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42話
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「持っていく間に、デバイスが壊れないように、気を付けろよ」
俺達は通話を繋げたまま、明日の準備をしている。荷詰めをしてしまうと、もう自宅では練習が出来ないため、ギリギリになっての準備だ。明日から当日までの3日間。場所は埼玉のライブなどをする会場だ。そこそこの広さの会場で、観客も入るらしい。俺もオフラインで試合するのは始めてなので、少し緊張している。
「いやー、ほんと楽しみですね!」
一方相変わらずのタイガである。大勢の前でゲームをするということを理解できていないわけではなく、タイガにとってはそんなこと関係ないのだ。大好きなゲームを大好きな人たちと優勝するための場所くらいの感覚なのだろう。実に頼りがいがあっていいな。タイガを見ていると、自然といつもの自分い戻れる。これほど味方にいて頼りになる選手はいないだろう。こういった意味で。
「というか、もう後三日で終わりなのかって感覚の方が大きいよ」
「なに言ってんだよ? 世界まで行くんだからここで終わりなわけないだろ?」
テツは、全然緊張をしていないようだ。4日間の合宿から帰ってきてから明らかに調子がいい。さらにそれが作用して、自信にもつながっているみたいだ。俺とタイガに遠慮して、俺たちの指示に従っていただけで、もともと自分で考えられる力を持っている人間だ。ゲームの頭の使い方と経験次第でいくらでも化ける可能性を秘めている。
もしかしたら、このオフラインで何か掴んで、さらに飛躍するかもな。
「ニシずいぶん弱気だね~」
ニシは、準々決勝ではあそこまでの結果を残したにも関わらず、まだ不安や自信を持てずにいるように見える。だけど、それは今プレイしていないからなだけで、フォージを通せば、そんな心配は一切なくなるだろう。
開場の場所も、ホテルの場所も、確認済み。明日は、開場の最寄り駅で集合の後タクシーで会場入り。まだ、開場は作り終わっていないようなので、練習用の控室で、2日間練習できるようだ。移動費もホテルの宿泊費も全部運営が出してくれるそうだ。初の世界大会実施にしてはかなりの大盤振る舞いだとは思う。
リリース前から話題で、リリース後も決して少なくないプレイ人口を誇っているとはいえ、競技シーンが人気だとは限らないからだ。カジュアル層と、上手い人間のプレイを見たがる層は同じじゃない。それでも、ここまで大きく告知をして、選手にも手圧サポートする当たり、本気でゲームの覇権を取りに来ているのは伝わってくる。
まだ、断言することは出来ないが、この調子で上手くいけば、プロリーグを設立して、そこに所属する選手には、運営自らが給料を払うなんてことも、ありえそうだ。
まあ、そんないつになるか分からないようなことを想像するのはいったん止めよう。俺たちは今目の前にやらなければいけないことが、あるから。
一回全員であっているとはいえ、実際に横並びでやったことが無いので、どんな感じになるのだろうか?
ヘッドホンを付けて、画面に集中するから、大した違いは感じないのだろうか? もしそうだとしても、勝った時に周りに3人がいることを想像すると、物凄く嬉しい気持ちになる。
「他になにか忘れ物無いかな?」
タイガも身支度が終わったようで、みんなに確認する。その場にいるわけではないから、直接見れるわけではないが。
「ちゃんと、ゲーム内設定分かるようにしておけよ。向こうに行ったら、初期化されたパソコンでやるから、全部一から設定しなおしだぞ」
「「あ、忘れてた」」
タイガとニシが、声を合わせてそういう。
「俺はちゃんとやったぞ」
「お前は、この間のやつがとっておいてあるだけだろ」
テツと俺は、ネットカフェでやった時のが残っているから、今回再びする必要は無かった。そうはいっても、俺は、もともとスマホの写真で取っておいてあったのだが、テツは、そんなことすっかり忘れていて、ネットカフェで設定し直していたのだ。その時に、またすぐに必要になるからと、写真を撮らせていた。
俺がある程度経験があるからいいが、もし全員が競技初参加だったとしたら、舞台に上がる前に、ある程度の差が出来てしまう。こういった所で、チームに入っているかいないかの違いが出てきてしまう。
「でもさ、本当によくここまで来たよね」
恐らく雰囲気的に全員の準備が終わり、もう通話を切るか、という流れになる時にニシがそう言う。
「俺さ、みんなで始めたときは日本一なんてなれないと思ってたんだよね。だけど、今はその目標が決して、夢物語ではないところまで来てる」
いつもの気弱な発言ではなく、ようやく形になり始めている夢の大きさに動揺しているようだ。それはきっとニシにとっては想像以上に大きいものだったのだろう。
「おいおい………。縁起でもないこと言うなよ」
そう言うテツもいつものような、声の張りが無い。
「いや、冗談とかじゃなくて本当のことなんだよ」
珍しく、テツに対しても真面目に返答するニシにテツも黙る。きっと思い当たるふしがあるのだろう。
俺はどうだろうか? 俺は。
「俺もぶっちゃけそう思ってた。だけど、この選択に言い訳をしないために、仕事を辞めた。3人となら、叶えたいと思う夢が見れそうだったから。全力になれると思ったから」
一度諦めた夢。完全に崩れ去ったと思っていた、世界への再挑戦。
もうこの先、あんなに夢中になれることは無いと思っていた。このまま消したい過去から逃げ続けて、惨めに暮らしていくと本気で思っていた。
「僕は全然そんなことなかったですよ」
そんな時、きっぱりと違うと言えるタイガ。
「お前はまた、そうやって………」
珍しくニシがタイガに対して、呆れ声を向けるが。
「テツがいて、ニシがいて。ヴィクターさんが来てくれた。この4人でなら日本は余裕だと、ずっと思ってましたし、今も思っています。世界はまだ分かんないですけどね」
ニシを遮るように、タイガが続ける。一番年下で、年相応のタイガだが、このチームの支柱はタイガである理由がよく分かる。
「すべてに絶望した僕を、ゲームの世界に連れてきてくれたヴィクターさん。その後、ボロボロだったテツと会って」
「タイガと会ったばかりの俺は、笑うことすらできなかったっけな? それなのに、一人で楽しそうに、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらゲームしているお前を見て、なんでそんなに楽しそうなのかと、不思議に思ったのを今でも覚えているよ」
タイガにテツが続く。
「そして、悪評立ちまくってたニシを二人で更生させたんだよな」
「おい! やめろよその話!」
え? なにその話。俺知らないんだけ? めっちゃ聞きたいんだけど!
「そして、ヴィクターさんが復帰。皆がお互いが助けあって今の形があるんだよ」
「そう言えば、俺達全員カスみたいな存在だったのか」
テツの言葉に全員で笑うが、まさにその通りだ。ただ、こんな軽口を言えるほど、それぞれの出来事は過去のものになったんだな。
「むしろここにいる全員がその道を通っていなかったら、ここにたどり着いていなかっただろうな」
本当に奇跡みたいな集まり方したな。
嫌なことは無いに越したことは無いけど、まあ、その分何かしらで返ってくるってことなんだな。
「まさに、ODDS&ENDSですね!」
「いいチーム名だな」
「じゃあ、軽く日本一になって、チーム名の由来を優勝インタビューで話すか!」
「それは最高だな!」「うん!」「いいね!」
思わぬ形でなった始まった、決起集会。
実力も気合も十分。
いよいよ明日会場へ。
俺達は通話を繋げたまま、明日の準備をしている。荷詰めをしてしまうと、もう自宅では練習が出来ないため、ギリギリになっての準備だ。明日から当日までの3日間。場所は埼玉のライブなどをする会場だ。そこそこの広さの会場で、観客も入るらしい。俺もオフラインで試合するのは始めてなので、少し緊張している。
「いやー、ほんと楽しみですね!」
一方相変わらずのタイガである。大勢の前でゲームをするということを理解できていないわけではなく、タイガにとってはそんなこと関係ないのだ。大好きなゲームを大好きな人たちと優勝するための場所くらいの感覚なのだろう。実に頼りがいがあっていいな。タイガを見ていると、自然といつもの自分い戻れる。これほど味方にいて頼りになる選手はいないだろう。こういった意味で。
「というか、もう後三日で終わりなのかって感覚の方が大きいよ」
「なに言ってんだよ? 世界まで行くんだからここで終わりなわけないだろ?」
テツは、全然緊張をしていないようだ。4日間の合宿から帰ってきてから明らかに調子がいい。さらにそれが作用して、自信にもつながっているみたいだ。俺とタイガに遠慮して、俺たちの指示に従っていただけで、もともと自分で考えられる力を持っている人間だ。ゲームの頭の使い方と経験次第でいくらでも化ける可能性を秘めている。
もしかしたら、このオフラインで何か掴んで、さらに飛躍するかもな。
「ニシずいぶん弱気だね~」
ニシは、準々決勝ではあそこまでの結果を残したにも関わらず、まだ不安や自信を持てずにいるように見える。だけど、それは今プレイしていないからなだけで、フォージを通せば、そんな心配は一切なくなるだろう。
開場の場所も、ホテルの場所も、確認済み。明日は、開場の最寄り駅で集合の後タクシーで会場入り。まだ、開場は作り終わっていないようなので、練習用の控室で、2日間練習できるようだ。移動費もホテルの宿泊費も全部運営が出してくれるそうだ。初の世界大会実施にしてはかなりの大盤振る舞いだとは思う。
リリース前から話題で、リリース後も決して少なくないプレイ人口を誇っているとはいえ、競技シーンが人気だとは限らないからだ。カジュアル層と、上手い人間のプレイを見たがる層は同じじゃない。それでも、ここまで大きく告知をして、選手にも手圧サポートする当たり、本気でゲームの覇権を取りに来ているのは伝わってくる。
まだ、断言することは出来ないが、この調子で上手くいけば、プロリーグを設立して、そこに所属する選手には、運営自らが給料を払うなんてことも、ありえそうだ。
まあ、そんないつになるか分からないようなことを想像するのはいったん止めよう。俺たちは今目の前にやらなければいけないことが、あるから。
一回全員であっているとはいえ、実際に横並びでやったことが無いので、どんな感じになるのだろうか?
ヘッドホンを付けて、画面に集中するから、大した違いは感じないのだろうか? もしそうだとしても、勝った時に周りに3人がいることを想像すると、物凄く嬉しい気持ちになる。
「他になにか忘れ物無いかな?」
タイガも身支度が終わったようで、みんなに確認する。その場にいるわけではないから、直接見れるわけではないが。
「ちゃんと、ゲーム内設定分かるようにしておけよ。向こうに行ったら、初期化されたパソコンでやるから、全部一から設定しなおしだぞ」
「「あ、忘れてた」」
タイガとニシが、声を合わせてそういう。
「俺はちゃんとやったぞ」
「お前は、この間のやつがとっておいてあるだけだろ」
テツと俺は、ネットカフェでやった時のが残っているから、今回再びする必要は無かった。そうはいっても、俺は、もともとスマホの写真で取っておいてあったのだが、テツは、そんなことすっかり忘れていて、ネットカフェで設定し直していたのだ。その時に、またすぐに必要になるからと、写真を撮らせていた。
俺がある程度経験があるからいいが、もし全員が競技初参加だったとしたら、舞台に上がる前に、ある程度の差が出来てしまう。こういった所で、チームに入っているかいないかの違いが出てきてしまう。
「でもさ、本当によくここまで来たよね」
恐らく雰囲気的に全員の準備が終わり、もう通話を切るか、という流れになる時にニシがそう言う。
「俺さ、みんなで始めたときは日本一なんてなれないと思ってたんだよね。だけど、今はその目標が決して、夢物語ではないところまで来てる」
いつもの気弱な発言ではなく、ようやく形になり始めている夢の大きさに動揺しているようだ。それはきっとニシにとっては想像以上に大きいものだったのだろう。
「おいおい………。縁起でもないこと言うなよ」
そう言うテツもいつものような、声の張りが無い。
「いや、冗談とかじゃなくて本当のことなんだよ」
珍しく、テツに対しても真面目に返答するニシにテツも黙る。きっと思い当たるふしがあるのだろう。
俺はどうだろうか? 俺は。
「俺もぶっちゃけそう思ってた。だけど、この選択に言い訳をしないために、仕事を辞めた。3人となら、叶えたいと思う夢が見れそうだったから。全力になれると思ったから」
一度諦めた夢。完全に崩れ去ったと思っていた、世界への再挑戦。
もうこの先、あんなに夢中になれることは無いと思っていた。このまま消したい過去から逃げ続けて、惨めに暮らしていくと本気で思っていた。
「僕は全然そんなことなかったですよ」
そんな時、きっぱりと違うと言えるタイガ。
「お前はまた、そうやって………」
珍しくニシがタイガに対して、呆れ声を向けるが。
「テツがいて、ニシがいて。ヴィクターさんが来てくれた。この4人でなら日本は余裕だと、ずっと思ってましたし、今も思っています。世界はまだ分かんないですけどね」
ニシを遮るように、タイガが続ける。一番年下で、年相応のタイガだが、このチームの支柱はタイガである理由がよく分かる。
「すべてに絶望した僕を、ゲームの世界に連れてきてくれたヴィクターさん。その後、ボロボロだったテツと会って」
「タイガと会ったばかりの俺は、笑うことすらできなかったっけな? それなのに、一人で楽しそうに、ぎゃあぎゃあ騒ぎながらゲームしているお前を見て、なんでそんなに楽しそうなのかと、不思議に思ったのを今でも覚えているよ」
タイガにテツが続く。
「そして、悪評立ちまくってたニシを二人で更生させたんだよな」
「おい! やめろよその話!」
え? なにその話。俺知らないんだけ? めっちゃ聞きたいんだけど!
「そして、ヴィクターさんが復帰。皆がお互いが助けあって今の形があるんだよ」
「そう言えば、俺達全員カスみたいな存在だったのか」
テツの言葉に全員で笑うが、まさにその通りだ。ただ、こんな軽口を言えるほど、それぞれの出来事は過去のものになったんだな。
「むしろここにいる全員がその道を通っていなかったら、ここにたどり着いていなかっただろうな」
本当に奇跡みたいな集まり方したな。
嫌なことは無いに越したことは無いけど、まあ、その分何かしらで返ってくるってことなんだな。
「まさに、ODDS&ENDSですね!」
「いいチーム名だな」
「じゃあ、軽く日本一になって、チーム名の由来を優勝インタビューで話すか!」
「それは最高だな!」「うん!」「いいね!」
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