上 下
39 / 71

34話

しおりを挟む
 俺は今帰りの新幹線に乗っている。

 タイガからオフライン進出の連絡を受けた翌日も、母さんの元に行った。昨日よりも顔色はよく、普通に会話もできた。思っていた以上に回復早く、手術から3日後には普通病棟に移動できた。
 そこで母さんにもゲームのことを話した。どうしても自分の口で話したかったからだ。想像してた通り、母さんも俺の頑張りたいことを、受け入れてくれた。
 自分が一番大変な時だというのに、母さんも父さんと一緒で俺のことばかり気にしている。違った点といえば、父さんは仕事の事、母さんは食生活や体のことだった。こんなところで、父と母の視点の違いを感じた。

 しかし、それでも共通していたのは、俺が頑張りたいと言った「ゲーム」を肯定してくれたところだった。そういえば、実家にいたときは、食事の時間すらゲームに充てていたかったから、食卓で食べずに、部屋で食べていたことを思い出す。
 あの時から、ずっと支えてもらっていたんだな。
 スポーツ選手が優秀な成績を残すのに、必要なものは「環境」「指導者」「家族の支え」と言うのを聞いたことがある。ゲームの世界でもきっと同じなのだろう。当時の俺は環境が最悪だったが今は違う。
 後は必要なのは、俺の努力だけだ。今回の帰省でよりそれを強く実感した。

 俺が実家に戻ってきて、まだ4日しか経っていない。母さんもやっと落ち着いた段階だ。それにも関わらず、なぜ俺がもう新幹線に乗って東京に戻っているのか? 母さんに追い返されたからだ。
 そうは言っても別に悪い意味ではなく、今頑張らなければいけないことが目の前にあるのなら、それに集中しなさいと、言うことだった。
 全く持ってその通りではあるものの、それを病床の母さんに言われるのかとは思った。父さんの口ぶりはなるべく実家にいて欲しい感じだったし、母さんも初めはそう言っていた。
 母さんの強さと、父さんの可愛らしい一面が見れたことにより、自分が愛されていることをより深く実感できた。
 だから、俺はその日のうちに実家を出た。帰りは深夜バスでいいかとも思ったのだが、少しでも早くゲームがしたいのと、腰を悪くする可能性を考慮して、新幹線で帰ることにしたのだ。

 俺達は、後10日ほどでフォージの日本一、そして世界大会出場を賭けた最後の試合がある。帰ったらこの4日分を取り戻さないといけない。
 とりあえず、準々決勝がどんな感じだったのかを知るために、新幹線の中でアーカイブを見ることにした。
 チームのチャットに今から東京に帰ることを連絡したが、タイガ達からは、オフライン進出以外のことは何も聞いていない。
 タイガから「待ってます」の一文が来ただけだった。
 3人は慢心せず、準々決勝があった、その日の夜から既に練習を始めていたようだ。今回3人で出たことによって、何か掴めたものがあったのかもしれない。俺も遅れを取らないように、頑張らなければ。

 そんな時、テツから個人チャットの方にメッセージが届いていることに気が付いた。

「お母さんが無事だったようで本当に良かったです」

「ありがとう。今回は本当に迷惑かけてごめんね」

「いえいえ、全然気にしないでください。結果的に勝てましたから、なんの問題もありません」

「そう言ってくれて、嬉しいよ。俺も帰ったら今まで以上に頑張るよ」

「ヴィクターさん。そこでちょっとお話というか、ご相談があるのですが。帰って時間が出来たら、俺に電話もらえますか?」

 個人的に連絡をくれただけかと思っていたが、どうやらそうでは無いらしい。

「分かった。良いよ」

「ありがとうございます! 家にいて寝てない間はずっとパソコンつけっぱなしにしておくので、いつでも大丈夫です! よろしくお願いいたします」

 なんだか、文の様子だとタイガとテツには知られたくない話のような気がする。
 二人に隠して俺に相談とは何だろうか? 俺への苦言といった悪い話ではなさそうだが。
 それにしても、いつも会話ではあんなにフランクに話しかけてくるのに、文章だと妙に固さがあるな。これは、もともとそうなのか、それとも相談内容的にこうなっているのか、どっちなんだろうか?

 配信のアーカイブを見ていたはずが、いつの間にか寝てしまい、起きたら降りる駅に到着していた。
 みんながどんな戦い方をしたのかも見たかったが、せっかくなので帰ってからゆっくりと見ることにする。取り敢えず電車を乗り換えて、これからのことを色々考えよう。準決勝、決勝の相手のアーカイブも見て、対策を練らないといけないしな。

 やはり、やることがいっぱいだ。だけど、楽しみで仕方がない。

 最寄り駅に着いた。真っ直ぐ家に帰ろうと思ったが、腹も減ってきたし、家の冷蔵庫にも何もなかったことを思い出す。だけどもう、時間的に近くの飲食店空いていないので、コンビニよる。しばらく家に引きこもるだろうから、大量に買い込んだ。

 両手にビニール袋を下げながら、ようやく家にたどり着いた。なんだか久々の我が家なような気がする。実家に帰ったのも久々だったが、その間どこかに出掛けたことも一度もなかった。
 今までどれほど、つまらない生活をしていたかがよく分かる。本当に会社と自宅の行き来しかしていなかった。

 買ってきた物を冷蔵庫に入れ、今食べる弁当をパソコンの前に置く。パソコンを起動させると、まだテツが起きていることが分かった。
 どうしようか? 弁当を食べながら、アーカイブを見ようと思っていたのだが。ニシとタイガはもう落ちているようなので、今がちょうどいいかな?

 通話をかけると、すぐにテツが出た。

「お疲れ様です。今帰って来たところですか?」

「うん、そうだよ」

「お疲れの所、ありがとうございます」

「いや、全然大丈夫。それで話ってなに?」

 いつもの、元気のいいハキハキといた声ではなく、神妙な感じだ。

「ヴィクターさん。俺を鍛えてくれませんか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる

月都七綺
青春
『はっきりとした意識の中で見る夢』 クラスメイトは、たしかにそう言った。 周囲の期待の圧から解放されたくて、学校の屋上から空を飛びたいと思っている優等生の直江梵(なおえそよぎ)。 担任である日南菫(ひなみすみれ)の死がきっかけで、三ヶ月半前にタイムリープしてしまう。それから不思議な夢を見るようになり、ある少女と出会った。 夢であって、夢でない。 夢の中で現実が起こっている。 彼女は、実在する人なのか。 夢と現実が交差する中、夢と現実の狭間が曖昧になっていく。 『脳と体の意識が別のところにあって、いずれ幻想から戻れなくなる』 夢の世界を通して、梵はなにを得てどんな選択をするのか。 「世界が……壊れていく……」 そして、彼女と出会った意味を知り、すべてがあきらかになる真実が──。 ※表紙:蒼崎様のフリーアイコンよりお借りしてます。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

処理中です...