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10最悪のタイミング

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もう『殿下に塩対応事件』なんて生温いと思える程の『洗脳事件』が発生して……。

事件は、現場で起きているなんてもんじゃなくて……。

まさか、自分の人生がかかってるなんて知る由もないし……。

(はぁ……。屋敷には洗脳された人ばかり……)

とりあえずやらなくてはならないのがあの高濃度ヘンプリンの茶葉の回収と、ブルーローズティーへの差し替えだ。

食堂近くで家令を呼び止め、今度売り出すブルーローズティーをしばらく飲むようにしたいから、モーイエティーは出さないよう伝える。ついでに、藍草豆のメニューも増やしてもらうことにした。

茶葉も家令から無事受取ったので、証拠保管のため鍵のかかる箱に入れておこう。

「ねぇ、このモーイエティーは毎月届くの?」

家令曰く、毎月ホワイティア伯爵領から届くが、婚約者とその家族用の特別上等な茶葉だと言われているそうだ。

(なるほど……。私達家族以外は飲めないようにしているのね……)

それにしても、どうやって洗脳してるのか?

そこに疑問が残る。

何か暗示にかけるような単語とかをエリオット様が囁いているのだろうか?

(これも調べてもらわないとだ……)

謎が謎を呼ぶ。

それにしても、洗脳して乗っ取りなんて……。
ホワイティア伯爵家だけで出来る行為なのだろうか。

ヘンプリンの濃縮にせよ、それなりの技術と費用が必要だ。

(何か裏があるかも知れない……)

背後に何やらきな臭いものを感じる。

茶葉を保管庫に入れ、部屋を出るとまた会いたくないバカップルに遭遇してしまう。

「……お姉様っ!」

私の婚約者のエリオット様と堂々と腕を組んで歩いているオリーブが私を見つけて呼び止めた。

「……エリオット様、ごきげんよう」
一応挨拶をする。

「ジョセフィーヌ!相変わらず、ふてぶてしいな」

「……はぁ」
本当に失礼な婚約者だ。

「ちょっと、お姉様っ!今、お父様たちに報告にいってきたのですよ!」

オリーブがそういうと、エリオット様が愛おしそうにオリーブのお腹を撫でる。

(ま、まさか……!)
私は本当に神様を疑いたい……。

「ははは!実にめでたい!オリーブが私の子供を宿したのだ!めでたいだろう?ジョセフィーヌ?」

はぁ……。
どこにめでたい要素があるのか1ミリも見い出せないけど、このタイミングで妊娠って…!

もし洗脳が溶けたらオリーブ、あなた……。

「お父様は何とおっしゃって?」

平静を装いながも確認する。
現伯爵のお父様の意向に逆らう訳にはいかない……はずだ。

「お父様もそれはそれは喜んで下さって。これで伯爵家も安泰だって。ね、エリオット様?」

「もちろんだとも。この子はそうだな……私とジョセフィーヌとの子供として届ければ立派な跡継ぎになるな。我ながら良い考えだ。ジョセフィーヌ、お前とは白い結婚だから、良かったな?自分の子供が出来て」

「……はぁ。左様ですか。お父様が私の子供として育てろと?」

「それはまだ相談していないが、私が言えば問題ないだろう」

どこから来るんだ?その自信……。

「……では、産むと言うことで宜しくて?」

「お姉様、エリオット様に愛されていないからって……。この子に罪はないの!」

確かに子供には罪はない。
が、その親に罪はあるだろう。
どの口が言うんだか……。

とにかく、ヘンプリンの解毒もまだな状態で妊娠を継続しても良いのかも含めて確認しなくてはいけない。

(まぁ、私の子供として育てることは一生ないけれど……)

冷静に考えてみれば、私が爵位を継げば私が全ての権限を持つのだ。

だから、私の子供として育てる必要もないし、その子供が爵位を継ぐまでの中継ぎを私が最悪すれば良い。

そのことに気がついた私は、逆にオリーブの子供を利用することを考えた。

「では、そのお腹の子供は、伯爵家の跡継ぎとして育てましょう」

二人は驚きながらも、当然という顔で私を見ていた。
あんなに反対していたからだろう。

「それと、オリーブ?あなた、貴族令嬢として純血でもなく、婚約者もいないのに妊娠したのよ?婚約の打診も来ている中で世間体は最悪だわ。あなたはこの家で第二夫人になれるわけないのよ。どうするの?伯爵家を継ぐの?それともどこかに嫁ぎたいの?この際だからハッキリしてちょうだい」

私はキョトンとするオリーブに一気にまくし立てた。

「お、お姉様っ!妊婦にストレスは禁物ですわ!何もそんな言い方しなくたって……。私は伯爵家の跡取りを宿しているだからっ!」

……だから何?なんだが、お得意の嘘泣きが始まる。

「……オリーブ?この際だからはっきり言うわ。あなたが子供を私に託すと言うことは、一生母親だと名乗らない、と言うことよ?宜しくて?その覚悟があるなら、妊娠したことは絶対に他言しないこと。その姿を見られる訳にいかないわ。どこか領地で産まれるまで静養なさい。どのみちエリオット様とは致せないでしょうから。エリオット様、それで宜しくて?」

「……確かにそうだな。ジョセフィーヌの子供になるなら、誰かに見られる訳にはいかないな。そうだな……」

エリオット様が何やらブツブツと考え始めたため、私はその場を去ろうとした時だった。

「お、お姉様っ…!」

オリーブは急に何か閃いたかのように私を呼び止めた。

「この私が日陰の存在になってあげるんですから……!お姉様は偽妊婦して下さいっ!」

何を言い出すかと思えば、偽妊婦って……!

私は小さく頷くと、笑いを堪えながらその場を後にした。
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