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中学生編
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「お前は、今日から道脇家本邸で暮らすように」
「…………はい?」
全くもって唐突すぎる。
お父様もお母様もそういう大切なことは早めに言ってほしい……と思ったが、大方、お爺様が思いついたのが私を呼び出す直前なのだろう。
訳を聞くと、中学生になったので、毎日習い事や勉強の報告をさせようと思ったが、毎回本邸に来るのは面倒だろう、という配慮からのようだった。
なんもまあいらぬ気遣い、というか有難迷惑な話である。
ただでさえ桃との心の距離は離れてるというのに、実際の距離まで離れてしまった。
これでは、私の中学生の目標その一、家族関係をよくすることを達成することが難しくなるじゃないか。
抗議をしたいが、道脇家家訓その一は絶対だ。私が驚いている間に、着々と荷物が届けられ、ここで住む準備が整ってしまった。こうなったら、何かと理由をつけて、家に戻り、好感度を稼ぐしかない。
「安心しろ。淳も一緒だ。まぁ、淳は大学へ行くまでの二年間になるが」
淳お兄様は大学生になったら、学業をこなす傍らお父様の仕事を手伝うため、私の家に住むことが決まっているのだ。そこで、距離を縮めていくのが長女のキミである。
っていうか、お爺様、心なしか、嬉しそうじゃない? もしかして、私の面倒を省くためじゃなくて、淳お兄様と自分が一緒に暮らしたかっただけじゃなかろうか。そういいたかったが、気配を察したお爺様から睨まれたので、黙って頷くことしかできなかった。
■ □ ■
「淳お兄様!」
お爺様の部屋から退出すると、淳お兄様と出会った。淳お兄様は、私よりも先に呼び出されていたらしい。淳お兄様に久しぶりに会うのが嬉しすぎて、思わず、淳お兄様に抱き着いた。淳お兄様は優しく私を抱き留めた後、柔らかく微笑んだ。
「久しぶりだね、楓」
はい、お久しぶりです! と答えようとして、はっとした。だめだ! 中学生になって初めての出会いだというのに、子供っぽすぎる。
「……ごめんなさい、淳お兄様。出会い頭からやり直してもいいですか?」
戸惑いつつも、頷いてくれた淳お兄様に甘えてもう一度距離を取ってもらう。
「お久しぶりです、淳お兄様」
今度は、走って駆け寄ったりせず、しずしずと大人っぽくできたと思う。淳お兄様は、私の意図するところに気づいたのか、ふふ、とまた微笑んで、
「本当に久しぶりだね、楓。……大人っぽくなったね」
と言ってくれた。けれど、気を使わせている感がありありであり、申し訳なく思う。本当に、私はまだまだ未熟だな。こんな様子では、全然貴方と対等になんてなれない。気を落としていると、淳お兄様が頭を撫でてくれたので、少しだけ、気分が上向きになる。
中学生になったばかりなのだ。まだまだこれから、頑張るぞ。
桃や家族との物理的距離は開いてしまったが、その分淳お兄様との距離は近づいたのだ。これを生かして、淳お兄様と並びたてるぐらい素敵な人物になれるように頑張ろう。
■ □ ■
私が今まで暮らしていた道脇家別邸は、洋風であり、当然ベッドだった。しかし、本邸は和風建築であり、ベッドではなく敷布団なので眠れないかと心配したが、そんなことはなく、ぐっすりと眠れた。自分の順応能力というか、図太さに若干呆れないでもないが、まぁ、睡眠不足になるよりはいいだろう。
道脇家――というか本邸での掟その一に、朝食は全員揃って、というものがある。食事のマナーに目を光らせている祖父の前では冷や汗が出つつも、無事、朝食を終えることができた。
本邸は、鳳海学園から離れたところにあるため、いつもよりも早く出なくてはならない。急いで準備をして、車に飛び乗った。これからは、準備がもっと早くできるように、早く慣れないとな。
教室にいくと、前川が大量の上級生から囲まれていた。訳を聞くと、どうやら前川を中等科の生徒会役員にならないか、と勧誘に来たらしい。そんな前川がようやく解放されたのは、ホームルームが始まる五分前だった。
「全く……、俺は絶対生徒会役員になんてならないからな」
「まぁ、いいじゃないですか。確か、亜季さんも今年から鳳海学園に入学でしたよね。妹さんを助けると思って」
前川亜季――その名の通り六歳離れた前川の妹だ。中等科の生徒会役員は、普段の業務の他に、初等科の生徒会役員の補佐という仕事もある。
「いいわけあるか! 初等科の生徒会長だって、お前ら俺に押し付けやがって」
「それは、零次がジャンケンに負けたのが悪いんじゃない。公平に決めたじゃないか」
ねぇ、道脇さん。と赤田に同意を求められ、頷く。お姉様が初等科を卒業した後、誰が会長になるのか決める際に、皆会長になるのを嫌がったので、話し合いでは埒が明かないと、ジャンケンで決めたのだ。
ちなみに前川は一発目で負けた。
「あー、もううるさい! お前ら俺を何だと思ってるんだ」
何って……、ねぇ。赤田と目が合う。思っていることは一緒のようだ。
「親友」
私たちが声をそろえて言うと、前川は照れたのか、俯いた。その様子が可愛かったので、赤田と私で前川を撫でると、手を振り払われた。冷たいなぁ、と赤田といいながら席につく。そろそろホームルームが始まる時間だった。
今日はいきなり授業で体育がある。体育のペア決めでぜひ、新しい友達を作るぞ!
「…………はい?」
全くもって唐突すぎる。
お父様もお母様もそういう大切なことは早めに言ってほしい……と思ったが、大方、お爺様が思いついたのが私を呼び出す直前なのだろう。
訳を聞くと、中学生になったので、毎日習い事や勉強の報告をさせようと思ったが、毎回本邸に来るのは面倒だろう、という配慮からのようだった。
なんもまあいらぬ気遣い、というか有難迷惑な話である。
ただでさえ桃との心の距離は離れてるというのに、実際の距離まで離れてしまった。
これでは、私の中学生の目標その一、家族関係をよくすることを達成することが難しくなるじゃないか。
抗議をしたいが、道脇家家訓その一は絶対だ。私が驚いている間に、着々と荷物が届けられ、ここで住む準備が整ってしまった。こうなったら、何かと理由をつけて、家に戻り、好感度を稼ぐしかない。
「安心しろ。淳も一緒だ。まぁ、淳は大学へ行くまでの二年間になるが」
淳お兄様は大学生になったら、学業をこなす傍らお父様の仕事を手伝うため、私の家に住むことが決まっているのだ。そこで、距離を縮めていくのが長女のキミである。
っていうか、お爺様、心なしか、嬉しそうじゃない? もしかして、私の面倒を省くためじゃなくて、淳お兄様と自分が一緒に暮らしたかっただけじゃなかろうか。そういいたかったが、気配を察したお爺様から睨まれたので、黙って頷くことしかできなかった。
■ □ ■
「淳お兄様!」
お爺様の部屋から退出すると、淳お兄様と出会った。淳お兄様は、私よりも先に呼び出されていたらしい。淳お兄様に久しぶりに会うのが嬉しすぎて、思わず、淳お兄様に抱き着いた。淳お兄様は優しく私を抱き留めた後、柔らかく微笑んだ。
「久しぶりだね、楓」
はい、お久しぶりです! と答えようとして、はっとした。だめだ! 中学生になって初めての出会いだというのに、子供っぽすぎる。
「……ごめんなさい、淳お兄様。出会い頭からやり直してもいいですか?」
戸惑いつつも、頷いてくれた淳お兄様に甘えてもう一度距離を取ってもらう。
「お久しぶりです、淳お兄様」
今度は、走って駆け寄ったりせず、しずしずと大人っぽくできたと思う。淳お兄様は、私の意図するところに気づいたのか、ふふ、とまた微笑んで、
「本当に久しぶりだね、楓。……大人っぽくなったね」
と言ってくれた。けれど、気を使わせている感がありありであり、申し訳なく思う。本当に、私はまだまだ未熟だな。こんな様子では、全然貴方と対等になんてなれない。気を落としていると、淳お兄様が頭を撫でてくれたので、少しだけ、気分が上向きになる。
中学生になったばかりなのだ。まだまだこれから、頑張るぞ。
桃や家族との物理的距離は開いてしまったが、その分淳お兄様との距離は近づいたのだ。これを生かして、淳お兄様と並びたてるぐらい素敵な人物になれるように頑張ろう。
■ □ ■
私が今まで暮らしていた道脇家別邸は、洋風であり、当然ベッドだった。しかし、本邸は和風建築であり、ベッドではなく敷布団なので眠れないかと心配したが、そんなことはなく、ぐっすりと眠れた。自分の順応能力というか、図太さに若干呆れないでもないが、まぁ、睡眠不足になるよりはいいだろう。
道脇家――というか本邸での掟その一に、朝食は全員揃って、というものがある。食事のマナーに目を光らせている祖父の前では冷や汗が出つつも、無事、朝食を終えることができた。
本邸は、鳳海学園から離れたところにあるため、いつもよりも早く出なくてはならない。急いで準備をして、車に飛び乗った。これからは、準備がもっと早くできるように、早く慣れないとな。
教室にいくと、前川が大量の上級生から囲まれていた。訳を聞くと、どうやら前川を中等科の生徒会役員にならないか、と勧誘に来たらしい。そんな前川がようやく解放されたのは、ホームルームが始まる五分前だった。
「全く……、俺は絶対生徒会役員になんてならないからな」
「まぁ、いいじゃないですか。確か、亜季さんも今年から鳳海学園に入学でしたよね。妹さんを助けると思って」
前川亜季――その名の通り六歳離れた前川の妹だ。中等科の生徒会役員は、普段の業務の他に、初等科の生徒会役員の補佐という仕事もある。
「いいわけあるか! 初等科の生徒会長だって、お前ら俺に押し付けやがって」
「それは、零次がジャンケンに負けたのが悪いんじゃない。公平に決めたじゃないか」
ねぇ、道脇さん。と赤田に同意を求められ、頷く。お姉様が初等科を卒業した後、誰が会長になるのか決める際に、皆会長になるのを嫌がったので、話し合いでは埒が明かないと、ジャンケンで決めたのだ。
ちなみに前川は一発目で負けた。
「あー、もううるさい! お前ら俺を何だと思ってるんだ」
何って……、ねぇ。赤田と目が合う。思っていることは一緒のようだ。
「親友」
私たちが声をそろえて言うと、前川は照れたのか、俯いた。その様子が可愛かったので、赤田と私で前川を撫でると、手を振り払われた。冷たいなぁ、と赤田といいながら席につく。そろそろホームルームが始まる時間だった。
今日はいきなり授業で体育がある。体育のペア決めでぜひ、新しい友達を作るぞ!
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