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隣国

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ミスボス商会は、設立を機に孤児院近くに事務所を借りていた。経理などの事務方の部屋の他に、商談室、あとは在庫を保管する部屋と、マルシェに出展したテナントの商品や、商会の商品のショールームなどがあった。

 お陰様で、ミスボス商会は孤児院での劇や、マルシェにそのビジネスモデルの販売。オリジナル商品の卸売りや、孤児院の人材派遣業や、情報調査業など少しずつ規模を拡大していた。

 そして今日は先日ムーン出版の社長(レイの友だちの公爵!)から紹介されたクラニエル次期商会長であるカイル・クラニエル様と事務所で会うことになっていた。

(本来なら、オスカーに任せるんだけど、オーナーである私も是非同席を、と言われ断れず……。裏ボスであることがもうバレてるし…)

 商会内でミリオニア出身のヒュースとオリビアさんにカイル様のことも念のため調査してもらっていた。

 私はその報告を聞くために早めに商会に顔を出していた。

「つまり、特にクラニエル商会との契約は問題はない、ということね」

 まだ先方と話をしていないが、クラニエル商会と契約をするのは、隣国への足掛かりとしては大変魅力的であるらしい。

「……なるほど。了解。ちなみに、オリビアさんが以前働いていたのはクラニエルではないですよね?」

「……ち、違います!クラニエルで働ければ良かったのですが。私がいたのは、まあ、一応ライバルになるのかな?スパーク商会にいました」
 
「……スパーク商会?」

 オリビアさんの態度からするに、スパーク商会はろくでもない商会なんでしょうね……。

 「軍の関係に強い保守的な商会で、スパーク侯爵が取り仕切ってますが、あまり良い噂のない商会です……」

「……そうなのね。わかった。今日はその話はしないほうが良さそうね」

「隠す必要もありませんが、話の流れで必要でしたらで宜しいかと……。まだ、相手の目的もよくわかりませんから」

「確かにそうかも。ありがとう、オリビアさん。とりあえずはオスカーにだけ同席してもらう予定だから」

 そうこう話をしているうちに、先方が到着したとオスカーが呼びにきてくれた。

「ミスボス、きたぜ」
 
「了解。じゃあ、行きましょうか」
 
 オスカーを先頭にクラニエル商会の出迎えに向かった。
 
 ◇◇◇
「本日はわざわざお越し頂き、誠にありがとうございます」
 
 私は久々のカーテシーをし、笑顔で出迎えた。今日は別宅から来賓対尾用のドレスを引っ張ってきて何とか体裁を整えていた。
 
(こういう時だけ淑女教育の有り難みを痛感する……!)
 
 先方のメンバーは、先日同様、次期会長のカイル・クラニエル様と、秘書のアレク様。
 こちらは、オスカーと私とあとはどこかに隠れているだろう影のヒース。
 
 ちなみに、ヒースの調査能力が半端なくて、貴族などの依頼でそこそこ儲かるようになってしまった。

 「このような手狭な場所でお迎えいたしますこと、誠に申し訳ございません。何分、まだ設立したばかりでさほど資金もないものですから……」
 
 私は二人をこの事務所では一番豪華な応接室に案内した。

 カイル様はソファに腰をかけると、その後ろにアレク様がお立ちになり、私はアレク様に椅子を準備しようとしたところ、手で制止されてしまった。
 
(この間も感じたんだけど、この秘書さんからものすごーく特別な視線を感じる……。なんだのだろう?どこかで会ったことがあったかなぁ?)
 
 私は考えながらも、カイル様の正面の席に腰を下した。ほどなくして、オリビアさんがお茶を運んできてくれた。

「早速ですが、リリアーヌ嬢とお呼びしても?」
 
「もちろんですわ。わたくしは、それでは……」
 
「……カイルと呼んでくれ」
 
 ……よ、呼び捨て?
 
「畏まりました。では、カイル様と呼ばせていただきます」
 
 その後、秘書のアレク様から契約したい内容に関して説明を受けた。
 
 「……つまりは、ミリオニアで舞台とマルシェの展開をしたいということ。あとは、わたくしが書いた舞台劇の版権を保持したいということですね」
 
 私は隣に座るオスカーをちらっと顔を見ると、オスカーは深くうなずいてくれた。
 
(特に問題ないので進めろ、ということね)
 
 「左様です。特に問題がないようでしたら、こちらで契約内容をまとめた書類を作成させていただき、一度確認の上、締結とさせて頂きたく思っています。それとは別に、ミリオニアでオリジナルの舞台劇も検討したいので、一度契約の際にミリオニアにお越しいただき、ミリオニアで好まれそうなものをぜひ書き上げていただけたらと」
 
 アレク様のエメラルドグリーンの瞳が拒否することを拒んでいる……!
 
 「……いくつか質問させて頂いてもよろしいでしょうか」
 
 アレク様はどうぞ、と促してくださった。
 
 「概ね契約内容に問題はございません。ただ、ミリオニア向けの舞台劇はあくまでもミリオニア限定での上演ということになりますでしょうか」
 
 「今の段階では、限定というよりは、ミリオニアで流行しそうなものをと考えています。そのため、もしこちらの国でも上演をということであればそれは構いません」
 
 「了解いたしました。それと、お聞きになっているかわかりかねるのですが、現在わたくしは諸事情……と申しますか、お恥ずかしい話、身内の問題であまり長期間外出することが困難な状況になっております。商会も表立ってはオスカーに代表になってもらっているのもその問題があるからなのですが、ミリオニアに滞在することは可能なのですが、数日が限度となりますがよろしいでしょうか」
 
 カイル様とアレク様が小声で相談を始めていた。
 
 「リリアーヌ嬢の事情は、ブレイブ社長からも簡単に聞いているからね。では、契約内容がまとまり次第、契約の調印とミリオニアの視察を二日間で行うということでどうだろう」
 
 カイル様の申し出に私は問題ありませんと答えた。
 
 「では、書面をまとめ次第、オスカー殿に送るので確認をお願いしたい。近日孤児院も見学させてもらっていいだろうか」
 
 「いつでも歓迎します」
 
 オスカーは契約がまとまる喜びからか笑顔で快諾した。
 
「それと、リリアーヌ嬢。ちょっとこれから我々につきあってもらえないだろうか?」
 
 カイル様の突然の申し出に、私は承諾するしかなかった。
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