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恋愛成就のご商売(3)
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酒を、飲み干してくれば良かった。布団に横たわりながら千寿は思った。
正気でこの男に抱かれ終えることができるかわからない。なら酩酊しておいた方が、楽だったのに。頭の一角で冷静に考えをめぐらせていたが、それも熱い感触に吹き消された。
「っ…」
さっきから、ずっと首筋を弄られている。ぞくぞくするような、嫌な感覚だ。
「姫…さっきから何も言わぬな…」
千寿は顔をしかめたきりで口を開かない。本来なら許されないことだ。いつもの千寿ならば、客を満足させるため矯声を上げもする。だが今夜は。
「なんて華奢なんだ…」
帯を解いた純四朗が、感嘆の声を漏らした。そして、うっすらと艶めく白い肌をつうっとなぞった。
「雪のような肌だ…」
そっと、雛鳥を捕まえた時のように、柔らかく両の乳房を掴まれる。指の感覚を克明に感じる。千寿はいつもの仕事とはまったく逆の気持ちになった。客は痛いことばかりしてくるので、いつもはそれを恐れている。
だが今日は完膚なきまでに乱暴にやってほしい。彼との行為に快楽を感じるより、痛みを感じるほうがましだ。体は傷つくが、心は守られる。
「だんな様…」
熱に浮かされた声も、夢中でたまらない声も、その気になれば自由自在だ。演技に気がつく男などいない。本当のことなどお互い求めていない。嘘のあえぎ声は、笑顔はむしろ千寿たち遊女を守ってくれる堅い鎧なのだ。
そんなこと百も承知なのに、千寿は無様に本当の表情を純四朗の前に晒していた。
「っ……」
千寿は声を出さずに泣いた。止めようと思っても、涙があふれてくるからしようがなかった。その間も純四朗は、千寿の体をまさぐっている。
「はぁ…っ…柔らかい…柔らかくて甘い、姫…」
素裸の千寿の足の間に純四朗の指が這わされる。ためらうように一瞬指の動きが止まった。
「姫…いいか…」
いいもくそもない。金で買われているのだから。千寿は無表情のまま涙を流し続けた。
「濡れているぞ、姫…」
これ以上ないほど嬉しそうに、純四朗が言った。
「姫、入れるぞ…」
入り口に、硬いそれが当たっているのがわかる。千寿は無意識のうちに深く息を吐き、痛みに備えた。ぐぐ、とゆっくり先端が入ってくる。ここだけ我慢すれば、あとは痛くない。千寿は心を殺して耐えた。すると心配そうに純四朗が頬に手を添えた。
「姫、大丈夫か…?」
千寿はうつろにその顔を見上げた。光の消えた目には、あまりにもまぶしい表情だった。
「俺とするのは…嫌か…?」
千寿の理性が、反応しろと訴えた。嫌がる感情を理性がなだめすかして、やっと千寿はかすかに首をふった。
「そうか、姫…」
純四朗は安堵したのか、腰を奥まで進めた。ここまで入ってしまえば、その痛みも中和される。ほっとすると同時にぬぐい切れない嫌悪感があった。
彼がゆっくりと動き始めた。だが、少し動いて、すぐ止まる。
「奥に届いた…俺は…姫…あんたとこうするのを、夢にまで見た…」
そのひたむきな表情を見るのはつらくて、千寿は目を閉じた。でも、耳は閉じれない。
「だめだ、止まらないと…すぐ、終わってしまう」
再びゆっくりと腰を動かしながら、純四朗が問う。
「姫…あんたはどうだ…?」
「きもちいい」「もっと」「こんなのはじめて」そんな常套句が冷めた千寿の脳裏に浮かんだ。何か言わねば、ちゃんと仕事をしなければ、明日のご飯が食べれない…。
またもや理性が感情をやっつけた。千寿は繰り人形のように口を動かした。
「はい…きもちいい…です…」
「よかった、姫…」
純四朗は嬉しそうに笑った。その無上の笑顔をまた見ていられず、千寿は目をそらした。早く終わらせたい。幸いその術はよく知っている。千寿は手足をぎゅっと強く彼の体にまわした。指を背中に食い込ませると、筋肉の逞しい感触がわかった。そうすると同時に肉体と同じに逞しいものが、千寿の奥を容赦なく突いた。その機を逃さず渾身の力で自分の尻の穴を締め上げる。
「くっ……」
その瞬間、彼の動きが止まり、ぐぐ、っとさらに硬くなったものが動いたのがわかった。
「姫…」
彼は荒く呼吸をしながら、ずるっとそれを引き抜き、千寿を抱きしめた。
「1本とられたな…」
やっと終わった、とやってしまった、という気持ちが千寿の中でないまぜになった。
(これじゃあ、金を返せと怒られてもしょうがない…)
冷静に返ってそう思った千寿は、純四朗の腕の中で謝った。
「申し訳ございません…」
すると、彼は意外そうに千寿の顔を見た。
「何を謝るんだ、姫」
千寿はあっけにとられた。
「ええと…あの、満足にお相手、できなくて…」
「何を言ってる。俺はあんたとこうできて、満足だ」
そして熱い腕の中で、今更ながらに千寿は気がついた。
(そうか、彼にとって私は遊女ではなく、「撫子」のままなんだな…)
正気でこの男に抱かれ終えることができるかわからない。なら酩酊しておいた方が、楽だったのに。頭の一角で冷静に考えをめぐらせていたが、それも熱い感触に吹き消された。
「っ…」
さっきから、ずっと首筋を弄られている。ぞくぞくするような、嫌な感覚だ。
「姫…さっきから何も言わぬな…」
千寿は顔をしかめたきりで口を開かない。本来なら許されないことだ。いつもの千寿ならば、客を満足させるため矯声を上げもする。だが今夜は。
「なんて華奢なんだ…」
帯を解いた純四朗が、感嘆の声を漏らした。そして、うっすらと艶めく白い肌をつうっとなぞった。
「雪のような肌だ…」
そっと、雛鳥を捕まえた時のように、柔らかく両の乳房を掴まれる。指の感覚を克明に感じる。千寿はいつもの仕事とはまったく逆の気持ちになった。客は痛いことばかりしてくるので、いつもはそれを恐れている。
だが今日は完膚なきまでに乱暴にやってほしい。彼との行為に快楽を感じるより、痛みを感じるほうがましだ。体は傷つくが、心は守られる。
「だんな様…」
熱に浮かされた声も、夢中でたまらない声も、その気になれば自由自在だ。演技に気がつく男などいない。本当のことなどお互い求めていない。嘘のあえぎ声は、笑顔はむしろ千寿たち遊女を守ってくれる堅い鎧なのだ。
そんなこと百も承知なのに、千寿は無様に本当の表情を純四朗の前に晒していた。
「っ……」
千寿は声を出さずに泣いた。止めようと思っても、涙があふれてくるからしようがなかった。その間も純四朗は、千寿の体をまさぐっている。
「はぁ…っ…柔らかい…柔らかくて甘い、姫…」
素裸の千寿の足の間に純四朗の指が這わされる。ためらうように一瞬指の動きが止まった。
「姫…いいか…」
いいもくそもない。金で買われているのだから。千寿は無表情のまま涙を流し続けた。
「濡れているぞ、姫…」
これ以上ないほど嬉しそうに、純四朗が言った。
「姫、入れるぞ…」
入り口に、硬いそれが当たっているのがわかる。千寿は無意識のうちに深く息を吐き、痛みに備えた。ぐぐ、とゆっくり先端が入ってくる。ここだけ我慢すれば、あとは痛くない。千寿は心を殺して耐えた。すると心配そうに純四朗が頬に手を添えた。
「姫、大丈夫か…?」
千寿はうつろにその顔を見上げた。光の消えた目には、あまりにもまぶしい表情だった。
「俺とするのは…嫌か…?」
千寿の理性が、反応しろと訴えた。嫌がる感情を理性がなだめすかして、やっと千寿はかすかに首をふった。
「そうか、姫…」
純四朗は安堵したのか、腰を奥まで進めた。ここまで入ってしまえば、その痛みも中和される。ほっとすると同時にぬぐい切れない嫌悪感があった。
彼がゆっくりと動き始めた。だが、少し動いて、すぐ止まる。
「奥に届いた…俺は…姫…あんたとこうするのを、夢にまで見た…」
そのひたむきな表情を見るのはつらくて、千寿は目を閉じた。でも、耳は閉じれない。
「だめだ、止まらないと…すぐ、終わってしまう」
再びゆっくりと腰を動かしながら、純四朗が問う。
「姫…あんたはどうだ…?」
「きもちいい」「もっと」「こんなのはじめて」そんな常套句が冷めた千寿の脳裏に浮かんだ。何か言わねば、ちゃんと仕事をしなければ、明日のご飯が食べれない…。
またもや理性が感情をやっつけた。千寿は繰り人形のように口を動かした。
「はい…きもちいい…です…」
「よかった、姫…」
純四朗は嬉しそうに笑った。その無上の笑顔をまた見ていられず、千寿は目をそらした。早く終わらせたい。幸いその術はよく知っている。千寿は手足をぎゅっと強く彼の体にまわした。指を背中に食い込ませると、筋肉の逞しい感触がわかった。そうすると同時に肉体と同じに逞しいものが、千寿の奥を容赦なく突いた。その機を逃さず渾身の力で自分の尻の穴を締め上げる。
「くっ……」
その瞬間、彼の動きが止まり、ぐぐ、っとさらに硬くなったものが動いたのがわかった。
「姫…」
彼は荒く呼吸をしながら、ずるっとそれを引き抜き、千寿を抱きしめた。
「1本とられたな…」
やっと終わった、とやってしまった、という気持ちが千寿の中でないまぜになった。
(これじゃあ、金を返せと怒られてもしょうがない…)
冷静に返ってそう思った千寿は、純四朗の腕の中で謝った。
「申し訳ございません…」
すると、彼は意外そうに千寿の顔を見た。
「何を謝るんだ、姫」
千寿はあっけにとられた。
「ええと…あの、満足にお相手、できなくて…」
「何を言ってる。俺はあんたとこうできて、満足だ」
そして熱い腕の中で、今更ながらに千寿は気がついた。
(そうか、彼にとって私は遊女ではなく、「撫子」のままなんだな…)
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