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6章.ダイン獣王国編

94話.対話

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「男爵ごときに閣下などという敬称はいりませんよ、クロムさん」

 このバロンの言葉は、無難な名乗りにて話の主導権を取り戻そうという目論見をもっていたクロムにとって、苦笑せざる得ない絶妙なタイミングでの発言であった。

「わかりました……
 では、バロンさんと呼ばせていただきます」

 この時、バロンの周りにいた守護騎士たちから殺気が漏れ始めたのだがクロムはあえて無視して話を続けることにした。

「ここに来た理由ですが、この街が悪魔に急襲・占拠されたという知らせを聞いたからです」

「ほお、では…… 
 私たちの退治が目的…… ということでしょうか?」

「いえ、まずは対話を…… と思っています。
 いくつか伺いたいうかがいたいこともありますしね」

 クロムのこの返答はバロンにとって予想外のものであり、クロムという存在に興味を持つには十分なインパクトを持つものであった。
なぜならこの街を占拠して以降、自分を討伐にくるものは多数いたが話がしたいという者は一人としていなかったのである。
ゆえにバロンはクロムに大いに興味を持つこととなり、話し合いに応じることを決めたのであった。

「なかなか面白い御仁ごじんのようですね。
 して…… 聞きたいこととはなんでしょう?」

「色々とあるのですが…… 
 今回の襲撃の意図が何なのかと悪魔王サタン様が指示した襲撃なのか…… でしょうかね」

「…… 正面から臆することなく踏み込む方なのですね」

 クロムの遠慮なく踏み込んだ質問で気分を害したことを隠そうともしないバロンはその場で立ち上がり、不機嫌そう口調で言うのだった。

「避けては通れない話題ですからね、最初にスッキリさせておきたいのですよ」

 バロンの高圧的な態度に臆することなく正面から受け止めて返答するクロムにバロンは素直に感心するのであった。

「その豪胆さ…… 人族にしておくにはもったいないですね。
 襲撃の意図と誰の指示か…… でしたね。
 悪魔王サタン様が邪神様よりのお告げを元にこの大陸への侵攻を決めました。
 私は先遣隊…… というところですね」

 立ち上がったバロンの身長はクロムのそれの倍ほどもあった。
そのバロンが試すような視線でクロムとアキナのことを見下ろすのだった。

 緊迫しきった空気に呼吸すらままならないほど緊張していたアキナは、バロンのその言葉と視線によってさらに体を硬直させることとなった。
そんなアキナの姿を横目で確認したクロムはアキナの頭を軽く撫でると、さらに一歩前に出てバロンの視線を正面より受け止めて話を始めた。

「背後に邪神がいる…… というところも含めて予想通りか……」

「ほぉ」

「しかしそうなると…… 
 バロンさんにはこのまま撤退する…… 
 という選択肢はなさそうですね?」

「そうですね、この地はサタン様率いる本隊を迎え入れる拠点となります。
 ですから、撤退はあり得ませんね」

 このやり取りにより、この場にいるすべての者がお互いが許容しあえる相手ではないことを悟ることとなった。
この場の空気の緊迫度は高まる一方であり、守護騎士たちは今にもとびかかってきそうな、そんな状況になっていた。

「バロンさん、話がガラっと変わるんだけど、質問いいかな?」

 バロンはクロムが先ほどまでとは打って変わった口調で話し始めたことに眉を顰めひそめつつも紳士的に対応した。

「…… いいですが…… どう言ったことでしょうか」

 クロムは以前にカイリやダインより聞いたこの大陸の外のことについて尋ねたのだった。
この大陸の東西南北それぞれの方角に他の大陸が存在していてそれぞれ異なる種族が大陸を支配しているというのは事実であるのか?
東の大陸は魔王が君臨していると聞くが事実であるのか?
北と南の大陸はどんなところであるのか?

 この大陸以外についての情報はカイリから直接聞いたこと、もしくはダインがカイリから聞いたこと以外には何も持っていないのが現実である。
クロムはその情報を少しでも多く知りたかったのであった。

「…… 敵対することを自覚した上でのその質問……
 まぁよろしいでしょう、私の言葉を信用できるのでしょうか…… という疑問もありますが、知ってる範囲の情報は教えましょう」

 バロンはクロムの大胆不敵さに苦笑しながらも、自身が知っている範囲のことをクロムに教えることとした。
東・西・南に大陸があることは知っているが、北にあるのかは知らないこと。
東の大陸の支配者は知らないが、南の大陸については知っていること。
その支配者が精霊王であり、非常に排他的な存在であること。

「私が知っているのはこの程度になりますよ」

「バロンさん、ありがとうね」

 クロムは深々を頭を下げてバロンに感謝の気持ちを伝えた。
そして、頭を上げたクロムはバロンを見つめあいながら、優しい笑顔を交わすのであった。
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