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留学生

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話しかければ無視されるのは当たり前。
 無視というか、存在そのものを認識していないかのような振る舞いをされる。

 まあ、精神的なぶんには構わない。
 所詮は私は平民で、他の生徒は貴族だ。

 いくら平等をうたったところで、住む世界が天と地ほど違うのだ。まあ、いきなり仲良くしろと言われても無理があるのだろう。

 けれど。

「こういう、物理的なのは困るのよね」

 痛いのは嫌いだし。

 でも、まだ教科書がインクで真っ青になってないだけましかもしれない。私の血がたれないように気を付けたおかげで、教科書が読めなくなったわけではないし!

 なんといっても私の目標は、いい就職先を見つけること。

 そのために、今の成績を維持しつつ学園を卒業しなければならない。

「まっててね、カイ」

 私が学園を卒業する頃には、カイは7才だ。
 そのころに、カイが思う存分好きな道を選べるように、お姉ちゃん頑張るから。
 まあ、一月もすれば、平民と一緒に勉強することにもなれるでしょ。




 ……なーんて、思っていた時期もありました。ええ。
 放課後、今日も一人でグループワークの資料をまとめていた。

 これは、他のグループの子が帰ったから……じゃない。

 誰も私とグループを組みたがらず、だったら一人でやってねと教師にまで匙を投げられたからだ。

 楽でいいけどね!

 でも、いくら他人とあわせる必要がない分楽だと言っても本来なら五人でするところを一人でするのは面倒かも。


 って、ちょっとまって、今書いたこの落書きめちゃくちゃうまくない?

 これをこうして、前世でいうパラパラ漫画に──。
「……なに、してるの?」
「!?」


 突然声をかけられて驚いて、椅子をガタンと揺らしてしまった。けれど、その様子を気にした様子もなく、再び尋ねてくる。
「……なにしてるの?」

 真っ黒な瞳に真っ黒な髪。
 この国ではありえないほど明度を持たないその容姿。

 その容姿から、距離を置かれている彼は、遥か遠い異国からきた留学生だという。

 けれど、彼は、私と違い、いじめられていなかった。

 なんだろう。

 どこか、神秘的な雰囲気があるからかな。

「落書きをして遊んでたの」


 私がそういうと、彼は興味深そうに目を瞬かせた。
「落書き?」

 私は彼──確か名前はシキだったと思う──に、落書きを見せる。

「……ふぅん。上手だね。画家になれるんじゃない?」

 整っているその顔を少し、和らげて言われた言葉に驚く。

 それは流石に大袈裟すぎて、からかわれている……と感じてもいいはずだけど、彼の言葉は違った。

 本当に思ったことを口にしただけ。
 そんな気がする。

「……ありがとう」

 だから、私も、笑顔でそう言った。

「……?」

 彼の疑問は解決したはず。だから、立ち去るんだろうな、と思っていたら、意外にも、シキは私のひとつ前の椅子に座り、こちらを向いた。

「ねぇ、君は、なんでいじめられてるの?」
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