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デート(仮)のお誘い

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マリーベルさんが風のように去っていき、ようやく静けさを取り戻した別宅をレイと共に後にした。

 (しかし、強烈だった……!)
 
 向かうは孤児院。
 
 辻馬車でレイと向かい合わせに座っている。
 
 (……何か私から話題振ったほうがいいよね?)
 
 無口眼福さん降臨中なレイ。
 
 きっと、どう切り出したら良いのか分からないのだろう。

 「あ、あの……。マリーベルさんは……」

 私が言いかけると……。
 
「すまない……。不快な思いをさせてしまって……」
 
 いつになく意気消沈なレイ。

 (そんなに落ち込まなくても……)
 
 こちらのほうが居たたまれなくなってくる。

 「……あの方は婚約者だったのですか?」

 「あ、いや、あ、そうと言えばそうなんだが……。書類上ではなく、小さい頃の親同士の単なる口約束な感じで……」
 
 何だが歯切れが悪いレイ。あまり詳しく話したくないのだろう。
 
 レイはモゴモゴしながら必死に何かを考えていた。

 「俺と、兄貴とマリーベルは幼馴染みで、マリーベルはどちらかと結婚したかっただと思う。アイツは欲と権力が大好きな女なんだが、裏表なくて素直な奴で。俺の商才と顔が好みだと言われ付きまとわれていた……。ただ、兄貴はマリーベルが大好きで。が、女遊びが激しく、商才がからっきしない。しかし嫡男だ。だから、マリーベルはどっちと結婚すべきか迷っていたのかも知れない……」

 「はぁ……」
 
 なんだそりゃな理由だ。

 「挙げ句の果てに、元々俺と兄貴は母親が違う異母兄弟で仲が悪くて……。兄貴がマリーベル欲しさに俺を消そうとしたから怪我をした、と踏んでいる」

 「えー!だからあの日、倒れてたの?」
 
 ひ…ょえー!恐ろしい…。

 「まあ、殺すと言うより、脅し目的だな、たぶん。俺はマリーベルが昔から苦手だから、結果的には兄貴と婚約してくれて助かったわけだが。どのみち家は兄貴が継ぐし、俺はどこかに婿にいくつもりだったし……」

  ――やはりどの家にもあるのねー、お家騒動は。
 
 私は深くため息をつく。

 「あと、いずれわかるから話しておくが、マリーベルの言っていた弟は、今から会いに行く人物だ」

 「ん?会いに行く?」

 「そうだ。リリーも良く知る人物だ」

 「も、もしかして、オスカー?」
 
 私は導きだした答えを口にした。

 「正解だ。オスカー・ウィングビルド。マリーベルは、彼の異母姉だ」
 
 ひょー!そうでしたかっ!
 
 ――ウィングビルド家。
 もちろん私でも知るこの国の三大公爵家の1つ。

 「ちなみに、俺は……。その……」

 「……その?」

 「俺は、サザーランド家の次男だ。第二夫人の子供にあたる。サザーランド商会の次期会長でもある」
 
 ええーっ!
 
 またまたまたまたまた爆弾投下級!
 
 サザーランドって!!!
 
 こちらももちろん私でも知るこの国の三大公爵家の1つ。

 「えーっと。ちょっと待って!つまり……」
 
 レイは、サザーランド公爵の次男で、次期サザーランド商会の会長。サザーランド商会は、この国で一番影響力を持つ商会。
 
 そして、私が設立するミスボス商会の書類上の代表が、ウィングビルド家のオスカーで。

 「確か、ウィングビルド家も商会、持ってたよね?」

 「ああ、うちより規模は小さいが、ウィングビルド商会がある。マリーベルもああ見えて手伝いしてるよ」

 「えーっと。つまり……。ミスボス商会は、いつの間にかこの国の二大公爵の後ろ楯がある、ってこと?」

 「……おそらく正解だ。まあ、オスカーはあまり関わりたくないから接触はしていないみたいだが。監視は、ついてる。マリーベルはそれも伝えに来たんだろう」
 
 本当に?
 偶然ってすごい!
 神様、ありがとう!
 私を見捨てないでくれてありがとうー!

 「リリーの人を見る目は確かだったんだ」

 やったー!
 さっきまで、あの強烈なマリーベルさんの愛人発言にモヤモヤしてたけど、そんなことなんて一瞬でサヨナラだー!

 「で、リリー。孤児院に行った後、二人でディナーに行かないか?」
 
 それはレイからの思いがけないのデート(仮)の誘いだった。

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