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侯爵代行という男(レイ目線)
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翌日。
約束していたこともあるが善は急げ、とばかりにリリーの父親である侯爵代行ことジョセフ・フォンデンベルグのところにローナンと向かっている。話がややこしくならないようアルク殿下と相談し、この際だから一緒に婚約の話をしよう、と現地で落ち合うことになった。
「ローナン。俺は今は、生きてきた中で一番自信が欲しい……」
ローナンは、いつになく自信無さげな主に活を入れようか迷ったのか?無言で大丈夫です、と頷いただけだった。
侯爵代行は、フォンデンベルグ領の外れに近い町にいる。孤児院などがあるエリアとは反対側になる。
(まあ、隠れるなら最適な場所か?)
今日はライバルでありながらも、同じ目的のために戦う同士としてアレク殿下と共にする。
(考えようによっては、稀有な関係だな…)
アレクというある意味最強な同士との交渉は心強かった。
「もうお見えになっているようですよ」
馬車の小窓から外を覗くと、アレク殿下とカイル様の姿が見えた。
「あっちは最強の布陣だな」
「…交渉ではなく、脅迫にならないようにしたいところです」
ローナンの本音が漏れる。
確かに、と思いながら、アレク殿下に挨拶を入れた。
「……では、参ろうか」
ただならぬ空気が漂った。
◇◇◇
「今日は突然時間を作ってもらい、感謝申し上げる」
アレク殿下が侯爵代行にサザーランド公爵家と一緒に来た経緯を話始めた。付け入る隙もないほどだ。
(コイツがリリーの父親か……)
二人が話をしている間、侯爵代行をひたすら観察する。
(……元伯爵家の三男なんてこんな感じなのか?)
一言で言えば、頼りない。優しそうな風貌ではあるが、芯がないのだ。
……流されやすく、自分がないため居場所が作れない。
(リリーのことはきっと何とも思っていないのだろうな……)
手元に念のため持参した侯爵家の調査報告書に目をやる。
この男は妻が死んだ後に侯爵家まで捨てたのだ。
が、まだ腐ってもリリーの父親だ。
結婚式まではきちんと存在していてもらうだけ、だ。
「……つまりは、リリアーヌが選んだ相手を正式な婚約者にして欲しい、というわけですな」
「……決してあの侯爵家とは縁も縁もない女にこの話を漏らさないでもらいたい」
「……イザベラにですか」
侯爵代行は何やら思うところがあるのか口元に手をやり考え始めた。
「……今は彼女がリリアーヌの母親でもある。二人はかなり仲良くやっていると聞いている。彼女の意見も必要ではないだろうか」
俺とアレク殿下は驚きのあまり顔を見合わせた。
「……その話はどこから聞いたものだ?こちらで調べたところ、失礼ながらあなたは前侯爵が亡くなられてからほぼ本邸に戻られていない。つまり、自分では見ていないことになるが?」
俺は怒りのあまり念のため持参した調査報告書を投げつけた。
侯爵代行は調査報告書を恐る恐るめくり始めた。
「……この調査報告書は、リリアーヌ嬢からすべての話を聞いた後に裏付け調査のために影に行わせたものだ。侯爵代行がどのルートから情報をもらっているか知らないが、今いる侍女やメイドはイザベラとやらの息がかかったものしかいない。古参の者はほぼ解雇されている。俺は前侯爵付きの侍女のマリア殿とダニエル殿からも直接話を聞いたが、リリアーヌ嬢の話の裏付けはすべて取れている」
侯爵代行は、調査報告書片手に顔を赤くしたり、青くしたり読み進めていた。
「……こ、これは……?本当なのだろうか……?」
まるで初めて聞いたといわんばかりの狼狽ぶりに俺は本当だ、と頷いた。
「……そもそも、調べたがあなたとイザベラは籍すら入っていないようだが?おっと、先ほどお茶を出しに来たメイドが今の愛する人でしたか」
先ほど紅茶を運んできた若い娘の雰囲気と視線から推測し話をふっかけてみたが、案の定だったようだ。
「……わ、私は本邸の侍女長からリリアーヌのことは毎週報告を受けているが、使用人棟に押しやられ、使用人以下の扱いを受けているなんて……聞いてない!……し、知らなかったんだ!」
「……給料すらもらえず、貴族学院の入学すら手を回されて入れなかったそうだ。まあ、虐げられたおかげで我々はリリアーヌ嬢と会うことが出来たからある意味では感謝しないとだがな」
知らないを連呼され、俺もアレク殿下もキレそうになったが、ローナンが目線で訴えてきた。
「……とにかく、今日のところはリリアーヌが望む人物と婚約することで異存はないからお引き取り願えないだろうか。内密に処理することも約束する」
「……あの女たちはどう処分するつもりだ?今すぐにでも犯罪者として捕らえることも可能だ、ということを忘れるな」
証拠なら十分過ぎるほどそろっていた。後は覚悟次第だ。
どのみち、リリーが正式に侯爵になれば、この父親含め追放されるだろう。俺たちの力を使って、早めにケリをつけるかどうか?だが、婚約者も決まっていない今、早急にことを運ぶメリットがなかった。
「いずれにせよ、正式な婚約者が決まり次第、リリアーヌ嬢は婚約者側で保護させてもらう。せいぜいリリアーヌ嬢に捨てられないよう大切にするんだな」
俺たちはこれ以上ここにいても無意味だと判断し、青ざめる侯爵代行を放置してそそくさと引き払った。
(あとは、リリーの判断を待つだけだ……)
長くて苦しい日々が続きそうだった。
約束していたこともあるが善は急げ、とばかりにリリーの父親である侯爵代行ことジョセフ・フォンデンベルグのところにローナンと向かっている。話がややこしくならないようアルク殿下と相談し、この際だから一緒に婚約の話をしよう、と現地で落ち合うことになった。
「ローナン。俺は今は、生きてきた中で一番自信が欲しい……」
ローナンは、いつになく自信無さげな主に活を入れようか迷ったのか?無言で大丈夫です、と頷いただけだった。
侯爵代行は、フォンデンベルグ領の外れに近い町にいる。孤児院などがあるエリアとは反対側になる。
(まあ、隠れるなら最適な場所か?)
今日はライバルでありながらも、同じ目的のために戦う同士としてアレク殿下と共にする。
(考えようによっては、稀有な関係だな…)
アレクというある意味最強な同士との交渉は心強かった。
「もうお見えになっているようですよ」
馬車の小窓から外を覗くと、アレク殿下とカイル様の姿が見えた。
「あっちは最強の布陣だな」
「…交渉ではなく、脅迫にならないようにしたいところです」
ローナンの本音が漏れる。
確かに、と思いながら、アレク殿下に挨拶を入れた。
「……では、参ろうか」
ただならぬ空気が漂った。
◇◇◇
「今日は突然時間を作ってもらい、感謝申し上げる」
アレク殿下が侯爵代行にサザーランド公爵家と一緒に来た経緯を話始めた。付け入る隙もないほどだ。
(コイツがリリーの父親か……)
二人が話をしている間、侯爵代行をひたすら観察する。
(……元伯爵家の三男なんてこんな感じなのか?)
一言で言えば、頼りない。優しそうな風貌ではあるが、芯がないのだ。
……流されやすく、自分がないため居場所が作れない。
(リリーのことはきっと何とも思っていないのだろうな……)
手元に念のため持参した侯爵家の調査報告書に目をやる。
この男は妻が死んだ後に侯爵家まで捨てたのだ。
が、まだ腐ってもリリーの父親だ。
結婚式まではきちんと存在していてもらうだけ、だ。
「……つまりは、リリアーヌが選んだ相手を正式な婚約者にして欲しい、というわけですな」
「……決してあの侯爵家とは縁も縁もない女にこの話を漏らさないでもらいたい」
「……イザベラにですか」
侯爵代行は何やら思うところがあるのか口元に手をやり考え始めた。
「……今は彼女がリリアーヌの母親でもある。二人はかなり仲良くやっていると聞いている。彼女の意見も必要ではないだろうか」
俺とアレク殿下は驚きのあまり顔を見合わせた。
「……その話はどこから聞いたものだ?こちらで調べたところ、失礼ながらあなたは前侯爵が亡くなられてからほぼ本邸に戻られていない。つまり、自分では見ていないことになるが?」
俺は怒りのあまり念のため持参した調査報告書を投げつけた。
侯爵代行は調査報告書を恐る恐るめくり始めた。
「……この調査報告書は、リリアーヌ嬢からすべての話を聞いた後に裏付け調査のために影に行わせたものだ。侯爵代行がどのルートから情報をもらっているか知らないが、今いる侍女やメイドはイザベラとやらの息がかかったものしかいない。古参の者はほぼ解雇されている。俺は前侯爵付きの侍女のマリア殿とダニエル殿からも直接話を聞いたが、リリアーヌ嬢の話の裏付けはすべて取れている」
侯爵代行は、調査報告書片手に顔を赤くしたり、青くしたり読み進めていた。
「……こ、これは……?本当なのだろうか……?」
まるで初めて聞いたといわんばかりの狼狽ぶりに俺は本当だ、と頷いた。
「……そもそも、調べたがあなたとイザベラは籍すら入っていないようだが?おっと、先ほどお茶を出しに来たメイドが今の愛する人でしたか」
先ほど紅茶を運んできた若い娘の雰囲気と視線から推測し話をふっかけてみたが、案の定だったようだ。
「……わ、私は本邸の侍女長からリリアーヌのことは毎週報告を受けているが、使用人棟に押しやられ、使用人以下の扱いを受けているなんて……聞いてない!……し、知らなかったんだ!」
「……給料すらもらえず、貴族学院の入学すら手を回されて入れなかったそうだ。まあ、虐げられたおかげで我々はリリアーヌ嬢と会うことが出来たからある意味では感謝しないとだがな」
知らないを連呼され、俺もアレク殿下もキレそうになったが、ローナンが目線で訴えてきた。
「……とにかく、今日のところはリリアーヌが望む人物と婚約することで異存はないからお引き取り願えないだろうか。内密に処理することも約束する」
「……あの女たちはどう処分するつもりだ?今すぐにでも犯罪者として捕らえることも可能だ、ということを忘れるな」
証拠なら十分過ぎるほどそろっていた。後は覚悟次第だ。
どのみち、リリーが正式に侯爵になれば、この父親含め追放されるだろう。俺たちの力を使って、早めにケリをつけるかどうか?だが、婚約者も決まっていない今、早急にことを運ぶメリットがなかった。
「いずれにせよ、正式な婚約者が決まり次第、リリアーヌ嬢は婚約者側で保護させてもらう。せいぜいリリアーヌ嬢に捨てられないよう大切にするんだな」
俺たちはこれ以上ここにいても無意味だと判断し、青ざめる侯爵代行を放置してそそくさと引き払った。
(あとは、リリーの判断を待つだけだ……)
長くて苦しい日々が続きそうだった。
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