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6章.ダイン獣王国編
80話.ディアナの苦悩
しおりを挟むクロムはいつもと違う甘い香りに包まれながら目を覚ました。
昨日の寝る間際の記憶が曖昧なのであった。
曖昧な記憶と心地よい微睡みの中、クロムは自身を包み込む柔らかい感触と甘い香りによって再度眠りに落ちそうになる。
しかし、実際にそうなることはなく聞きなれた優しい声で目を覚ますのであった。
「あ、おはよ。
ゆっくりと寝れたかな?」
優しい声の主はアキナである。
その声で意識を徐々に覚醒させたクロムは今の自分の状況を徐々に理解していく。
アキナの膝枕で眠っていたようだった。
「あ、あぁ…… おはよう。
膝枕…… ありがとな」
クロムが恥ずかしさと理解が追い付かない現状に戸惑っていると、そのことを察したアキナは何があったのかを話し始めた。
アキナの疑問に答えたクロムはそのまま溜まっていた感情を爆発させて眠りについたことを。
アキナはそんなクロムを膝枕しながら、寝顔を眺めていたことを。
話を聞くことで余計に恥ずかしくなったクロムは、照れ隠しと感謝の気持ちとしてアキナを抱きしめることしかできなかった。
そんなクロムのことを可愛いと感じたアキナは満面の笑みを浮かべながらクロムに尋ねるのであった。
「アルテナたちのところに報告にいくのはどうする?
わたしが行ってこようか??」
クロムはアキナに指摘されて初めて狐人族への報告を忘れていることに気が付いた。
アキナはクロムの精神的な体調を心配して自分が行ってくることを提案したのであったが、クロムとしては自身のわがままを通す形で行われたことの報告となるため自分で行くことをアキナに告げるのであった。
そしてそのことを皆に伝えた結果、狐人族の集落へはクロム、アキナ、カルロの3人で行くこととなった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
狐人族の集落に到着したクロムたちは早速ディアナ、アルテナ親子の元に通された。
「クロム殿、戻られたか!
配下のものたちより突然クロム殿たちの姿が消えたと聞いて心配しておったのじゃ!!」
「すいませんでした、予想外の展開がおきまして……
ディアナさんに出発の報告をすることを忘れてしまいました」
ディアナたちへの報告もせずに出発したことを詫びるクロム。
そんなクロムに対して何も告げずに出発したことを一切責めることもせず、ただクロムたちの無事を本気で喜んでくれる狐人族の人々を見て、どこか少し救われたようなそんな気分になるクロムであった。
「実は、今回は非礼のお詫びを兼ねて一つ朗報をお持ちしました。
ミツルは排除しました」
「えっ!!?
まさかこの短時間で……」
「確実に排除はしましたので、ご安心を。
そして俺たちは当初の予定通りこのまま王都を目指し、なんとかして獣王ダインとの謁見を実現させようと思っています。
その時の状況次第では獣王ダインに勝負を挑むしかなくなるわけですけどね」
「……
クロム殿よ、獣王ダイン様に勝負を挑むしかなくなる理由を聞かせてはもらえないだろうか?」
ディアナはずっと気になっていたことをクロムに尋ねた。
なぜ急に獣王ダインへの謁見や勝負を挑むことを求めだしたのかが気になっていたのだ。
クロムは苦笑を浮かべつつもディアナの問いに対して誠実に答え始めた。
狐人族が救助の懇願をした際の対応を聞いたときに、この国の行き過ぎた実力至上主義に激しい嫌悪感を抱いたことが始まりであり、そのルールを作っている国と王に不快感を感じると共に、獣王ダインに会うことを決めたということ。
その後、ミツルから聞き出した情報の中にミツルの行動は獣王ダイン公認の行動であったというものがあり激しい憤りと共に真偽を確認したくなったということ。
そして、もしも真実であった場合は獣王ダインを打倒したいということ。
クロムはそうした想いをディアナに伝えるのであった。
「あはははははは、
我ら狐人族はそれなりに長命の種族ではあるが、クロム殿のような変わり者には初めて会ったわ!!」
「そんなに変わってるかな?
まぁわがままであることには自覚があるけどさ……」
「この国の制度は強者にとっては都合の良いものじゃ、その制度に対して強者であるクロム殿が嫌悪感を抱く……
しかもそのことが発端となって獣王を打倒したいと言い出すとは……
…… 相当な変わり者ではあるが、私としては非常に好感を感じるわ」
族長であるディアナがそう笑いながら言うのを聞いていた周りに控える狐人族たちも同じように笑いながら同意するのであった。
そしてその笑い声が少し落ち着いた頃、ディアナの表情が急に真剣な表情へと変わった。
「クロム殿……
折り入って頼みがあるのじゃが……」
急に真剣な表情を見せたディアナからの改まった言葉に周囲の空気が少しピリついたのをクロムは感じた。
そしてディアナからの頼みが何事であるのか、その場にいるもの全てが固唾をの飲んでディアナから紡がれるであろう言葉を待つのであった。
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