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本編
プロローグ
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王族の結婚というものはーー恋をして、愛を紡いで……二人は永遠の愛を誓う、という『普通』の結婚とは程遠いもので。
国と国同士を結ぶための重要な手段であり、本人の意思はまったく関係ない。
どのようなものを悲劇、と呼ぶかは人それぞれ違うかもしれないが、彼らは望まない結婚を強いられ、また時代に翻弄され裏切られ、死んでいった。
しかし、この物語は悲劇とは違う、姫と護衛の青年の二人にとって『幸せな』恋の物語が紡がれる、はずであるーー。
「きみの名前は?」
親をなくした少年は、路上で知らない初老の男性に声をかけられて驚いた。
治安の悪い地域に、小綺麗なおじいさんがここにいて、しかも自分に声をかけてきたからだ。
「レグ、レグナルド、です」
昨日まで自分の側にいて、自分を今まで育ててくれたたった一人の肉親からもらった名前を初老の男性に呟けば、
「ーーでは、レグナルド。あなたは今日から×××です」
「???」
最後の方の言葉が聞き取れなくて、首を傾げる。自分がその言葉に縁がなかったからだろうか、うまく理解できない。
「さぁ、わたくしと一緒に来てください」
優しそうな外見とはうらはらに強引に彼が乗ってきたであろう馬車に連れ込まれていく。
急だったので、彼は人さらいなのかと思った。
一応、この国では人身売買は禁止されているはずなのに…。
少年は身の危険を感じて、逃げようとするが力強い手により、豪華な馬車に乗せられた。中のキラキラした装飾を見て、自分には住む世界が違うのだと理解した。
「……逃げないで、レグナルド。逃げると、わたくしはあなたの足を傷つけなければなりません」
「……!」
見ると、長剣がぎらりと光った。
やると言ったら彼は本気で少年の足を使えないようにするのには簡単そうだった。
「………いえ、でもそれは我が主の命令に背くことになりますね」
ならやめてくれ、と少年は思った。
「きみは我が主のーー××らしいので、しっかり教育してさしあげますよ」
「? なにを言ってーー」
あまりにも馬鹿げたことで。
ありえなくて。
笑える。
「……ぼくの母は、踊り子でした」
とっても綺麗で、息子から見ても魅力的な女性だったと思う。
「はい。知っていますよ」
「そんな、だったら! 帰してください!」
元いた場所に。
そんな、知らない場所になんて行きたくない!
「あなたに帰る場所はありません」
冷たく「帰りたい」という言葉を切り捨てられた。
しばらく無言で馬車の窓から外を眺めていたら、初老の男性が静かにそれを言った。
「帰る場所が欲しいのなら、今日からここに帰ってきなさい」
ぴたりと馬車が止まった先には、これまた豪華なお城がそびえ立っていた。実際には見たことはなかったが、ここはもしかしたらーー、国で一番すごい場所ではないだろうか。
少年の少ない語彙ではすごさを表現できないが、ここに来るだけでとにかくとっても、すごいことなのだ!
「おかえりなさいませ、レグナルド様」
その言葉は、絶対に自分にはふさわしくないと、レグナルドはこの時強く思ったのだった。
国と国同士を結ぶための重要な手段であり、本人の意思はまったく関係ない。
どのようなものを悲劇、と呼ぶかは人それぞれ違うかもしれないが、彼らは望まない結婚を強いられ、また時代に翻弄され裏切られ、死んでいった。
しかし、この物語は悲劇とは違う、姫と護衛の青年の二人にとって『幸せな』恋の物語が紡がれる、はずであるーー。
「きみの名前は?」
親をなくした少年は、路上で知らない初老の男性に声をかけられて驚いた。
治安の悪い地域に、小綺麗なおじいさんがここにいて、しかも自分に声をかけてきたからだ。
「レグ、レグナルド、です」
昨日まで自分の側にいて、自分を今まで育ててくれたたった一人の肉親からもらった名前を初老の男性に呟けば、
「ーーでは、レグナルド。あなたは今日から×××です」
「???」
最後の方の言葉が聞き取れなくて、首を傾げる。自分がその言葉に縁がなかったからだろうか、うまく理解できない。
「さぁ、わたくしと一緒に来てください」
優しそうな外見とはうらはらに強引に彼が乗ってきたであろう馬車に連れ込まれていく。
急だったので、彼は人さらいなのかと思った。
一応、この国では人身売買は禁止されているはずなのに…。
少年は身の危険を感じて、逃げようとするが力強い手により、豪華な馬車に乗せられた。中のキラキラした装飾を見て、自分には住む世界が違うのだと理解した。
「……逃げないで、レグナルド。逃げると、わたくしはあなたの足を傷つけなければなりません」
「……!」
見ると、長剣がぎらりと光った。
やると言ったら彼は本気で少年の足を使えないようにするのには簡単そうだった。
「………いえ、でもそれは我が主の命令に背くことになりますね」
ならやめてくれ、と少年は思った。
「きみは我が主のーー××らしいので、しっかり教育してさしあげますよ」
「? なにを言ってーー」
あまりにも馬鹿げたことで。
ありえなくて。
笑える。
「……ぼくの母は、踊り子でした」
とっても綺麗で、息子から見ても魅力的な女性だったと思う。
「はい。知っていますよ」
「そんな、だったら! 帰してください!」
元いた場所に。
そんな、知らない場所になんて行きたくない!
「あなたに帰る場所はありません」
冷たく「帰りたい」という言葉を切り捨てられた。
しばらく無言で馬車の窓から外を眺めていたら、初老の男性が静かにそれを言った。
「帰る場所が欲しいのなら、今日からここに帰ってきなさい」
ぴたりと馬車が止まった先には、これまた豪華なお城がそびえ立っていた。実際には見たことはなかったが、ここはもしかしたらーー、国で一番すごい場所ではないだろうか。
少年の少ない語彙ではすごさを表現できないが、ここに来るだけでとにかくとっても、すごいことなのだ!
「おかえりなさいませ、レグナルド様」
その言葉は、絶対に自分にはふさわしくないと、レグナルドはこの時強く思ったのだった。
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