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どうして私を好きになったんですか

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「そ、そんなもの、ありませんわ……!」
 祐一郎は麗美を睨んだ。
「さっき見せびらかしただろう。ないわけがない」
「ほ、本当に知りませんわ、そんなもの……!」
 奪い取ろうとする祐一郎を、小鳥遊父は制した。
「やめなさい。それは暴力になる」
「だけど、父さんーー!」
 小鳥遊父はうなずいて、麗美を見た。
「あなたがあくまでそのつもりなら、こちらも相応の手段を取らせてもらおう。もちろん弁護士とやらにも、それなりのお返しはさせてもらう」
 その言葉に、麗美はとうとう敗北を悟ったのか、唇を噛んで、きっと小鳥遊とさやかを睨んだ。涙は即座に消えて、怒りのこもった顔でさやかを睨め付ける。
「こ……この私が、そんな女よりも…‥見劣りすると?」
 祐一郎は、深いため息をついて、さやかをぎゅっと抱き寄せた。
「あんたがどう言おうと、俺はさやかと結婚する」
 祐一郎と麗美の間に、沈黙が落ちる。そこで父が一言入れた。
「それではまた。もうお会いすることもないと思うが」
 睨み殺すように祐一郎とさやかを見ていた麗美だったが、小鳥遊父に睨まれて、とうとう諦めたのかーー彼女はつかつかとこの場から去っていった。
 ーーふぅ。小鳥遊父が、ため息をついた。
「会って早々ーー修羅場じみたことに巻き込んですまなかったね、さやかさん」
 詫びられて、さやかは慌てて首を振った。
「い、いえいえ! 助けていただいてありがとうございました!」
「怖かったねー、でもどうにかなってよかったぁ」
 さやかの後ろからぴょこんと陽菜子が顔を出す。逆に由美子は、おろおろしていた。
「え、ええと、その方は……? 麗美さんは、一体」
 すると祐一郎は、冷静に説明しはじめた。
「ごめん、さきに父さんにだけ、俺の状態を話したんだ。今、真剣に将来を考えてる人がいるって」
 陽菜子がにこっと笑う。
「その時一緒にいた私も、たまたま聞いてたってわけ」
「母さん、麗美さんのことで気を遣ってくれてありがとう。けど彼女はーー」
 すると由美子は震えながら下を向いた。
「ご、ごめんなさい、祐一郎さんーー。私、麗美さんの話を聞いて、それで」
 そんな彼女に、祐一郎は苦笑した。
「たぶん泣き落としで、被害者だって訴えられたんだよね? 俺に浮気されたとか言われて。それで、こじれたら大変になると思って、彼女と俺の間を取り持とうとした。ーーわかるよ。彼女の考えそうなことだ」
 小鳥遊は冷静に言い切った。
「でも、浮気は一切してないよ。麗美と別れたあとに、俺はさやかと付き合い始めた。麗美の話は、全部でっちあげだった。じっさい麗美は、弁護士を使ってさやかを脅していたみだいだし」
 すると、彼女は蒼白になったあと、ガックリとうなだれた。
「ごめんなさい。彼女の話を鵜呑みにして、あなたの気持ちも考えずーー」
 そんな彼女の手を、陽菜子が握った。
「もう大丈夫だよ。お兄ちゃんも許してくれるって。ね?」
「もちろん。それで、義母さんにも紹介したいんだけどーー改めて、結婚を前提にお付き合いさせてもらっている、亀山さやかさん、です」
 結婚を前提!? いつのまにーーと思いながらも、少しでも場を温めるために、さやかは笑顔で頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします。N県出身で、小鳥遊商事の経理をしております……!」
 すると由美子は、やっと顔を上げた。
「まぁ、遠いところから……こちらこそ、よろしくお願いします」
 なんとなく緊張ムードが和らぎ、陽菜子が言った。
「ねぇ、久々に家族揃ったし、お姉さんもいるし、新年会が終わったら、みんなであそこ行きたいなぁ」
 祐一郎が聞く。
「ん? どこ。」
「えっと、あそこ。百疋屋! のフルーツパフェが食べたいの!」


 小鳥遊家の家族団欒に混ぜてもらい、恐ろしく高級なフルーツサンドをいただいた後、さやかはとりあえず小鳥遊と共に、彼のマンションに戻った。
 さやかのアパート戻って、また何が起こらないとも限らないからだ。
「今日は大変だったね、ほんとごめん」
 バタンとドアを閉めてすぐに謝った彼に、さやかは首を振った。
「いやいや、祐一郎さんはなにも悪くないじゃないですか……むしろ、新年会会場で麗美さんとサシで…‥大丈夫でしたか?」 
 小鳥遊は頭をかいた。
「いやぁ……親父と陽菜子は仲間に引き入れてたから、あとは義母さんだけっていうか、そこがネックだったんだけど……すっごいいいタイミングで親父がさやかを連れてきてくれたから、びびったよ」
「たまたまそこであえて……ラッキーでした。陽菜子さんにも助けられました」
 すると小鳥遊はクスッと笑った。
「実は陽菜子には、味方してくれるように買収してあった」
 不穏な言葉に、さやかは驚いた。
「買収!?」
「推しアイドルのライブチケットで手を打つ、ってね。まぁ、営業にいれば手に入れやすいからいいんだけど」
 さやかは納得した。
「なるほど、妹さんがフレンドリーにしてくれたのには、そういうわけもあったんですね」
「でもまぁ、麗美よりさやかのほうがずっといいって、直感的にわかったのもあると思うよ」
「ですかね……」
「それに、親父もすっかりさやかのことを気にいってる風だったし。一体何を話したの?」
「いえ、大したことは……私、あんまりお話しするの、上手じゃなくて」
 うつむいてそういうと、小鳥遊はさやかを覗き込んだ。
「そう言うところが、俺、好きだよ」
 またんなこと、と言う言葉は、小鳥遊の顔を見上げると引っ込んだ。
「さやかは、どんな時も、嘘をつかない。おべっかも見栄もなしに、正直に言ってくれるからーー親父にもそれが、伝わったのかもね」
 彼が真剣に言っていることがわかって、さやかはふと、腑に落ちた。
「私が素直とか正直ってーー祐一郎さんは、よく言いますけど。それってもしかして」
 つまり。一番最初の、小鳥遊へ塩対応していた自分を思い出す。さやかは彼が来るたびに、関わりたくないと思いながら領収書を受け取り、誘いはことごとく断っていた。
「私がずっと、無愛想だったから?」
 さやかはずっと、疑問に思っていた。
 どうして小鳥遊のような人が、自分なんかを好きになったんだろうーーと。
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