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二章

女神の力を使わずに

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「リッカルド様……」
 どんな顔をしていいかわからず、曖昧に微笑む。

「ソフィア嬢、どうしたの?」
 リッカルド様が私の目を覗き込んだ。
「元気がないね」
 かつての私が恋に落ちたのと同じ黒の瞳で、リッカルド様は私を見つめる。

「私は……」
 本当なら、あなたに話しかけてもらえる資格なんてなかったのに。それなのに、欲望を優先させてしまった。

『幸せになれ、ソフィア』

 悪魔の言葉が蘇る。
 私は、幸せになるべき人間じゃない。

 それなのに。

「ソフィア嬢?」
 リッカルド様は優しく私の唇に触れた。

「どうしたの、跡がついてしまうよ」
「!」
 昨日の悪魔にもされた行動に、唇を噛み締めていた力が抜ける。
「リッカルド様が……」
「うん?」
「私が……私のせいで」

 じわり、と涙が滲む。

「ごめんな、さ」

 これ以上、リッカルド様を見ていられなくて。
 だって、リッカルド様に見つめられるだけで、私は幸せになってしまう。私だけが、幸せに。

「どうして、謝るの?」
 リッカルド様は、困った顔をしていた。

 当然だ。
 わけもわからず泣き出す同級生。

「私、本当は、リッカルド様に心配してもらえるような人間じゃ無いんです、だって、私……」

「ーーソフィア」
「!?」

 リッカルド様に初めて、名前を呼ばれた。

「ふふ、驚いてる」
 楽しそうに笑ったリッカルド様は、私の涙を細く長い指で拭った。

「ね、今日は学園さぼってしまおう」
「え……」
「僕も君も成績は優秀だし。問題ないよ。それにサボりは今日だけじゃないしね」

 確かに、私はともかくとして、リッカルド様も何日か学園をサボっていた。

「おいでソフィア」

 リッカルド様が、私の手を引く。
 なぜか、リッカルド様に名前を呼ばれると、反抗する気になれなかった。

 黙って、リッカルド様についていく。
 リッカルド様の向かう先は、どこだろう。

「ねぇ、ソフィア」

 リッカルド様が、止まった。
 たどり着いたのは、魔獣の森の……初めてくる場所だった。

 小さな小屋があり、その周りには野菜の育った畑や花畑が広がっている。

「こんな場所が……」
 魔獣の森にあったなんて、知らなかった。
「ふふ。驚いた?」
 リッカルド様の言葉に頷く。
「ここはね、僕の研究所なんだ。魔獣は、結界を張ってあるから近づけないよ」
「研究所……?」

 うん、と小さく頷くと、リッカルド様は、私に一輪の花を渡した。

「この花に触れてみて」
「……!」

 花からは甘い香りがした。
 でも、驚いたのはそこじゃなくて。

「……女神の力を、感じない」
「うん、大正解。ここの植物たちは、女神の力を借りずに、育ってるんだ」

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