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13 オレがバンプを好きな訳

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 趣味、か。
 斗歩が帰ってから、オレはベッドで体を仰向けて、考えてた。確かに、オレの部屋に比べっと、斗歩ンとこは妙に殺風景だ。趣味も全く表れてねぇ。
 おそらく、斗歩は自分の好きな物とかやりたいこととか、そういうのがはっきりしてねぇんだ。自分のこと、他人よりも掴み切れてねぇ。だからあんなにフワフワしてやがるんだ。
「趣味……」
 気がつくと、声に出してた。
 好きな物。見たりやったり聴いたりして、楽しいって思えること。オレにとって、バンプの曲聴くのはそういうことの一つだ。耳傾けてると、だんだん自分の気持ちとその曲の境界が溶けてなくなるような、自分の気持ちがその曲ン中にとっぷり浸かってあったまるような、そんな感じがする。かっこ悪ぃ言い方すりゃ「癒される」。
 けど、なんでそんな風になんのかってことまでは、分かんねぇ。分かんねぇから、斗歩の気持ちをオレの気持ちみてぇに「癒して」やれねぇ気がする。あんなひでぇ目にあって、その気持ちを自分で包む方法が何もないなんてのは、たぶん良くねぇ。それで、考えてた。オレの場合は、どんなだったか。

 オレは昔っからプライドが高かった。取り巻き連中から「すげぇ、すげぇ」って褒められて、自分は他人よりも優れてんだって、当たり前に思ってた。勉強も運動も誰にも負けねぇってことが、オレん中では「エジソンはえらい人」レベルの常識だった。
 それが、あの日、斗歩にかけっこで負けて崩れた。オレの狭ぇ世界は、ひっくり返った。
 もやしみてぇに弱そうなチビ。当時のオレの目に、斗歩はそう映ってた。その、もやしチビに、負けた。誰よりもすげぇはずのオレが、誰よりもひ弱そうな奴に、負けた。屈辱でしかなくて、それ以来、周囲の「すげぇ」って言葉を素直に受け取れなくなった。かけっこで一番になっても、他の運動で他人よりいい結果出しても、テストで満点近く取っても、「きっと、あいつはもっとできんだ」って思いが心の底にこびりついてた。
 嬉しくないのに、周りのバカどもは軽々しくオレをおだててきた。鬱陶しくて仕方なかった。どこがすげぇんだよってムカついて、それでしょっちゅう他人を殴るようになった。
 特に気に食わなかったのは、中学ん時のクラスメイトだった。畔川あぜかわってバカで、ダサくて弱えクセに他人にマウント取りたくて仕方ねぇって感じの奴だった。で、畔川はスクールカーストの頂点だったオレにくっついてきやがった。オレの機嫌取って仲良くなろうとしたのか、おだて上げてきた。ムカついて、ムカついて、視界に入れんのも嫌になって、オレは特別な理由もなく、奴をぶん殴るようになった。
 褒められてんのに勝手にイラついて、暴力振るう。それが日常化すると、大人たちはオレを「問題児」として見るようンなった。毎日叱られた。本当に、毎日だ。逆に言うと、オレは毎日畔川を殴ってたんだけど、大人がオレだけを叱って一方的な悪者にして、いつも事を終わりにすんのは我慢なんなかった。バカが殴られることは問題なのに、オレがバカにイライラさせられんのは全く構わねぇってスタンスだ。オレの気持ちを何だと思ってやがる。そう思うと、周りのモン全部にムカついた。
 気に入らねぇって感情がどんどん腹ン底に鬱積して、嫌な気分で心も体もパンパンになってた。そういう気持ちを和らげてくれたのが、バンプの曲だった。
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