー!」
ロベルトはいきなり私の腕を掴み、引き止めようと必死です。
「……い、嫌!やめて!ロベルト!」
「おい、ロベルト!放せ!マリーが嫌がってるじゃないか!」
「……マリー!行かないでくれ……!!俺は……オリビアなんてもう愛してない!頼む!あんな我が儘で、傲慢な女、誰が好きなものか!俺がマリーと一緒になりたいんだ!な、俺と結婚したかったんだろう?」
何を言ってるんでしょうか、この人は?
(……こんな人を好きだったなんて、私も見る目がなかったわ……)
私はロベルトに近寄り、腕をほどきました。
「……ロベルト、私……。昔は確かにあなたが好きだった。でも、あなたとオリビアの関係を知り、あなたたちが私を陰で馬鹿にしていることを知り、あなたたちと距離を置くことにしたの。正直結婚式だって行きたくなかったわ。今更2人の間に問題が起こったからって私を巻き込まないで。愛人だなんて……!本当に失礼人たち」
ウィル行きましょう、と私はロベルトを残して部屋を後にしました。
私はウィルに手を引かれ、執務室に向かいました。
「……マリー、強くなったな」
「……そう?そう思われているなら、きっとこの国に来て、ウィルの支えがあったからだと思う。ありがとう!ウィル」
私は心を込めて伝えた。そこには、心よりお慕いしていますーーの気持ちを込めて。
「……マリー。本当にたびたび弟がすまない……。ただ、その……。弟のことがあったからではないんだが……」
いつになく歯切れの悪いウィルの顔を少し覗きこみました。
(……照れてるウィルも可愛いっ!)
「……ウィル?」
「……その……実は、昔からマリーが好きだったんだ。でも、マリーがずっとロベルトのことが好きなのは知っていたから……。だから留学したのもある。でも、サンドラでこうしてマリーと再会できて本当に幸せだった。だから……マリー!これからもずっと一緒にいてくれないか?」
「……それって……」
「……ああ、結婚して欲しい!」
「……本当に?ウィル?う、嬉しいっ!!」
私は思わずウィルに抱きつきました。
その後は、お互いの両親にこのことを伝え、帰国と共に正式に婚約することになりました。
私とウィルはサンドラとの貿易ルートも確保し、伯爵領と新たな交易を築きました。
その後のロベルトとオリビアは、聞いたところによると、夫婦仲も悪く、それぞれ外に愛人を作り子供は乳母が育てているとか。
私はあの2人のお陰である意味、目を覚ますことが出来たのでその点だけは感謝しなくてはなりません。
私は今、ウィルと共にとても幸せです。
(了)
1人は、とっても美人で、セクシーなボディが羨ましい同じ年のオリビア・ターナー伯爵令嬢。
もう1人は、隣国サンドラに留学中で将来は伯爵家当主でもあるウィリアム・バミール伯爵令息(22歳)
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男の子なのに、私なんて比べ物にならないくらいのサラサラな金髪に、子犬のようにかわいいブラウンの瞳。いつも優しくて、リードしてくれるとっても大切な人。
ウィルが学園を卒業してから貿易や外交を学ぶために隣国のサンドラに留学してしまって以来、私たち3人は学園でも助け合いながら学園生活を送ってきたわ。
それはそれは楽しい思い出ばかりで……。
と思っていたのは私だけだったみたい。
もともと、どちらかと言えば気が弱くて、オリビアとロベルトの陰で守られてばかりだった私は二人が私をどう思っていたかなんて、あの時まで全く気づきませんでした……。
だって、それまでは、将来はロベルトのお嫁さんになるものだと思って生きてきたから――。
あの日。
そう、学園で成績が優秀だった私は、隣国のロベルトに留学する権利を得て、どうしようかと相談するためにこっそりとロベルトの部屋を訪れたの。こんなこと良くあることだし、幼馴染だから門番から始まって執事や侍女や使用人たちともほぼ顔なじみだから全く問題はなかったのだけど……。
ロベルトの部屋の前に行くと、女性の声が聞こえてきたわ。
良く聞きなれた女性の声――。
オリビアだった。
(何か用事があったのかな?私が一緒でも大丈夫かな?)
そう考えながらドアをノックしようとしたんだけど、その二人の会話を聞いて驚いて動けなくなってしまったの……。
「……ねぇ、ロベルト?卒業したら本当にマリーと結婚するの?マリーはいつもあなたと結婚するって宣言してるみたいだけど?」
「……それはしないよ。正式に婚約もしてないしな。何ていうか……。マリーはちょっと子供っぽいだろう?恋愛対象にはならないしな……。俺は、オリビアがいい。オリビアが最高だよ!」
「……ロベルトったら!」
「……お前の体、本当に最高だよ……」
「もーーうっ!!」
私は少しだけドアに近づき、中の様子を伺いました。
更に驚いたことに、二人は裸でベットにいたのですから……!!
抱き合う二人を目の当たりにし、私は涙をこらえながら伯爵家を後にしました。
(いつもの優しいロベルトはどこに行ったの?なんでなんで?思わせぶりなことをしたの?お子様な私なんて初めから眼中になかったなんて……ひどいわ……)
私はミュゼット伯爵家に戻ると、自室に鍵をかけて思いっきり泣きました。
容姿は、どんなに頑張っても美人になれないから、学園でも常に成績が上位になるように努力したし、伯爵夫人に必要なことはずっつ学んできたのに……。
(あんまりだわ……!!)
私は夜通し泣き崩れ、1日以上泣いたら何だかそれ以上泣くのがもったいないような気がしてなりませんでした。
(そうよ!ちょうど隣国に留学できるんだから、あの二人の結婚式なんて見たくないわ!早く隣国に行く手続きをしなくちゃ!)
私は、早速学園に連絡を入れ、隣国への留学に関して準備を始めました。そして、1か月後、サンドラへと向かいました。
向かった先は、ロベルトの兄であり、幼馴染のウィリアムのところでした。
ウィルにロベルトのことを話したら、部屋が余っているから一緒に暮らして問題ないと言ってくれたので留学期間中はお世話になることにしたのです。両親は未婚の男女が云々いっていましたが、私は家を飛び出しました。
もう思い出の詰まったこの地にいたくなかったのです。
ウィルはロベルトと全く性格が異なり、寡黙で何を考えているか分からないところがある人でしたが、しばらくぶりに会ったウィルは、学園卒業時と全く異なり大人の男性へと変貌していました。
「……ウィル、元気だった?その……何だか随分と大人になったのね!見違えたわ。とっても素敵よ!」
もちろんお世辞ではなく本心でした。
「……そうか?マリーにそういってもらえると何だか嬉しいな……」
照れ笑いするウィルが何だかとっても可愛く見えました。
「……その、弟が済まなかった……」
「……ウィルが謝ることじゃないから……」
「……まさか、オリビアと弟がな……。俺は、弟もその、マリーを好きなのばかり思っていた……」
「……私、馬鹿よね?オリビアとロベルトは恋仲だったのに、気が付かないなんて……。そりゃあ、ロベルトもそんな私なんて好きにならなわよ……」
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そして、半年くらいした頃にロベルトから手紙がきたと伝えられました。
その内容は……。
ロベルトとオリビアが結婚する旨、結婚式に参加して欲しい旨が書かれていました。
「……マリーはどうしたい?」
「……本当はあまり行きたくないけど、心の整理をつけるために行くわ。ウィル」
ーー私の気持ちはもう前を向いている。
ーーだから大丈夫!
そう思って参加を決意したのですが、現実はそんなに甘くありませんでした。
私とウィルは結婚式に間に合うように伯爵家に戻りました。すると、帰国を聞き付けたオリビアが会いに来たのです。
「マリー!会いたかった!」
以前なら私もー!とハグしていたかも知れませんが、少しぎこちない笑顔でオリビアを迎えました。
「……結婚おめでとう」
……上手く言えたでしょうか?
「…もう、マリーったら!勝手に留学するんだから!寂しかったー!でも結婚式に参加してくれるのね。ありがとう。てっきり参加してくれないかと……」
私がロベルトを好きだから、参加しないと思ったのでしょうか。本当に……ひどい。
時間がなかったからごめんね、と伝えると、オリビアから驚きの提案がありました。
「……ねぇ?結婚式で私の準備を手伝ってくれない?ロベルトからもどうしてもって。当日はマリーがいたら緊張しないだろうって。ねぇ?どうかな?」
どうかな?と言われても、まるで決定事項のように話すオリビアに嫌悪感を隠せませんでした。
親友が好きだった男との結婚式に参加させるだけでなく、手伝いまでさせるなんてーー。
(……何て厚かましくて、図々しいお願いだことっ!!)
いかに自分が幸せかアピールをしたいだけなのでしょう。
仕方ないので、今回だけは餞別として手伝いすることにしました。これで、あの2人とは『さよなら』です。
結婚式当日は、オリビアの近くにいて衣装を着る手伝いや、化粧のフォローなどをしました。
「オリビア様は、ロベルト様にとっても愛されているんですよ」
「ロベルト様は、オリビア様にぞっこんで……」
ちらちら耳にする耳障りな情報はもちろんシャットアウト。
途中ロベルトに会いましたが、2人っきりになり何か陰口を言われるのも嫌なので、軽く会釈だけし、おめでとうと伝えました。
(……はぁ。疲れた……。オリビアってあんなに無神経な人だった?)
式に参列するため、大聖堂に着席した頃には疲れ果ててしまいました。幸いなことにウィルが隣でフォローしてくれましたが。
(……自分が幸せだと、他人の気持ちなんてどうでもいいのね……)
オリビアからしたら、所詮私が勘違い女で、2人の恋仲を邪魔したお邪魔虫なのでしょう。私とウィルは結婚式を終えると、すぐさま隣国に戻りました。
そして2人の結婚式に参加し、帰国まで半年を切った頃でした。
(……もうあの2人が結婚して2年近くになるのね……)
留学先での生活は楽しいことばかりで、ウィルと過ごす時間がかけがえのないものになっていました。帰国するのが惜しくなっていたほどです。
私は隣国の言葉もマスターし、留学を終えたら王宮の外交官試験を受けるつもりでした。
ウィルは伯爵家を継ぐために戻るそうです。
そんなある日、またしてもあの2人は……。
忘れかけた頃にやってくるのです。
「……マリー、突然弟が来たんだ。君に会いたいと……」
わざわざ隣国まで来るなんて……。
あまり良い予感はしませんでした。
「……分かりました。ウィル、同席してもらってもいいですか?」
私のお願いに、ウィルは喜んでと手を差し出してくれました。
「……久しぶりね、ロベルト」
私はウィルと一緒にロベルトが待つ部屋に行きました。
「……ああ。結婚式以来だな。元気そうでよかった」
「お陰さまで、ウィルと仲良くやってるから心配しないで」
私たちの様子にロベルトが些か驚いたような表情をしました。
「オリビアは元気?」
私が当たり障りのない会話を始めると、ロベルトは思い詰めた表情で私にこう切り出しました。
「……マリー。オリビアは最近、女の子を出産したんだ」
「……そうなのね。知らなかった。お、おめでとう!良かったわね」
「……ああ。それでその……。難産で体調を崩してしまって…。それで……。もう子供がこれ以上産めないと医師に宣告されたんだ」
「……それはその……お気の毒に……」
オリビアは跡継ぎだから、ロベルトが入婿さしたはずですが、それとここまで来る用事と何の関係があるのでしょうか?
「……それでオリビアが、女が当主になるのは本当に大変だから何とかして男の子が欲しいと言うんだ」
「……えーっと。話が良く分からないのだけど、別に養子を迎えるなり、優秀な婿を迎えるなりすれば良いのでは?」
何が問題なんでしょう?
「……俺もそう思ったから、オリビアにそう話したさ。でもオリビアが…」
あー、もう!オリビア、オリビアうるさい男。
入婿になって頭が上がらなすぎでは?
こんなにうじうじしいだったかしら?
「……オリビアが?」
「……マリーに愛人になってもらって、男の子を産んでもらって、と。子供はオリビアが育てると。マリーは、その……昔から俺のことがずっと好きだったし、逆に喜んでくれるって……」
私は話を聞いてあまりの非常識ぶりに怒りが込み上げてきました。
私がどう話をしようか無言で下を向いていると、ウィルがロベルトをいきなり殴り付けました。
「……ウィル!!」
私は慌て止めに入りましたが、ロベルトの頬は赤く腫れていました。
「……ロベルト、そんなこと伝えにここまで来たのか?最低だな……。マリー、行こうか」
ウィルが私の手を取り、2人で立ち上がりました。
「……ロベルト、さよなら」
「……お、おい!待ってくれ、マリー!」
ロベルトはいきなり私の腕を掴み、引き止めようと必死です。
「……い、嫌!やめて!ロベルト!」
「おい、ロベルト!放せ!マリーが嫌がってるじゃないか!」
「……マリー!行かないでくれ……!!俺は……オリビアなんてもう愛してない!頼む!あんな我が儘で、傲慢な女、誰が好きなものか!俺がマリーと一緒になりたいんだ!な、俺と結婚したかったんだろう?」
何を言ってるんでしょうか、この人は?
(……こんな人を好きだったなんて、私も見る目がなかったわ……)
私はロベルトに近寄り、腕をほどきました。
「……ロベルト、私……。昔は確かにあなたが好きだった。でも、あなたとオリビアの関係を知り、あなたたちが私を陰で馬鹿にしていることを知り、あなたたちと距離を置くことにしたの。正直結婚式だって行きたくなかったわ。今更2人の間に問題が起こったからって私を巻き込まないで。愛人だなんて……!本当に失礼人たち」
ウィル行きましょう、と私はロベルトを残して部屋を後にしました。
私はウィルに手を引かれ、執務室に向かいました。
「……マリー、強くなったな」
「……そう?そう思われているなら、きっとこの国に来て、ウィルの支えがあったからだと思う。ありがとう!ウィル」
私は心を込めて伝えた。そこには、心よりお慕いしていますーーの気持ちを込めて。
「……マリー。本当にたびたび弟がすまない……。ただ、その……。弟のことがあったからではないんだが……」
いつになく歯切れの悪いウィルの顔を少し覗きこみました。
(……照れてるウィルも可愛いっ!)
「……ウィル?」
「……その……実は、昔からマリーが好きだったんだ。でも、マリーがずっとロベルトのことが好きなのは知っていたから……。だから留学したのもある。でも、サンドラでこうしてマリーと再会できて本当に幸せだった。だから……マリー!これからもずっと一緒にいてくれないか?」
「……それって……」
「……ああ、結婚して欲しい!」
「……本当に?ウィル?う、嬉しいっ!!」
私は思わずウィルに抱きつきました。
その後は、お互いの両親にこのことを伝え、帰国と共に正式に婚約することになりました。
私とウィルはサンドラとの貿易ルートも確保し、伯爵領と新たな交易を築きました。
その後のロベルトとオリビアは、聞いたところによると、夫婦仲も悪く、それぞれ外に愛人を作り子供は乳母が育てているとか。
私はあの2人のお陰である意味、目を覚ますことが出来たのでその点だけは感謝しなくてはなりません。
私は今、ウィルと共にとても幸せです。
(了)
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