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十話 続き

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ご飯が炊けました♪と聞こえた。
あくびをしながら体を起こす。
隣を見ると、山田くんはまだ目をつむっている。
寝ているのか起きているのか。
僕はとりあえず山田くんをそのままにして、キッチンのほうへ向かった。
しかしそのとき、呼び鈴が間抜けな音を家中に響かせる。
四人目の訪問者にしては来るのが早すぎるか。
もしかして食料の入ったダンボールが届いたのかもしれない。
僕は玄関のほうへ方向転換しようとした。
すると、山田くんは僕のパーカーの裾を引っ張った。
「スズキくん…。」
山田くんがゆっくりと体を起こす。
「ああ。僕が出てくるから。」
「…ありがとうございます。」
パーカーの裾から手を離された僕は、自由になって鳥だった前世を思い出し、部屋中を飛びたくなったけど今はやめた。
大人しく玄関に向かう。
そして、ドアを開けた。
目の前には髪の長い女の子。
「しょうたくんっ!」
「えっ?」
そう認識した瞬間には勢いよく僕の胸に飛び込まれていた。
背中を思いっきり床に打ちつける。
「いったあ…。」
前方からバタンと音がした。
僕の手が離れたので玄関のドアも自動的に閉まったみたいだ。
「あれ。スズキくん?」
女の子が僕のお腹の上からしゃべった。
聞いたことのある声。
絶賛馬乗り中の女の子の顔をよく見る。
「太陽…ちゃん…?」
そこには僕が死にたくなった原因の一つがいる。
うわあ。マジか。
僕の過去トラウマランキング第一位に何度も躍り出て、殿堂入りした張本人だ。
彼女はパァッと華やぐような笑顔になる。
「われのこと覚えててくれたんだ!というかなんでスズキくんがしょうたくんの家に?」
途端に太陽ちゃんはきょとんとした顔を見せる。
昔から本当に表情がくるくる変わる子だなあ。
そこが僕は大好きだったんだけど。
今、なんかいろいろ思い出してきた。
「というか重たいんだけど…。」
馬乗りされるとか山田くん以来だし、好きだった女の子と密着するとか下半身が反応しそう。
バレたら一巻の終わりだ。
「あっ!ごめん~!」
太陽ちゃんは足を上げて、座標を僕の上から玄関のタイルの上に移した。
「べつにいいけど…。」
後ろから足音が聞こえた。
今の騒ぎで山田くんも玄関にやって来たらしい。
「太陽…。」
「しょうたくん!」
「あの。」
僕は地面で這いつくばりながら口を開いた。
「とりあえず中で座って話さない?」

その後、僕は椅子取りゲームで負けたので、一人だけ立ち話をすることを強いられている。
奥のソファーに太陽ちゃん。
手前のソファーに山田くんが座る。
まあ家賃払ってないし当たり前だけど。
机の上には僕が淹れた紅茶のカップが三つ。
「それで、スズキくんはどうして俺の妹を知っているんですか?」
山田くんが僕を見た。
「えっと。太陽ちゃんは僕のお母さんのお兄さんの子供で…。」
ややこしいなあ。
「っていうことは、俺と太陽はスズキくんといとこってことですか?」
山田くんがまとめた。
「…そうだね。」
苦笑いで答える。
まずい。
僕の脳内で黒歴史アルバムが大放出して、えらいことになってやがる。
まさか太陽ちゃんのお兄さんが山田くんだとは思わなかった。
顔はよく見ると似ているけど、雰囲気が全然違うし。
まあたしかに僕が出会ったことのある山田さんは、二人以外いないけどさあ。
山田くんが口を開いた。
「あの、二人はいつどこで知り合ったんですか?」
そんなの僕は秒で思い出せる。
今でもフラッシュバックのようによく思い出すからだ。
でもなんとなく太陽ちゃんと顔を見合わせる。
すると、太陽ちゃんがしゃべる!と言わんばかりに自分を指を差した。
僕の最も大事としている譲り合いの精神で太陽ちゃんに答えてもらう。
「あのね、われが小学校一年生のときにパパとお出かけしてたら、スズキくんとスズキのママに会ったの!」
合ってるよね?と僕を見た。
僕は頷いて、その続きを話す。
「それで、僕のお母さんと太陽ちゃんのお父さんが喫茶店に行こうってなったみたいで、僕たちも一緒に連れて行かれたんだ。」
山田くんを見ると、顔が無表情だった。
僕、何か変なこと言ったかなあ。
あまり機嫌が良くなさそうだ。
「…そうなんですね。」
山田くんはやっと相槌を返す。
山田くんも僕と太陽ちゃんが出会っていた頃、嫌なことがあったんだろうか。
ああ、そうか。
監禁まがいの被虐待児ってこの子だったんだ。
それなら黒歴史くらいあるか。
そういえば、僕は山田くんの詳しい過去をあまり知らない。
僕も聞こうとしないし、山田くんも聞いてこない。
こんなに朝から晩まで毎日一緒にいるのにだ。
寝るときも、ソファーに座っているときも、風呂場までぴったりくっついて暮らしているのに。
すると、ふいに山田くんは前見たときのような優しい笑みを浮かべた。
「ご飯食べましょうか。」
と言って。
「そうだね。」
僕は笑い返し、
「やったー!!」
太陽ちゃんは立ち上がって小躍りを始めた。
太陽ちゃんといることは、僕だけじゃなく、山田くんにとっても何かポジティブな気持ちになれるようなことなのかもしれない。

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