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第二十六話 実力差

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「スパイだと分かった以上遠慮はいらねぇ! やるぞ!」

 先ほどのカエデの攻撃を見て多少うろたえたものの、それでも男の戦意は消えていなかった。

「おお!!!」

 それに続き周りの集団も荒らげた声を上げる。本人たちにとっては、この決められた人生を逆転できるかもしれないチャンスのため必死になるのは当然のことだ。
 それにカエデとブレンにとってはさっきの牽制は逆効果であったかもしれない。それまでは、たった二人の相手に油断している者も多かった。ブレンの強さは知られていたが、カエデは未知数。噂になってはいたもののたかが二人。みんなそう思っていた。
 しかし、それはさっきのカエデの一発で全て吹き飛んだことだろう。

「うおおお!!!」

 お互いが火蓋を切るタイミングを見計らっていた。その時、カエデ達の右斜め前にいた剣士がブレンの視線が少しずれたのを見て、たった1人で切りかかってきた。なんの合図もなかったが、前衛にいた数人もタイミングはずれたものの、その勇敢な男に連れられ同じく剣を振りかぶり突進してくる。
 討ち破れば実力に箔が付く。それを携え城に上がる。より良い生活がかかった人間の底力が垣間見えた瞬間であった。

「嬢ちゃん!」

 判断の早いブレンは、一番最初に切り込んできた男の方を向き切りかかってくるのを自身の剣で受け止める。それを見てチャンスだと思った残りは、その隙だらけのブレンの背中に狙いを定めるが。

「バーーーーーン」

 それをカエデが願いの力でシールドを生成し受け止める。耐久力を図ったことは無いが大型の異物の突進を耐えるくらいの強度はあるため、人間の振り下ろす剣程度の力ではビクともしない。
 これも、異物との闘いの経験が活きており、今までであればこんなんにも早く生成することはできなかった。しかし、今はブレンの行動を見てからでも間に合うほどスピードは上がった。それは熟練された力であるのと同時に少女の判断力の速さも相まってのことである。
 ブレンもカエデのことを信じてこの行動をとった。

「うりゃ!」

 相手がカエデのシールドに気を取られている間にブレンがつばぜり合いをしている男をめいっぱい蹴り飛ばす。
 こんな過去の戦争を体験したものであってもこんな魔法は見たことがない。彼らのカエデに対するスパイ疑惑はより強固なものとなった。

「ビュンッ! ビュンッ! ビュンッ!」

 人数有利を取った状態でのファーストコンタクトに失敗終わり、うろたえる前衛にさらに追い打ちをかけるかのようにカエデが弾状の衝撃波を放つ。

「ウワッ!」

 それは全弾相手の剣を持つ手に命中する。その衝撃に耐えきれず、つい命の要であるけどを地面に落とす。
 見たことがない物を意識外から出されては避けきるほうが難しい。カエデとその他の人間ではハナから実力以上の差があった。
 すっかり恐怖を植え付けられた3人はその場から逃げ出そうと後退りする。

「バカヤロォ!!!」

 それを圧で制するかのように大きな声を出すのは、ずっと偉そうに喋っていた、ブレンの旧パーティーメンバーだった。その声が響いた途端に、相手側のすべての動きが止まった。

「うろたえるな! ここで逃げたら今まで以上に惨めな生活を送るだけだぞ!」

 ブレンとの生活に戸惑いはあったものの、惨めさなど一切感じていなかったカエデにとってはこの発言にどれほどの意味があるかは分からなかった。
 しかし、相手側にとっては奮起するためにこれ以上にないほどの言葉だったようで、敗走寸でのところでとどまった。

「勝手なことをするから、そうなるんだ!」

 さらにもう一喝。これのおかげで、カエデ達にとって有利だった雰囲気が完全に対等になった。その男から漂う胡散臭い貧弱キャラとは裏腹に、司令塔としての役割はその場の誰よりも適任であったようだ。
 前衛にいた者は落とした剣を拾うと再び注意深く構える。その目には今まで以上の闘志がこぼれ出ていた。

「あーあ、出たよ出た。後ろからキャンキャン吠えるのは変わらずだな」

「言うことを聞かなかったお前は、一人落ちるところまで落ちたがな」

 構えていた剣を自らの肩に担ぎ直し、余裕を見せるブレンは戦闘中にも関わらず味方の後ろの方で堂々と仁王立ちをしている男に投げかける。それを聞くや否や、瞬時に投げ返してくる男もなかなかのものである。
 お互いの本質を理解しているからこそ、折り合えない部分があったのだろう。しかしながら、当の本人がこの場の全員の望みを叶える気がないことは、ブレンからしたら見え見えであった。それにも関わらず、その言葉を信じてやまない集団は、彼に魅了されているのか、それともそんな小さな望みすらも直視しなければならないほど、壁際に追い込まれているのか。

「なぁなぁ、お前ら」

 対立する二組の間には確かに一線が引かれておりその雰囲気は天国と地獄そのものであった。剣はそのままで、片足を休めるかのように右足に体重を傾けると呑気にも一番近くにいる相手に話しかける。

「この生活そんなに苦しいか? 俺は全然平気だぞ?」

 相手の神経を逆なでさせるようなことを口にするブレンは笑顔を浮かべている。その圧倒的大物感に後ずさりするものもいれば、場の空気すらも読めない馬鹿だと言うものもいるであろう。
 しかし、その状況を俯瞰的に見れば勝敗は明らかである。

「スパイに加担して大金を稼いでいるお前に何が分かる!」

「そうだそうだ!」

 自分たちの琴線に触れられてしまったかのように、勢いで押し切ろうとする怒鳴り声だ。しかし、その言葉の端には羨ましさを感じられるものが含まれている。

「そんなに言うほどか。ごめんな嬢ちゃん。こんな生活に巻き込んじまって」

 そんな連中は眼中になく、体はそのままで首だけひねり後ろの上空で浮遊しているカエデの方に視線をやる。そんな無防備な状態であっても、先ほどのように斬りかかってくるものは誰もいなかった。
 それは、後ろに控えている少女がきちんと警戒しているのもあるが、なにより指示がなければ彼らが行動することは無い。ブレンはそれを分かっていた。

「いえいえ、全然大丈夫ですよ!」

「そうか苦しくなかったか?」

「住めば都ですから!」

「なんだそれ?」

 得意げに胸をはる少女の言っていることが理解できずに首をかしげるブレンであった。




















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