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29話

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 今朝は慌ただしく起きた。

 父さんと昨日の夜遅くまで起きていたため、目が覚めたら、もう、昼の12時だった。結局、俺はリビングの椅子で、父さんは居間のソファで寝た。寝て起きたはずなのに、寝る前以上に疲れが出ているような気がする。
 よくよく考えれば、昨日急に新幹線に乗って実家まで帰ってきて、しかも椅子で寝てるようじゃ、疲れなど取れるはずがない。

 そんな俺は今何をしているかというと、父さんが入れてくれた風呂に入っている。その間父さんは母さんの入院の準備をして、俺が出たら交代することになっている。
 そろそろ試合が、始まる頃だが、タイガから終わったら必ず結果の連絡を入れるから、心配するなと言われているため、俺は今自分がすべきことをする。
 ここに来る前は、皆のことが心配で仕方が無かったが、今は絶対に大丈夫だと確信している。なぜなら俺が一番、3人の強さを知っていて、その3人がと言っているのだから。
 俺は風呂から上がり、体をふいて自室に向かう。昨日の夜に自分の服があるかどうかを確認しそびれたからだ。部屋に入り、クローゼットを開けると、置きっぱなしだった服がちょうどあった。この歳になれば、成長で服が着られないと、言うことも無いので、安心だ。ずっと、クローゼットの中に入っていたため、少し湿気臭いような気もするが、まあしょうがないだろう。服に着替え、父さんに声をかける。

「父さん、空いたよ」

「おお、分かった」

「今どんな感じ?」

「持っていく物の準備は、全部終わっている。一応確認しておいてもらえるか? で、後は書類なんだけど、ちょっと分からないところがあるから、見てもらえると助かる」

「おっけー。分かった。後はやっておくよ」

 そう言って、父さんは服を脱ぎながら風呂場へ行った。準備を引き継ぐために、進行状況を確認したが、ほとんど終わっているようだ。

 言われた通り、荷物の確認をするが、特に問題はない。もし、なにか追加で必要なものがあったら、その都度持っていけばいいだろう。書類の方に目を通すが、ここに一筆入れるのは、俺じゃなくて父さんだろうから、風呂から出てきたら教えればいいかな? 入院費も窓口での支払いのようだから、特に振り込みの準備をする必要もなさそうだ。母さんが、どのくらい入院するかも分からないが。

「大丈夫そうか?」

「あー、びっくりした。もう出てきたの? 早くね?」

 急に後ろから声がしたから、驚いてしまった。そういえば、父さんは風呂から出るのが物凄く早い人だった。その癖して、熱い風呂が好きな人だ。
 そう言えば、俺が入るときは、ちょうどいい温度だったな。

「で、大丈夫だったか?」

「ああ、荷物は平気だね。書類はいくつか名前を書くところがあるくらい」

 俺は書類を持ち、父さんに場所を教える。それを見て、ささっと書き込んだ。

「よし、じゃあ、病院に行くとするか」

「そうだね」

 そう言って俺は母さんの荷物を持って、父さんは車の鍵と書類を持って家を出てる。俺は、荷物を後部座席に置いて、助手席に乗る。

「椅子で寝てたんじゃ、全然疲れがとれなかっただろう。病院に着くまで寝てていいぞ」

 車を出して、すぐに父さんがそう言ってきた。体はとんでもなく怠さを感じる物の、眠気はそこまで無い。それに病院に着くまでは、せいぜい30分ほどだし、それに俺には起きていなければいけない理由がある。

「いや、そういうわけにもいかないんだよね」

「なんかあるのか?」

「チームメンバーから連絡が来るのを待ってる」

「なんの?」

「今日の大会の結果」

「は!? 今日大会があるのか?」

 急に声が大きくなった。なんなら横目でちらちら、こちらを見てきそうな勢いだ。

「うん」

「出なくて、大丈夫だったのか?」

「絶対に勝ってくるって言われたから、大丈夫」

「それ、なんの大会? もし、今回負けても大丈夫なやつなのか?」

 今まではなら、ここまで俺がやっていることを、直接聞いてこなかったが、昨日の会話でそのストッパーが無くなったのかな?

「フォージっていう、今かなり流行っているゲームの世界大会を賭けた、日本予選の準々決勝。今日勝てばオフラインでの準決勝、決勝が2週間後にある。負けたらその時点で終わり」

 ゲームなんか一切やらないから、きっと何を言っているか分からないと思うが、きちんと話を聞いてくれている。

「そんな大事な大会なのに、来てくれてありがとうな」

 父さんは、さっきまでは凄く慌てていたものの、少し冷静になっていた。そんな、感謝されることでは全くない。これは、ゲームだからではなく、自分の家族が大変だというときに、駆けつけるのは息子として当然のことだ。
 もしかしたら、ニシは俺に対して言いたいことがあったかもしれない。なら親じゃなくて、ゲームを選べよと。だけど、それでも、送り出してくれた。

「大丈夫。絶対に負けないよ。俺のチームメンバーは強いから」

 その後は、昨日とは反対で、俺が父さんの前でひたすら話し続けた。タイガとの出会いから、つい昨日会ったことまで。恐らく、父さんからすれば、自慢話を聞かされ続けていたと思う。言葉が詰まらない程、俺は3人のことが好きなのだ。
 思えば、会社を辞めてからは、あの3人以外の人とちゃんと話すのは、初めてかもしれない。俺はずっと、話したかったのだろう。今一緒に夢を追っている人達が、どれほどの俺に、喜びと楽しみを与えてくれている人間かを。この歳になってから友達の自慢話をする日が、したいと思える日が来るとは思わなかった。

 そんな話をしていると、病院に着いた。
 少し離れた駐車場に車を停めて、荷物を持って歩いていく。昨日とは違い、入り口を通ると中は明るく、多くの人がいる。普通に生活していると、目に入りずらいが病院を必要としている人が、想像よりも多くいることに驚く。

 昨日と同じ道を通り、母さんのいる病室に向かう。
 病室に入ると、母さんの姿が見えた。

「母さん」

 病室には、他の患者さんもいるのでなるべく声の大きさはおさえる。上から見下ろす形にはなるが、昨日よりは顔色も良さそうだ。

「ああ、ありがとうね。いろいろごめんね。心配させて」

「無事でよかったよ。父さんから連絡来たときは、驚いたけど」

「調子はどうだ?」

「手術で切った所とかは痛むし、凄い疲れがたまっている感じで、体は重いけど、それ以外は特に。昨日は麻酔が効いてたけど、ちゃんと来てくれたこと分かったてたからね」

 母さんは、声を抑えているのではなく、出しづらいのだろう。少しかすれてもいる声は聞き取りづらいが、昨日の今日で、そのくらいなら良い方なのだろう。

「2、3日様子を見たら、病室も普通の場所に移動できるみたい」

 それまでは、荷物は必要最低限と言われたので、服と日用品くらいしか持ってきていないが、病室を移ったら、なにか暇つぶしの道具でも持ってきてあげよう。

「いつまで居られるの?」

 母さんが、顔だけを動かして俺の方を見る。

「まだ決めてない」

 父さんに話したことを、今ここ話す必要は無いよな。

「そう、じゃあ要らられるだけ、お父さんと居てあげて。きっと家で1人だと寂しいだろうから」

「分かった。母さんにも、また会いに来るよ」

 少し話をした後に、病室を後にする。想像よりも、母さんの調子が良さそうでよかった。
 父さんは書類を提出するために、窓口に向かった。俺はタイガから連絡が来ていないかを確認したかったため、先に病院を出た。

 入り口を出て、すぐにあるベンチに腰をかけ、スマホを取り出すと、一見通知があった。

「よっっっしゃあああ!!!」

 俺は自分の体の前で、小さくガッツポーズをした後、そのまま拳を上に突きあげる。

 画面に映し出されたのは、メッセージではなく、準決勝進出を示したトーナメント表だった。






















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