上 下
1 / 40

1 ヤるかヤられるか、それが問題だ

しおりを挟む
 え、違うのか? って目ぇ丸くした斗歩とあを見て、オレは肺空っぽにするくらい、深く深く深く息ついた。下向いて、頭掻いて、当たり前過ぎて疑問すら抱かなかった言葉を舌の上にのっける。
「違ぇに決まってんだろ。どう考えてもオレが挿れる側だ」
「なんでだ?」
「なんで?」
 自分でも、ギョッと目ぇひん剥いてるのが分かった。「なんで」? 「なんで」つったのか? こいつ。なんでも何もねぇだろ、頭沸いてんのか?
「なんでじゃねぇよ。オレが掘られるわけねぇだろ。ケツの穴に突っ込まれるとか、鳥肌モンだぞ。虫唾が走る」
「それはオレも同じだぞ」
 その言い方には、今日出た課題の話でもするみてぇな気軽さがあった。こっちは、ずっとオレらのこの関係にモヤモヤしてて、それを何とかしようと踏ん切りつけて、ヤることについて切り出したってのに。なんなんだ、その落ち着きは。ヤるヤられる以前に、そのスカした態度が気に入らねぇ。
 オレは胸ぐら掴む勢いで、斗歩の方へ迫った。ミシ、とベッドが軋む。体が近づくと、それだけで体温伝わって、あったけぇ。もう六月だってのに、人肌に温もり感じるくらい冷えてんのは、窓際にベッド置いてる、このボンクラのせいだ。寝る時だけじゃなく、ソファ替わりにも使ってるベッドを、こいつは広く部屋使いたいって理由で、わざわざ窓際に置き換えたらしい。それじゃ冬、寒いだろってオレが注意しても、どこ吹く風。マジで冬んなって凍えても知らねぇぞ、オレは。つか、凍死しろ。人の心配、毛ほども気にしねぇ上に、こっちが腹ん中に溜めてきたモヤモヤ、軽くあしらうようなクソ鈍感野郎は、一遍死んだ方がいい。
「てめぇ、オレのこと、舐めてんのか?」
「は?」
 斗歩は、またきょとんとした。全く身に覚えのないこと言われたって感じの面だ。あー、ムカつく。無自覚なのが、何よりムカつく。
 一瞬遅れで理解が追いついたのか、丸かった目に険が差した。
「別に舐めてない。お前もオレも、ヤられる側は嫌だっての、同じだろ? なんでオレだけ悪いみたいな話になんだよ?」
 だいたいさ、つって、斗歩は視線下げた。
「オレのが背は高いし、普通に考えたらオレが挿れる側だと思う」
「はァッッ!?」
 思わず出た声は、喉でひっくり返ってた。
「高ぇっつっても、たかだか五センチだろ! だいたい、背はてめぇのが高くても、オレのがガタイはいいんだよ! 年だって、オレのが上だ!」
「いや、五センチは結構ある。それに、力だってオレのがあるし、年上っつったってオレが早生まれなだけで、学年同じだろ」
「四月生まれと三月生まれだぞ! ほぼ一年違うじゃねぇか!」
「でも同学年だし、そもそも年齢とどっちが挿れる挿れないは関係ないだろ?」
「それ言ったら、背の高さだって毛ほども関係ねぇだろ! 殺すぞ!」
「いや、殺されんのは困る」
「ヒョーゲンだっつの! 真に受けんじゃねぇ!」
「本気じゃないのは分かってる。でも、それ『表現』とも違くない――」
「いちいちめんどくせぇツッコミすんじゃねぇ! どうでもいいから、バイト終わって帰ってきたらヤらせろ」
 喉が痛てぇくらい声張って言うと、斗歩は肩を上下させて大きく息ついた。
「別に今どうこうしなくたっていいだろ。まだ早いよ。それに、バイト終わってからは、オレ、疲れてるから無理だし」
『今どうこうしなくたっていいだろ』
『まだ早いよ』
 斗歩の素っ気ない言葉が、けど、オレの胸には重く来た。オレばっか焦ってる。それを残酷なまでに突きつけられて、元々あった焦燥感は、心ん中掻きむしられたみてぇに激しくなっちまった。

 オレと斗歩は、一応ヤるとかヤられるとか、挿れるとか挿れないとか、そういう話の出る仲だ。付き合い始めたのは、ついこの間。けど、知り合ったのは、ずっとずっと、前のことだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

幼馴染から離れたい。

June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

恋をしたから終わりにしよう

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 毎日をテキトーに過ごしている大学生・相川悠と年上で社会人の佐倉湊人はセフレ関係 身体の相性が良いだけ 都合が良いだけ ただそれだけ……の、はず。 * * * * * 完結しました! 読んでくださった皆様、本当にありがとうございます^ ^ Twitter↓ @rurunovel

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...