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初夜

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「……私は、君を愛せない」
「かしこまりました。お飾りの妻役、喜んで拝命いたします!」
「!?」

 あらー、旦那様ってば、驚いてらっしゃる? そんなお顔も素敵だわ。
 さすが私の歴代イケメンランキング堂々のナンバー2にランクインした旦那様。
「本当にわかっているのか? 私は君を――」
「はい、もちろんわかっていますとも! 愛さないし、初夜だけれども、抱くつもりもないんですよね!」
 なにせ、旦那様の心の中には、長年片思いをされている方がいらっしゃるのだとか。その方は儚げな美少女だということも、ばっちり調査済みです!
 すべて、知ってますとも!!

「そう、だが――。なぜ、君はそんなにも……、いや、わかった。それならばいい」

 そういって、旦那様は寝室を去っていった。
 私はそれを見届けてから、ベッドにダイブした。さすが王城の寝室なだけあって、ふかふかな布団に体が沈み込む。
「イエ――――!!!」
 枕を顔に押し付け、激情のままに叫んだ。

 あーんなにイケメンなのに、長年の片思いを引きずっているとか、解釈通りにもほどがあります、旦那様!!!
 お飾りの妻とは言えども、至近距離でそんな旦那様を心行くまで観察することができるなんて。

 はぁー。幸せ。

 私は、足をばたばたさせながら、その喜びをかみしめた。

 突然だけれど、私、ことリリーシャ・ロンド伯爵令嬢――いえ、いまは、リリーシャ・アンドロ第二王子妃なのだっけ――、には秘密がある。
 秘密、といってもたいしたことはない。極度の面食い、ということだ。

 つまり、顔さえよければ性格がどんなに最悪だろうと愛せるが、顔さえ悪ければどんなに性格がよけれども心からは愛せない。
 そこまでいう、お前の顔はどうなのか……。
 気になる方もいるだろうから、私のお顔を端的にいうと、派手目な美人だ。
 目は大きく、猫のように吊り上がっていて、高い鼻に、ぽってりとした唇。

 どこをどうとっても、儚げ感はなくなってしまった。
 いえ、幼少期の姿絵をみてみると、かなり儚げな感じはあるのにね!

 まったく残念なことに、儚い系から派手目な感じに成長してしまった。
 もしこれで、儚い系なままだったら、旦那様のお心も狙えたかもしれないけれど、実際は、まったく真逆のタイプである。

 つまり、儚い系美少女の虜になっておられる、ゼン・アンドロ第二王子殿下こと旦那様と、私の恋物語が紡がれることはないだろう。

 まぁ、それに私も私で、私史上ナンバーワンのお顔を思い出に生きているので、ある意味ではお似合いのカップルだと言える。
 もちろん、旦那様のことは世界で二番目に愛しているけどね!


 ……広い寝室で二人用ベッドをひとりで満喫しながら、私のお飾りの妻役生活は、始まった。

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