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第10話 トミーの決意
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湖の一件から、ディッキーはダンを無視するようになった。ダンが話しかけても何も答えず、食事の際に隣に座るとすぐに席を立った。あまりのひどさにデレクやジョンが注意しても全く聞かない。一週間も続くとダンの方が怒りを爆発させた。
「お前なんなんだよ! いつまでも陰険なことしやがって!」
戦車の外にみんなを集めて、デレクが銃の撃ち方を教えている最中だった。既に砂の上に腰を下ろしていたディッキーは、遅れてきたダンが近づくと立ち上がって場所を変えようとしていた。
「陰険な方が変態よりマシだろ?」
「は?」
ダンが喧嘩腰に声を荒げる。
「誰が変態だよ? くそチビ」
ディッキーは明後日の方へ顔を向けて返す。
「人の服、無理矢理脱がそうとしといてよく言うよな? 気持ち悪りぃから寄ってくんじゃねえよ」
幼馴染みのディッキーが、本当にダンのことをそんなふうに思っているはずがない。明らかに挑発している。
「お前ぶっ殺――」
「いい加減にしろ!」
ダンを遮って、デレクが凄みのある声で言った。しん、と沈黙が降りてきて、みんなの気配が強張る。デレクは鋭い目をディッキーに向けた。
「ディッキー、謝れ」
ディッキーは不満たっぷりの顔をデレク向ける。
「なんでオレが謝んだよ?」
「お前が悪いからだ」
ディッキーはぎゅっと唇を結んで下を向いた。
「いっつもオレが悪いんだ」
彼はそう残し、ふてくされて戦車へ走っていった。
ジョンは後を追おうとしたが、
「ほっとけ」デレクに止められた。「あいつはやることがガキ過ぎる。一人になって頭冷やした方がいい」
「でも……」
ジョンは言いかけたけれど、デレクは何事もなかったようにみんなへ向けて説明を始めた。それで出かかった声は喉元から下がっていくしかなかった。
戦車へ戻った時、ディッキーはぶつぶつデレクやダンへの不満をこぼしながら、厨房でトミーの手伝いをしていた。ジョンの思った通りだ。
ディッキーとダンがムードメーカーだったこともあり、二人の喧嘩は戦車全体の空気を重くしている。そして、みんな多少ディッキーに気兼ねを感じながらもダンの方についていた。おそらく、デレクがそうだったからだ。この戦車で唯一、二人の間の諍いに興味がなさそうだったのはトミーだ。それが、ディッキーにとっては拠り所となっているらしく、彼は何かにつけて厨房へやって来ては入り浸った。意外にも、トミーは一つも文句を言わずにディッキーの好きにさせている。
「トミー、今日はよろしく。忙しかったらぼくも手伝うから言ってよ」
トミーは巨大なケーキにクリームで装飾を施しているところだった。視線をじっとケーキに置いたまま、
「邪魔だから出てけ」
この日は最年少の仲間、ビリーの誕生日だった。ちょうど十歳。数日前にそれを知ると、少年たちはチャンスとばかりに大はしゃぎでお祝いしようと口々に言った。ここのところ雰囲気の悪かったこともあったのだろう。それで、トミーは急きょ乗員分のご馳走とバースデーケーキを作る羽目になっていた。
夜になった。濃紺の鮮やかさから、空気が冴え渡っているのが分かる。地平線の上に広がる闇のさ中で鋭く光る星々の群れが、いつもより近くに見えた。
みんなは戦車の視察口やハッチから顔を出し、一段と美しい砂漠の夜に感嘆の声を上げていた。すごくいい誕生日パーティになりそうだ。ジョンの心も久々に浮き立った。
トミーの作ったご馳走はなかなかのものだった。メインは前日に買ったヤギだ。内臓を取り出した胴の部分に、肉と塩と臭い消しの香辛料を詰め、バーナーで毛を焼き落としてこんがり色がつくまで蒸し焼きにしたものらしい。ディッキーが自分で作ったかのように自慢げにそう話していた。確かに、ヤギ特有の臭みは消え、すっきりとした味でやわらかい。ジョンは正直、これほどおいしいものを食べたことは、数えるほどしかなかった。他にも、野草をペースト状にして香辛料と混ぜたカレーもいい味だったし、常備しているトマト缶で作ったスープもいつも通り酸味と甘みがあっておいしい。普段はスープとパンくらいしか食べられない少年たちは、すべての料理をむさぼるようにしてぺろりと平らげた。
最後にケーキの登場だ。
トミーが三段になったケーキを大皿に乗せて運んでくると、みんな「おおー!」と歓声を上げた。ディッキーの様子を見に行った時よりもさらに大きくなっており、ジョンも面食らってしまった。トミーは嫌そうにしながらも、かなり気合を入れて作ったらしい。高さがありすぎて危なっかしく揺れるケーキを見て、少年たちは「慎重に運べよ」「ひっくり返すなよ」とらんらんと輝かせた目をくぎ付けにして言う。トミーは煩わしそうに眉を寄せていた。
ケーキが本日の主役、ビリーの前に置かれる。ケーキの上に一本だけたてられた蝋燭にトミーが火をつけた。誰かが明かりを消す。暗がりで小さくて暖かいオレンジ色の火がゆらめき、ビリーの顔に陰影を作り出す。彼は、ふうっと息を吹きかけて火を消す。真っ暗になると同時に割れんばかりの拍手が起こった。
「ビリー、おめでと!」
あちこちで声が上がる。明かりがつくとビリーはくすぐったそうな笑みを浮かべて言った。
「オレも、もう二けたかぁ。年取ったなあ」
周囲の気配がぴたりと止まって、それから一気にみんなが吹き出した。デレクもディッキーもダンも笑った。トミーでさえ口元を緩めている。久しぶりに楽しい雰囲気が訪れていた。
みんなでわいわいと騒ぎながらケーキを頬張っていると、ジョンのポケットの中からブー、ブーと音がした。びっくりして、ちょうど口へ入れたところだったケーキを変に吸い込んでむせ返る。隣のディッキーがゲラゲラ笑いながら背中を叩いてくれた。
ポケットの中を探り音を立てている物を取り出すと、バード戦車長に渡された通信機だった。背中に緊張が走る。
席を立って静かな所へ場所を移した。一人になると、心臓のドクドクいう音が鼓膜に響いてきた。通信ボタンを押す。
「ジョン。久しぶりだなあ。元気か?」
一年の間にすっかり耳に馴染んだ戦車長の声。なんだか胸が温かくなり、ひどく安心してしまった。
「元気です! ありがとう。バード戦車長は? みんなはどうです?」
ジョンは当然「元気だ」という答えが返ってくるものだと思っていた。けれど、戦車長は言葉を濁した。そして静かに言う。
「トミーはいるか?」
「トミー?」
予想外のところに話が飛んで、頓狂な声が出てしまった。
「いるけど……」
「代わってくれ。あいつに話した方がいい」
それでジョンはトミーに通信機を渡しに戻った。
トミーはかなり長い時間、戦車長と話していた。しばらくして、いつもの強張った表情で戻ってくると、彼は呼びかけた。
「掃除兵」
みんなが一斉に顔を上げた。トミーはしまったというように顔を伏せてから、言いにくそうに、
「ジョン」
「何?」
「ちょっと来てくれ」
トミーが先になって、みんなに聞こえない静かな場所へ移動する。そこには、なぜか荷物がまとめて置いてあった。トミーは深く深く息をつくと、声を低めて話し始める。
「料理長が死んだ」
「え⁉」
「他の戦車との交渉中に揉めたらしくて、戦車長が相手側の兵士に銃向けて脅されたんだと。一番に止めに入ったのが料理長で、それで、撃たれたらしい……」
トミーは淡々とした口ぶりだったけれど、最後の方、声は尻すぼみに小さくなった。ジョンの脳裏に料理長の顔が浮かんでくる。トミーを送り出した時の、あの柔らかい表情。「愛想は悪いけど腕はいいぞ」。そう言った料理長は自慢げだった。トミーはジョンに向けていた目を足元へ落とす。
「相手はデレクのいた戦車だ。バード戦車長がデレクを逃がしたってバレて、それでだったんだってよ。ディッキーんとこの変態野郎もいたらしいから、そいつが情報漏らしたんだろうな」
トミーは言葉を切り、穴を開けようとするほどに、何もない床を凝視する。
「……なにが革命だよ」
つぶやくと彼はぱっと顔を上げ、ジョンではなく窓の外を見つめて言う。
「オレはバード戦車長のとこに戻る。料理長がいないんじゃ、厨房も大変だろうからな。他の奴らには言うなよ。掃除兵どもと一緒にいるのが嫌んなって帰ったって、そう言っとけ。ほとんど事実――」
「トミー」
ジョンは思わず遮ってしまった。
「こんなことになって…」
自分から声を上げておいて、彼は言い淀んでしまった。言葉を探したけれど、何をどう言えばこのやりきれない気持ちが伝えられるか分からなかった。
「ごめん……」
仕方なくそう言ってうつむいた。トミーが大きく息をつく気配がする。
「別にお前が悪いわけじゃない。あっちこっちでみんな戦ってんだから、人が死ぬのは当たり前だ。オレが言いたいのは……お前らのやろうとしてる『革命』は正義なんかじゃないってことだ。掃除兵を助けんだかなんだか知らねえけど、それで別の人が犠牲になんだよ。だから、戦車長さんに伝えとけ。お前らは好きにすりゃいいけど、それは正義なんかじゃないってな」
トミーの静かな口調は、しかし、ジョンの急所を貫いた。
それとな、とトミーはついでのように続ける。
「これも言っとけ。もう少しディッキーに優しくしろって」
トミーはそれだけ残すと、荷物を担いで出ていった。ジョンは一人、ハッチから彼を見送る。満天に星が冴える空の彼方へ、トミーは消えていった。
「お前なんなんだよ! いつまでも陰険なことしやがって!」
戦車の外にみんなを集めて、デレクが銃の撃ち方を教えている最中だった。既に砂の上に腰を下ろしていたディッキーは、遅れてきたダンが近づくと立ち上がって場所を変えようとしていた。
「陰険な方が変態よりマシだろ?」
「は?」
ダンが喧嘩腰に声を荒げる。
「誰が変態だよ? くそチビ」
ディッキーは明後日の方へ顔を向けて返す。
「人の服、無理矢理脱がそうとしといてよく言うよな? 気持ち悪りぃから寄ってくんじゃねえよ」
幼馴染みのディッキーが、本当にダンのことをそんなふうに思っているはずがない。明らかに挑発している。
「お前ぶっ殺――」
「いい加減にしろ!」
ダンを遮って、デレクが凄みのある声で言った。しん、と沈黙が降りてきて、みんなの気配が強張る。デレクは鋭い目をディッキーに向けた。
「ディッキー、謝れ」
ディッキーは不満たっぷりの顔をデレク向ける。
「なんでオレが謝んだよ?」
「お前が悪いからだ」
ディッキーはぎゅっと唇を結んで下を向いた。
「いっつもオレが悪いんだ」
彼はそう残し、ふてくされて戦車へ走っていった。
ジョンは後を追おうとしたが、
「ほっとけ」デレクに止められた。「あいつはやることがガキ過ぎる。一人になって頭冷やした方がいい」
「でも……」
ジョンは言いかけたけれど、デレクは何事もなかったようにみんなへ向けて説明を始めた。それで出かかった声は喉元から下がっていくしかなかった。
戦車へ戻った時、ディッキーはぶつぶつデレクやダンへの不満をこぼしながら、厨房でトミーの手伝いをしていた。ジョンの思った通りだ。
ディッキーとダンがムードメーカーだったこともあり、二人の喧嘩は戦車全体の空気を重くしている。そして、みんな多少ディッキーに気兼ねを感じながらもダンの方についていた。おそらく、デレクがそうだったからだ。この戦車で唯一、二人の間の諍いに興味がなさそうだったのはトミーだ。それが、ディッキーにとっては拠り所となっているらしく、彼は何かにつけて厨房へやって来ては入り浸った。意外にも、トミーは一つも文句を言わずにディッキーの好きにさせている。
「トミー、今日はよろしく。忙しかったらぼくも手伝うから言ってよ」
トミーは巨大なケーキにクリームで装飾を施しているところだった。視線をじっとケーキに置いたまま、
「邪魔だから出てけ」
この日は最年少の仲間、ビリーの誕生日だった。ちょうど十歳。数日前にそれを知ると、少年たちはチャンスとばかりに大はしゃぎでお祝いしようと口々に言った。ここのところ雰囲気の悪かったこともあったのだろう。それで、トミーは急きょ乗員分のご馳走とバースデーケーキを作る羽目になっていた。
夜になった。濃紺の鮮やかさから、空気が冴え渡っているのが分かる。地平線の上に広がる闇のさ中で鋭く光る星々の群れが、いつもより近くに見えた。
みんなは戦車の視察口やハッチから顔を出し、一段と美しい砂漠の夜に感嘆の声を上げていた。すごくいい誕生日パーティになりそうだ。ジョンの心も久々に浮き立った。
トミーの作ったご馳走はなかなかのものだった。メインは前日に買ったヤギだ。内臓を取り出した胴の部分に、肉と塩と臭い消しの香辛料を詰め、バーナーで毛を焼き落としてこんがり色がつくまで蒸し焼きにしたものらしい。ディッキーが自分で作ったかのように自慢げにそう話していた。確かに、ヤギ特有の臭みは消え、すっきりとした味でやわらかい。ジョンは正直、これほどおいしいものを食べたことは、数えるほどしかなかった。他にも、野草をペースト状にして香辛料と混ぜたカレーもいい味だったし、常備しているトマト缶で作ったスープもいつも通り酸味と甘みがあっておいしい。普段はスープとパンくらいしか食べられない少年たちは、すべての料理をむさぼるようにしてぺろりと平らげた。
最後にケーキの登場だ。
トミーが三段になったケーキを大皿に乗せて運んでくると、みんな「おおー!」と歓声を上げた。ディッキーの様子を見に行った時よりもさらに大きくなっており、ジョンも面食らってしまった。トミーは嫌そうにしながらも、かなり気合を入れて作ったらしい。高さがありすぎて危なっかしく揺れるケーキを見て、少年たちは「慎重に運べよ」「ひっくり返すなよ」とらんらんと輝かせた目をくぎ付けにして言う。トミーは煩わしそうに眉を寄せていた。
ケーキが本日の主役、ビリーの前に置かれる。ケーキの上に一本だけたてられた蝋燭にトミーが火をつけた。誰かが明かりを消す。暗がりで小さくて暖かいオレンジ色の火がゆらめき、ビリーの顔に陰影を作り出す。彼は、ふうっと息を吹きかけて火を消す。真っ暗になると同時に割れんばかりの拍手が起こった。
「ビリー、おめでと!」
あちこちで声が上がる。明かりがつくとビリーはくすぐったそうな笑みを浮かべて言った。
「オレも、もう二けたかぁ。年取ったなあ」
周囲の気配がぴたりと止まって、それから一気にみんなが吹き出した。デレクもディッキーもダンも笑った。トミーでさえ口元を緩めている。久しぶりに楽しい雰囲気が訪れていた。
みんなでわいわいと騒ぎながらケーキを頬張っていると、ジョンのポケットの中からブー、ブーと音がした。びっくりして、ちょうど口へ入れたところだったケーキを変に吸い込んでむせ返る。隣のディッキーがゲラゲラ笑いながら背中を叩いてくれた。
ポケットの中を探り音を立てている物を取り出すと、バード戦車長に渡された通信機だった。背中に緊張が走る。
席を立って静かな所へ場所を移した。一人になると、心臓のドクドクいう音が鼓膜に響いてきた。通信ボタンを押す。
「ジョン。久しぶりだなあ。元気か?」
一年の間にすっかり耳に馴染んだ戦車長の声。なんだか胸が温かくなり、ひどく安心してしまった。
「元気です! ありがとう。バード戦車長は? みんなはどうです?」
ジョンは当然「元気だ」という答えが返ってくるものだと思っていた。けれど、戦車長は言葉を濁した。そして静かに言う。
「トミーはいるか?」
「トミー?」
予想外のところに話が飛んで、頓狂な声が出てしまった。
「いるけど……」
「代わってくれ。あいつに話した方がいい」
それでジョンはトミーに通信機を渡しに戻った。
トミーはかなり長い時間、戦車長と話していた。しばらくして、いつもの強張った表情で戻ってくると、彼は呼びかけた。
「掃除兵」
みんなが一斉に顔を上げた。トミーはしまったというように顔を伏せてから、言いにくそうに、
「ジョン」
「何?」
「ちょっと来てくれ」
トミーが先になって、みんなに聞こえない静かな場所へ移動する。そこには、なぜか荷物がまとめて置いてあった。トミーは深く深く息をつくと、声を低めて話し始める。
「料理長が死んだ」
「え⁉」
「他の戦車との交渉中に揉めたらしくて、戦車長が相手側の兵士に銃向けて脅されたんだと。一番に止めに入ったのが料理長で、それで、撃たれたらしい……」
トミーは淡々とした口ぶりだったけれど、最後の方、声は尻すぼみに小さくなった。ジョンの脳裏に料理長の顔が浮かんでくる。トミーを送り出した時の、あの柔らかい表情。「愛想は悪いけど腕はいいぞ」。そう言った料理長は自慢げだった。トミーはジョンに向けていた目を足元へ落とす。
「相手はデレクのいた戦車だ。バード戦車長がデレクを逃がしたってバレて、それでだったんだってよ。ディッキーんとこの変態野郎もいたらしいから、そいつが情報漏らしたんだろうな」
トミーは言葉を切り、穴を開けようとするほどに、何もない床を凝視する。
「……なにが革命だよ」
つぶやくと彼はぱっと顔を上げ、ジョンではなく窓の外を見つめて言う。
「オレはバード戦車長のとこに戻る。料理長がいないんじゃ、厨房も大変だろうからな。他の奴らには言うなよ。掃除兵どもと一緒にいるのが嫌んなって帰ったって、そう言っとけ。ほとんど事実――」
「トミー」
ジョンは思わず遮ってしまった。
「こんなことになって…」
自分から声を上げておいて、彼は言い淀んでしまった。言葉を探したけれど、何をどう言えばこのやりきれない気持ちが伝えられるか分からなかった。
「ごめん……」
仕方なくそう言ってうつむいた。トミーが大きく息をつく気配がする。
「別にお前が悪いわけじゃない。あっちこっちでみんな戦ってんだから、人が死ぬのは当たり前だ。オレが言いたいのは……お前らのやろうとしてる『革命』は正義なんかじゃないってことだ。掃除兵を助けんだかなんだか知らねえけど、それで別の人が犠牲になんだよ。だから、戦車長さんに伝えとけ。お前らは好きにすりゃいいけど、それは正義なんかじゃないってな」
トミーの静かな口調は、しかし、ジョンの急所を貫いた。
それとな、とトミーはついでのように続ける。
「これも言っとけ。もう少しディッキーに優しくしろって」
トミーはそれだけ残すと、荷物を担いで出ていった。ジョンは一人、ハッチから彼を見送る。満天に星が冴える空の彼方へ、トミーは消えていった。
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