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57話
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実況
・決勝戦第1マッチ勝者はSTRADAです! 相手チームを一切近寄らせない、精密射撃で追い詰め、ノーダメージでの勝利となりました! 大柳さん、あのODDS&ENDSを完封しきったこの試合いかがだったでしょうか?
解説
・素晴らしいとしか言いようがない、最初から最後まで理想論を並べたような試合でしたね。ここまで完璧な立ち回りをされてしまうと、私としても何も解説することが無くなってしまいますね
1マッチ目が終了する。
なにもやりたいことが出来ずに、誰がどう見ても、あちらの圧勝で試合が終わった。いや、なにをしたいかも分からずに、なにもしない間に終わった。
絶望
俺の今の頭の中にはこれしかない。自分がやりたかったことは一切できず、向こうは、全て思い通り。普段なら、すぐに反省と改善が頭に浮かんできて、次の作戦が自然に形になっていくのだが、今は一切頭が働かない。
俺がモニターを虚ろな目で見続けていると、俺の付けているヘットフォンが強引に外される。それと同時に、力ずよく肩を掴まれ椅子ごと勢いよく左に回転させられた。
今俺の目の前にあるは、モニターではなくタイガの顔だった。
「ふざけるな! いつまでその調子でいるつもりだ!」
タイガが俺の頬を両手で平手打ちするかのように挟む。タイガの真剣な顔は何度も見て来たし、つい先日怒っている所を見た。
それを今鼻先ほどの距離で見ている。
「パソコンの前に座ったからには、試合が始まったからには集中しろ! 他のこと全部忘れて、勝つためだけに全力を注げ!」
タイガの俺の頬を挟む手の力が徐々に強くなっていく。
「よく見ろ! 今あなたの周りにいる人は誰だ!? ここまで誰と一緒に戦ってきた!」
俺に対して、いや、俺達に対して、こんなにも強い言葉を使うのは、初めての経験で、ただ真剣な眼差しを見続けることしかできない。
ただただ聞こえた声が頭の中で反響する。
「今あなたは一人じゃない! 僕たちがいる。なんでそれを見ようとしない!」
見ようとしない? いや、そんなことは決してない。俺は自分だけの力で、ここまで上がってきたなんて、一度も思ったことは無い。みんなの力があってこそ、勝ち上がってこれたんだ。
それに、3人がいなければ、今の俺はここに存在すらしていない。
そんな大事なことを、忘れるわけがないじゃないか。
「いつまで過去に縛られているんだ! そこから脱したから、またゲームの世界に戻ってきたんだろ!」
ここでようやくタイガが言わんとしていることが理解できた。タイガ言っているのは、俺の感情の矛先がチームメンバーではなく、あいつらに向いていることを指しているのだ。
3人とは戦っている最中も、見ている物が違ったのだ。
「ここで負ければ、あなたはまたあの何もない日常に戻ることになるぞ! 選んだのではなく、選ばされた結果で!」
俺は、選んでこの世界に戻ってきたというのに、また逃げることになるのか? 俺以外の要因のせいで。
そんなの絶対に嫌だ。
「なんのためにここに戻ってきた! 何をするためにここに戻ってきた!」
俺は、勝つために、ここに。
いや、違う。純粋にゲームを楽しむため。ただただ楽しいゲームに夢中で本気になりたかったからだ。
そんなこと、二度と許されないと思っていたし、後悔することはあれど、戻ってくることなんて、これぽっちも想像していなかった。
それにも関わらず、俺は自分のことだけに必死になっていた。目の前の戦闘もおざなりになり、敵ではなく、あいつらとの過去ばかりを追っていた。
「見てろ! 僕が変えてやる! 行くよ! テツ、ニシ!」
タイガが俺の頬から手を離し、PCに向かう。
今この光景を全ての人に見られていたのだろう。ただ、そんなことタイガには関係なく、この舞台に上がったからには勝つ。
俺の為に、今タイガは本気で俺の背中を叩いてくれたのだ。
「おお!」「ええ!」
作戦も曖昧で、伝達ミス、中途半端な行動。それの全てが俺の集中力不足が原因で起きている。とても大きい1勝を相手に与えてしまった。
実況
・ODDS&ENDSのチームは少しトラブルでしょうか? 大丈夫ですかね?
解説
・そうですね。ちょっとヴィクター選手の調子が上がりきっていない感じだったので、タイガ選手が喝を入れたところですかね?
実況
・なるほど。オフラインならではの光景が見られましたね
解説
・そうですね。選手みんな真剣にやっているので、どうしても議論が白熱したり言葉が強くなってしまうんですが、ある意味それは本気だから見れることなんですよね
実況
・それが日本一を決める決勝戦ともなればなおさらですよね。ある意味生で見れるのは貴重な経験かもしれませんね。それではそろそろ準備が整ったようなので、第2マッチを開始したいと思います。
第2マッチがスタートした。
・決勝戦第1マッチ勝者はSTRADAです! 相手チームを一切近寄らせない、精密射撃で追い詰め、ノーダメージでの勝利となりました! 大柳さん、あのODDS&ENDSを完封しきったこの試合いかがだったでしょうか?
解説
・素晴らしいとしか言いようがない、最初から最後まで理想論を並べたような試合でしたね。ここまで完璧な立ち回りをされてしまうと、私としても何も解説することが無くなってしまいますね
1マッチ目が終了する。
なにもやりたいことが出来ずに、誰がどう見ても、あちらの圧勝で試合が終わった。いや、なにをしたいかも分からずに、なにもしない間に終わった。
絶望
俺の今の頭の中にはこれしかない。自分がやりたかったことは一切できず、向こうは、全て思い通り。普段なら、すぐに反省と改善が頭に浮かんできて、次の作戦が自然に形になっていくのだが、今は一切頭が働かない。
俺がモニターを虚ろな目で見続けていると、俺の付けているヘットフォンが強引に外される。それと同時に、力ずよく肩を掴まれ椅子ごと勢いよく左に回転させられた。
今俺の目の前にあるは、モニターではなくタイガの顔だった。
「ふざけるな! いつまでその調子でいるつもりだ!」
タイガが俺の頬を両手で平手打ちするかのように挟む。タイガの真剣な顔は何度も見て来たし、つい先日怒っている所を見た。
それを今鼻先ほどの距離で見ている。
「パソコンの前に座ったからには、試合が始まったからには集中しろ! 他のこと全部忘れて、勝つためだけに全力を注げ!」
タイガの俺の頬を挟む手の力が徐々に強くなっていく。
「よく見ろ! 今あなたの周りにいる人は誰だ!? ここまで誰と一緒に戦ってきた!」
俺に対して、いや、俺達に対して、こんなにも強い言葉を使うのは、初めての経験で、ただ真剣な眼差しを見続けることしかできない。
ただただ聞こえた声が頭の中で反響する。
「今あなたは一人じゃない! 僕たちがいる。なんでそれを見ようとしない!」
見ようとしない? いや、そんなことは決してない。俺は自分だけの力で、ここまで上がってきたなんて、一度も思ったことは無い。みんなの力があってこそ、勝ち上がってこれたんだ。
それに、3人がいなければ、今の俺はここに存在すらしていない。
そんな大事なことを、忘れるわけがないじゃないか。
「いつまで過去に縛られているんだ! そこから脱したから、またゲームの世界に戻ってきたんだろ!」
ここでようやくタイガが言わんとしていることが理解できた。タイガ言っているのは、俺の感情の矛先がチームメンバーではなく、あいつらに向いていることを指しているのだ。
3人とは戦っている最中も、見ている物が違ったのだ。
「ここで負ければ、あなたはまたあの何もない日常に戻ることになるぞ! 選んだのではなく、選ばされた結果で!」
俺は、選んでこの世界に戻ってきたというのに、また逃げることになるのか? 俺以外の要因のせいで。
そんなの絶対に嫌だ。
「なんのためにここに戻ってきた! 何をするためにここに戻ってきた!」
俺は、勝つために、ここに。
いや、違う。純粋にゲームを楽しむため。ただただ楽しいゲームに夢中で本気になりたかったからだ。
そんなこと、二度と許されないと思っていたし、後悔することはあれど、戻ってくることなんて、これぽっちも想像していなかった。
それにも関わらず、俺は自分のことだけに必死になっていた。目の前の戦闘もおざなりになり、敵ではなく、あいつらとの過去ばかりを追っていた。
「見てろ! 僕が変えてやる! 行くよ! テツ、ニシ!」
タイガが俺の頬から手を離し、PCに向かう。
今この光景を全ての人に見られていたのだろう。ただ、そんなことタイガには関係なく、この舞台に上がったからには勝つ。
俺の為に、今タイガは本気で俺の背中を叩いてくれたのだ。
「おお!」「ええ!」
作戦も曖昧で、伝達ミス、中途半端な行動。それの全てが俺の集中力不足が原因で起きている。とても大きい1勝を相手に与えてしまった。
実況
・ODDS&ENDSのチームは少しトラブルでしょうか? 大丈夫ですかね?
解説
・そうですね。ちょっとヴィクター選手の調子が上がりきっていない感じだったので、タイガ選手が喝を入れたところですかね?
実況
・なるほど。オフラインならではの光景が見られましたね
解説
・そうですね。選手みんな真剣にやっているので、どうしても議論が白熱したり言葉が強くなってしまうんですが、ある意味それは本気だから見れることなんですよね
実況
・それが日本一を決める決勝戦ともなればなおさらですよね。ある意味生で見れるのは貴重な経験かもしれませんね。それではそろそろ準備が整ったようなので、第2マッチを開始したいと思います。
第2マッチがスタートした。
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