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15.僕は浦尾とマミヤンを結びつけるために奥の手を披露する話

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 浦尾はメディアの前によく出る。あるテレビ番組が彼の資産家ぶりを取り上げていた。
 浦尾は皇帝などと言われているが、気さくだ。「こういうのも面白いでしょうか」と、頼まれてもいないのに惜しげもなく豪勢なプライベートを開示する。
世界各国主要都市に住まいを持っているが、首都圏での商談が多いので、都内に複数のマンションを購入している。僕らの家に近い武蔵小杉のタワーマンションの最上階も所有しているようだ。インターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニを乗り回して家を紹介する姿が放送された。
見ている方は珍しい品々にうっとりと同時に、皇帝の気遣いに感じ入り、ファンになってしまう。僕もすっかりファンもなっていた。
そこで僕は武蔵小杉周辺を張り込みし、インターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニが現れるのを待った。手な車だ。すぐわかるだろう。案の定、皇帝は堂々とやってきた。
 タワーマンションのエントランスにあるガーデンエリアで僕は日向ぼっこしている猫のふりをして様子を伺っていた。
「おや、イコだ」と浦尾皇帝は猫のふりをしている僕の正体をあっさり見破った。やはり只者ではない。
浦尾は僕の方にそっと近寄り、ゆっくりと腕を伸ばして僕の頭を撫でた。
その手が冷たかったのが印象深い。
浦尾はインターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニに手を振って、駐車場に進ませた。そして「ではご機嫌よう」と僕に言ってエントランスに消えた。
僕はますますファンになってしまった。カッコいいなぁ。
その時、浦尾に代わってインターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニを運転していた人物のことを僕は意識していなかった。その人物が後にマミヤンに決定的なダメージを与える毒を持った華であると気付かなかった。この時、気付いていれば。後悔先に立たずと、いいつつ、気付いても役立たずの能無し不細工の僕に何ができよう。

僕は浦尾とのファーストコンタクトでこの人物の計り知れない器の大きさを感じた。僕は浦尾を究極の伴侶であると結論した。
かくなるうえは何がなんでもマミヤンと浦尾を一緒にしてみせる。それこそが我が女神、愛しのマミヤンへの恩返し。
浦尾は世界各国を飛び回っているが、都内で顧客と定期的に会うため、あちこちに所有するマンションに一定の周期で現れるようだ。武蔵小杉のタワーマンションにも愛車のインターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニは月に一度、第三金曜日にやってくるのを僕は発見した。
その頃、マミヤンは女子大生をやっていて、縁もゆかりもない大学のミスコンに勝手にエントリーされては優勝してしまうので困っていた。お父さんはMCシンの遺作発表プロジェクトに駆り出されて大忙しだ。僕は彼らがいない間、こっそりと武蔵小杉に通った。
僕にはあまり時間がなかった。
浦尾は今、世界の最重要人物の一人となっていた。世界中が彼の圧倒的な才能、才能が産む莫大な利益、そしてその遺伝子を狙っていた。世界中の女たちがスナイパーとなって浦尾皇帝を狙っていた。
ハリウッド女優やパリコレモデルといった強力な布陣の中、僕は間違いなく最弱スナイパーだ。
その頃、僕は老いぼれてヨボヨボし始めていた。役立たずの能無し不細工の老いぼれという絶望的なハンデを抱え、武蔵小杉まで歩くのは体に応える。しかしこの絶望にこそ僕は突破口を見出していた。
浦尾皇帝よ、ワガハイの奥の手をご照覧あれ。

僕は金曜日にタワーマンションのエントランスで日向ぼっこする猫のふりをし続けた。
「こんにちは。また会えたね」と浦尾は毎度、僕の頭を撫でていくようになった。ジェントルマンだなぁ。
僕はこうして浦尾との距離を縮めつつ、機が熟すのを待った。
浦尾が僕の頭を撫でること百回目、僕は百一回目でいよいよ打って出ることにした。浦尾と僕のファーストコンタクトから既に数年が経過していた。
インターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニは綱島街道を通り、浦尾は横浜ベイエリアで顧客と会合してから武蔵小杉のタワーマンションに寄ろうとしていた。渋谷方面での仕事が多いが、浦尾は渋谷の人混みが苦手だ。武蔵小杉くらいがちょうどいいとよく漏らした。
多摩川を渡り、浦尾はタワーマンションに向かって車を走らせる。インターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニは地下駐車場に続くエントランスに入っていくために一瞬、止まった。
その瞬間、僕はエントランスの定位置から一気に駈け出し、インターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニの前に飛び出した。
衝撃音。
タイヤが軋む音。
浦尾が車から飛び出して叫ぶ。
「大丈夫か」

僕は因縁をつけてマミヤンと浦尾を結び付けるため、当たり屋になってインターナショナル・クライン・ブルーのランボルギーニに跳ねられたのだ。
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