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プロローグ

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「申込ございませんが、お名前がないようです」

 対応してくれた事務員が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。背後では並んでいる生徒や従者などが何事かと噂話をしているようだった。

 私は、15才の春になったので王都にある貴族学院に入学するため朝から事務局を訪ねていた。

 このキール国 五大侯爵家の長女であり、嫡子であるはずのリリアーヌ・フォンデンベルグの名前が入学者リストに何故かなかった。

 学生(侍女や侍従)が列をなしていることもあり、私は入学するため手続きをどうしたら良いかだけ確認し、その場を後にした。

(あざとい……!あの継母イザベラ……!)

 久しぶりにメイド服以外の洋服に袖を通せたかと思ったら、この仕打ち。

(確かに入学書類には目を通したし、入学許可書もあるし。こうして制服も着てるし……)

 どんな手を使ったかは不明だが、継母の嫌がらせもどんどんエスカレートしている。

 私は仕方ないので自宅に戻ることにした。もちろん馬車もないし、表向きは侍女もいないため一人で徒歩で帰る外なかった。

 10才の夏に実の母親が病気で他界。

 確か13才の春に突如、父が愛人とその子供を家に連れてきた。愛人は見るからに色目を使うタイプで、どうやって父に取り入ったかは一目瞭然だったし、更に驚いたのは愛人の子供が私と同じ年齢だったことだった。推測するに、母が妊娠してから囲い始めたのだろう。一応貴族の出らしいが、勘当されて除籍されたそうで、その当時は平民だった。

 愛人の子供はエリアルといい、私が母譲りの貴族特有の金髪碧眼で見る人に冷たい印象を与えるのに対して、エリアルは父譲りの茶色の髪に茶色の瞳。愛らしい表情で誰にでも愛された。

 私からすると、エリアルは本当に悪魔だった。

 私から父を奪い、家を奪い、物を奪い、婚約者も奪ったのに、まだ私の存在が疎ましいらしい。

 そして、滑稽なことに、誰も気がついてないのか?頭がお花畑なのか?
 父は入婿にすぎず、今は私が成人するまでの単なる侯爵当主代行に過ぎないことをわかっていない様子。

(父の子供だからって、婿さえもらえば侯爵当主になれると思ってる?)

 侯爵家の血を引く母の子供である私以外に正当な跡継ぎはいないのに。

 父は領主代行で不在にしがつのため、早くから使用人棟に私を追いやり、記憶の中からまるで侯爵家嫡子はいなかったようにしたいのだろうか?

(それにしても、今回のは想定外!まだまだ修行が足りないな、私……)

 母が他界してからは想定外の連続で、だいぶメンタルが強くなったはずなんだけど。こうなったら少し早いがプランBを遂行しなくては。

 自分の人生をこれ以上犠牲になんて出来るわけないじゃない!

 母は賢かった。

 愛人の存在を恐らく知っていて、触れなかった。
 そして、こうなる予感があったからか、お金と別宅をこっそり残してくれた。

『いい? 私のリリアーヌ。誰かは貴方を幸せにしてくれないの。だから、自分で幸せになるのよ』

 そう。

 だから、私は虐げられた令嬢を卒業する。
 全てを奪い返し、追放してやる!
 後ろ楯なんかもちろん、ない。
 だから。

『私は、自分で後ろ楯を作りますっ!』
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