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細やかな夢(アレク視点)

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私アレクサンダー・ミリオニアは、ミリオニア国の第二王子として生まれた。兄である王太子とは仲も良く、同じ王妃を母に持つ。

 王位継承権は今のところは第二位だが、兄が結婚したので子供が生まれたら順位は下がる。それを目処に、私自身は兄の補佐としての立場にあればいい、と思っているし、最近はカイルの手伝いも楽しくなってきたので、商会をやるのも良いかも知れない。

 そんな少しだけ遠い未来を考えていた時に、カイルが仕事で隣国のキールにいくから一緒にいかないか、と誘われた。ここで、外交的なことや貿易を学ぶのも悪くないと思い、カイルに同行することにした。

 ちなみに、カイルとの出会いは、幼馴染みであるカイルの兄で宰相補佐をしているバークレーから面倒を見てやってくれ、と半ば強引に紹介されたことがきっかけだった。

 カイルは、真面目で頭が切れ優秀な人物だが、あまり隙がなく、可愛げはない。が、謎の才覚があり、流行を見極める力がずば抜けていた。これからますますクラニエル商会は拡大していくだろう。

 そんなカイルが今回目をつけたのが、キール国で行われる舞台劇だった。最初は何で注目したのかわ分からなかったが、流行を作るポイントが押さえられている素晴らしいビジネスモデルがある、のだそうで一緒に行くことにした。
 (後にこの話は、出版社の社長経由で雑談レベルで聞いただけの話だと知る……)

 その舞台劇をお忍びの視察で見に行ったのだが、何と会場は孤児院で、キャストも孤児。孤児院内ではマルシェと呼ばれる市場が開かれ、物が売れていた。何より、舞台劇が素晴らしく、満員御礼で素晴らしい熱気に包まれていた。

 更に私の興味を駆り立てたのは、このビジネスを取り仕切っているのがたった16才の貴族の女の子、ということだった。

 少なくても、私の回りにはその年齢でビジネスをしている女性はいないし、まして貴族なら殊更だった。

 興味を持ちすぎたため、その女性に関して勿論調べることにした。

 その彼女の名前は、リリアーヌ・フォンデンベルグ。キール国の侯爵家の長女で、次期侯爵。16才。最近設立されたミスボス商会のオーナーで、小説家。舞台劇の脚本も手掛けるという。

 家庭環境はよくありがちな貴族の家庭で、数年前に前侯爵である母親がなくなってからは、乗り込んできた義母のイザベラと、その腹違いの妹のエリアルに虐げられ、使用人同様の扱いを受けており、現在は使用人として働かされている。

 婚約者であった伯爵家次男であるロビン・クアイリーは義妹の婚約者となっており、現在は婚約者不在。ただし、サザーランド公爵家次男のアルフォンス・サザーランドと恋仲であり、近いうちに婚約する予定。

――知れば知るほど興味深い女性だな。

 それが第一印象だった。

 そして、出版社で偶然にも挨拶が出来た。
 彼女は、想像していたよりも幼くて、そして、底抜けに可愛いかった。

 従来の貴族女性が持ついわゆる淑女という殻を自分の境遇と自分の力で脱皮した、まるで宝箱のような女性だった。

 こんな女性といたら毎日楽しいだろう。
 こんな女性といたら一緒に仕事をするのも楽しいだろう。

 一瞬で未来が描ける、そんな女性だった。

 だから、キールでも名高いサザーランド公爵家の人間にも認められたのだろう。

――愛する価値のある女性
――守るべき価値のある女性

 それが、リリアーヌだった。

 カイルも彼女に興味がありそうだったが、先手を打ち、彼女に近づきたい旨を告げた。カイルはすぐにその意味を理解して協力してくれることになった。

「アレク様が女性に興味を持つなんて驚きました」
 
 とカイルには言われた。

 それくらい今まではあまり女性に興味もなかった。

 身分的には言い寄ってくる女性はたくさんいたが、特定の婚約者を選ぶには至らなかった。というよりも、拒否していた。

 政治の権力闘争の駒になる気もなければ、王位に就くつもりもない。

 結婚したならば、愛する人と共に国を支え、家族を作りたい。それだけだった。

 そんな自分の細やかな夢にふさわしい女性がようやく見つかった。

 聞けば、ミスボス商会はリリアーヌ嬢が正式に侯爵を継ぐまではオスカーという人物を表にたてる、と。このオスカーという人物の人選もまた素晴らしいと関心した。

(公爵家の妾腹の子供かー)

 そして、サザーランド公爵を味方につけている点も申し分なかった。

 それに、このミリオニアの人間が何人か商会に携わっているのもまた驚きだった。

 (まさか、あのヒュースまでいたとはな)
 
 ますます面白い。

 自分がリリアーヌ嬢と婚約したら、サザーランド公爵家とも揉めるかも知れない。が、そこもまた計算のうちだった。

 少なくても、まだ彼女は誰とも婚約していない。
 その事実だけあれば十分だった。

 彼女がミリオニアに来てくれることになった。多少強引だったが致し方ない。

 まずは先に彼女の名目上の父親に会おう。
そして、ミリオニアで勝負を決める。

負け戦はしないつもりだ。
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