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中学生編
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やばいやばいやばい。既に三十分も遅刻している。
慌てて身支度を整えて、家を出る。
「運転手さんできるだけ飛ばしてください!!!」
ぜえはぁ、と息を乱しながらグラウンドにいくと、もう準備は全て終わった後だった。
「すみません!! 遅刻しました!!」
私が深々と頭を下げると、先輩方は苦笑した。
「大丈夫だよ、楓ちゃんの仕事は前川くんがやってくれたから」
前川!? ばっと振り返えると、前川はドヤ顔をした。
「後で何かおごれよ」
神様ー! 喜んでおごらせて頂きます。持つべきものは親友だ。こうしてなんとか私はピンチを乗り越えることができた。
■ □ ■
生徒会の仕事を前川がやってくれた今、私にとって運動会はお友達ゲットのチャンスである。
私が出るのは、借り物競争と、棒倒し、二人三脚だ。何とか、これらの競技で活躍しお友達をゲットするぞ。
まずは、借り物競争からだ。
「位置について、よーい、ドン」
ピストルの合図とともに、競技がスタートする。よし、今のところ一位だ。さて、借り物はなんだろう。箱の中から、お題が書かれた紙を取り出す。
「ええと、お題は……は?」
紙に書かれていたのは、好きな人♡。ご丁寧にハートマークまでついている。
な ん て ベ タ な。
普通借り物競争と言えば、眼鏡とか傘とかあたりが無難じゃないのか。辺りを見回すと、淳お兄様の姿が見えた。例によって、お父様とお母様は仕事なので、今回も保護者として来ているのは淳お兄様なのである。うわー、どうする? 借り物競争は最後にお題と借りてきたものがあっているか、チェックがある。なので、適当に選ぶわけにはいかない。
でも、淳お兄様をつれていくとか、公然の前で振られるようなものだ。どうしよう?
私が悩んでいる間にも、他の子たちは
「日傘を持っている方はおられませんか?」
「眼鏡かけている方貸していただけませんか?」
「誰かピーマンを持っている方いらっしゃいませんか?」
など、周囲の人に呼びかけ……ピーマン!? 食材という可能性もあったのか。食材に比べたらましだな。うん。
どうしよう? どうする。頭の中が、ごちゃごちゃで……ん? そうだ、この紙には好きな人、としか指定されていない。つまり、異性でなくてもいいのだ。私は、早速学年のテントに行き、ある人物たちに一緒にゴールまで来てもらった。
「おおっと、先頭がもう到着したようです。それで、お題は?」
「好きな人、です。私は、美紀さんと遼子さんが大好きなので、二人に来てもらいました」
そう、私は美紀ちゃんと遼子ちゃんに頼んで一緒に来てもらった。この二人には、お題は何か言っていない。
「合格ですー、さぁ、ゴールまであと少しです、どうぞ」
美紀ちゃんと遼子ちゃんと手を繋いで――今回の競技は借り物は手に持っておかないといけないというルールがあるのだ――ゴールした。
もちろん、一位だ。
「美紀さん、遼子さん、ありがとうございました」
「いいえ、私たちの方こそありがとうございます。好きな人、だなんて嬉しいです」
そう言って、美紀ちゃんと遼子ちゃんが笑ってくれた。……この流れなら、いける!
「あのっ、今更ですが、私と友達になって頂けませんか?」
ドキドキしながら、二人の返答を待つ。けれど、二人はぽかん、とした顔をした。
「あの……美紀さん、遼子さん?」
私が呼びかけると、二人はすぐにフリーズ状態から戻り、笑った。
「ごめんなさい、楓様。私たちてっきり、もうお友達のつもりでした」
「えぇ、私もです」
な、なんだってー! こんなことならもっと早くから確認しておけばよかった。やっぱり、確認って大事だなぁ。
「では、改めてお願いしても……?」
「ええ、もちろん」
「もちろんです」
二人は、笑顔で頷いてくれた。良かった! 二人とはずっとお友達になりたかったんだ。これで中学生ライフを思う存分楽しめるぞ。
私は、幸せな気分になりながら、残りの競技を終えた。
■ □ ■
午前の競技を終えると、皆お待ちかねお弁当の時間である。しかし、私はといえばその逆で気が重かった。今回も、保護者として来ているのは淳お兄様だ。つまり、お姉様と淳お兄様が目の前でいちゃいちゃしているのを見ながらお弁当を食べなければならない。
「……はぁ」
と、ため息をついていると、肩をぽんと叩かれた。びっくりして後ろを振り返ると、淳お兄様だった。
「探したんだよ、お弁当、食べよう」
「……はい」
三人で食べるお弁当は、とにかく気まずかった。誰も、何も話さないのだ。おそらく、私に気を使ってのことなのだろうけれど、これならまだ、淳お兄様とお姉様がいちゃついてくれたほうがましである。
……と、そんな気まずい中、お弁当を食べ終わると、救いの神が現れた。
「道脇、約束だろ、アイスおごれ」
ま、前川ー!! 神だ! 今日から前川を心の中で神と呼ぼう。
「はい、ただいま……淳お兄様?」
「ううん、何でもないよ、いっておいで」
「……はい」
淳お兄様は、何とも言い難い表情をしたが、これはあれだな、ようやくお姉様といちゃつけると喜んでいるのだろう。私は、そそくさと前川の元へと向かった。
「大丈夫か?」
前川の元へ向かうと、前川が心配そうな顔で私を見た。――ああ、そうか。前川は、単にアイスが食べたいわけだけじゃなくて、私を気遣ってあの空間から連れ出してくれたんだ。
「はい。……ありがとうございます」
私がお礼をいうと、前川は照れたのか横を向いた。
「別に、大丈夫ならいいけど。……アイスはおごれよ」
「もちろん」
前川に約束通りアイスをおごって、しばらく二人で会話していると、昼休憩が終わり、午後の競技が始まった。私は、午前のうちに競技を全て終えたので、後は見るだけだ。
――そんな感じで、私の中学生初めての運動会は終わった。
慌てて身支度を整えて、家を出る。
「運転手さんできるだけ飛ばしてください!!!」
ぜえはぁ、と息を乱しながらグラウンドにいくと、もう準備は全て終わった後だった。
「すみません!! 遅刻しました!!」
私が深々と頭を下げると、先輩方は苦笑した。
「大丈夫だよ、楓ちゃんの仕事は前川くんがやってくれたから」
前川!? ばっと振り返えると、前川はドヤ顔をした。
「後で何かおごれよ」
神様ー! 喜んでおごらせて頂きます。持つべきものは親友だ。こうしてなんとか私はピンチを乗り越えることができた。
■ □ ■
生徒会の仕事を前川がやってくれた今、私にとって運動会はお友達ゲットのチャンスである。
私が出るのは、借り物競争と、棒倒し、二人三脚だ。何とか、これらの競技で活躍しお友達をゲットするぞ。
まずは、借り物競争からだ。
「位置について、よーい、ドン」
ピストルの合図とともに、競技がスタートする。よし、今のところ一位だ。さて、借り物はなんだろう。箱の中から、お題が書かれた紙を取り出す。
「ええと、お題は……は?」
紙に書かれていたのは、好きな人♡。ご丁寧にハートマークまでついている。
な ん て ベ タ な。
普通借り物競争と言えば、眼鏡とか傘とかあたりが無難じゃないのか。辺りを見回すと、淳お兄様の姿が見えた。例によって、お父様とお母様は仕事なので、今回も保護者として来ているのは淳お兄様なのである。うわー、どうする? 借り物競争は最後にお題と借りてきたものがあっているか、チェックがある。なので、適当に選ぶわけにはいかない。
でも、淳お兄様をつれていくとか、公然の前で振られるようなものだ。どうしよう?
私が悩んでいる間にも、他の子たちは
「日傘を持っている方はおられませんか?」
「眼鏡かけている方貸していただけませんか?」
「誰かピーマンを持っている方いらっしゃいませんか?」
など、周囲の人に呼びかけ……ピーマン!? 食材という可能性もあったのか。食材に比べたらましだな。うん。
どうしよう? どうする。頭の中が、ごちゃごちゃで……ん? そうだ、この紙には好きな人、としか指定されていない。つまり、異性でなくてもいいのだ。私は、早速学年のテントに行き、ある人物たちに一緒にゴールまで来てもらった。
「おおっと、先頭がもう到着したようです。それで、お題は?」
「好きな人、です。私は、美紀さんと遼子さんが大好きなので、二人に来てもらいました」
そう、私は美紀ちゃんと遼子ちゃんに頼んで一緒に来てもらった。この二人には、お題は何か言っていない。
「合格ですー、さぁ、ゴールまであと少しです、どうぞ」
美紀ちゃんと遼子ちゃんと手を繋いで――今回の競技は借り物は手に持っておかないといけないというルールがあるのだ――ゴールした。
もちろん、一位だ。
「美紀さん、遼子さん、ありがとうございました」
「いいえ、私たちの方こそありがとうございます。好きな人、だなんて嬉しいです」
そう言って、美紀ちゃんと遼子ちゃんが笑ってくれた。……この流れなら、いける!
「あのっ、今更ですが、私と友達になって頂けませんか?」
ドキドキしながら、二人の返答を待つ。けれど、二人はぽかん、とした顔をした。
「あの……美紀さん、遼子さん?」
私が呼びかけると、二人はすぐにフリーズ状態から戻り、笑った。
「ごめんなさい、楓様。私たちてっきり、もうお友達のつもりでした」
「えぇ、私もです」
な、なんだってー! こんなことならもっと早くから確認しておけばよかった。やっぱり、確認って大事だなぁ。
「では、改めてお願いしても……?」
「ええ、もちろん」
「もちろんです」
二人は、笑顔で頷いてくれた。良かった! 二人とはずっとお友達になりたかったんだ。これで中学生ライフを思う存分楽しめるぞ。
私は、幸せな気分になりながら、残りの競技を終えた。
■ □ ■
午前の競技を終えると、皆お待ちかねお弁当の時間である。しかし、私はといえばその逆で気が重かった。今回も、保護者として来ているのは淳お兄様だ。つまり、お姉様と淳お兄様が目の前でいちゃいちゃしているのを見ながらお弁当を食べなければならない。
「……はぁ」
と、ため息をついていると、肩をぽんと叩かれた。びっくりして後ろを振り返ると、淳お兄様だった。
「探したんだよ、お弁当、食べよう」
「……はい」
三人で食べるお弁当は、とにかく気まずかった。誰も、何も話さないのだ。おそらく、私に気を使ってのことなのだろうけれど、これならまだ、淳お兄様とお姉様がいちゃついてくれたほうがましである。
……と、そんな気まずい中、お弁当を食べ終わると、救いの神が現れた。
「道脇、約束だろ、アイスおごれ」
ま、前川ー!! 神だ! 今日から前川を心の中で神と呼ぼう。
「はい、ただいま……淳お兄様?」
「ううん、何でもないよ、いっておいで」
「……はい」
淳お兄様は、何とも言い難い表情をしたが、これはあれだな、ようやくお姉様といちゃつけると喜んでいるのだろう。私は、そそくさと前川の元へと向かった。
「大丈夫か?」
前川の元へ向かうと、前川が心配そうな顔で私を見た。――ああ、そうか。前川は、単にアイスが食べたいわけだけじゃなくて、私を気遣ってあの空間から連れ出してくれたんだ。
「はい。……ありがとうございます」
私がお礼をいうと、前川は照れたのか横を向いた。
「別に、大丈夫ならいいけど。……アイスはおごれよ」
「もちろん」
前川に約束通りアイスをおごって、しばらく二人で会話していると、昼休憩が終わり、午後の競技が始まった。私は、午前のうちに競技を全て終えたので、後は見るだけだ。
――そんな感じで、私の中学生初めての運動会は終わった。
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