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「……悪魔」
燃える盛る炎のような真っ赤な髪の悪魔が、私の目の前に立っていた。
構えた剣の切っ先を下ろし、悪魔を見つめる。
「どうしたの? あなたも知っての通り、あいにく、心臓はまだ一つしか……」
『……』
悪魔は無言で私を見ると、そっとその頬に触れた。
「……? どうしたの?」
まるで労わるように、私の頬を撫でる白くて長い指先。
その指に、まだ落とし切れていなかった返り血がついているのを見て、私は顔を顰めた。
「悪魔、汚れるわよ」
『……構わん』
? 本当にどうしたんだろう。
最近の悪魔は、なんだかおかしい。
以前なら、せいぜい励めよ、くらいしか言わなかったくせに。
まるで、心配しているように見える。
『ソフィア』
「なに?」
悪魔は、ゆっくりと私の名前を呼ぶと、私を見つめた。
『……魔獣の心臓集めはやめてもよい』
!?!?!?!?!?!!?!!??
「――なに、を」
何を言っているの、この悪魔は。
「ふざけないで! あなたは神になるんでしょう!?」
悪魔を睨みつけ、語気を強くする。
この悪魔に心臓を捧げ、そして神としてまた君臨させること。
それを条件に時を戻してもらったのに。
悪魔側から契約の解除のようなことを言い出すとは、どういうことなの。
『我は……』
悪魔は、長い睫毛をそっと伏せた。
もともと神だったという言葉も納得できるほど、この悪魔は美しい。
絵になるその姿でさえ、今は腹立たしく思う。
「神になってくれるんでしょ! それで、リッカルド様と私の運命を変えてくれるんでしょ!?」
もし、また私とリッカルド様が女神の使いに選ばれてしまったら。
私は今度こそ、リッカルド様の隣に立つことを選ばない。
そうすれば、女神は、この国を去ってしまう。加護が失われたこの国に、どれほどの被害がでるのか想像もつかない。
『――それほど、あの男が大事か?』
悪魔の、深紅の瞳が私を映す。
「……当たり前よ。だって、私は――リッカルド様を殺したんだもの」
私が追い詰めたリッカルド様は二度と生き返ることはないけれど。もう二度と、あの人が死んだ、なんていう報告は聞きたくない。
『そこで、好きだから、とは言わないんだな』
「……それ、は、好き、だけど」
以前の私は恋をしていたと間違いなく断言できる。そして今の私もリッカルド様に対して好意を抱き続けているのは間違いない。
でも、大事か、と問われて、まっさきに好きだから、と言うには、私が犯してしまった罪は、大きすぎる。
『……ならば、やり直せばよい。今のあの男は生きていて、お前も生きているのだから』
燃える盛る炎のような真っ赤な髪の悪魔が、私の目の前に立っていた。
構えた剣の切っ先を下ろし、悪魔を見つめる。
「どうしたの? あなたも知っての通り、あいにく、心臓はまだ一つしか……」
『……』
悪魔は無言で私を見ると、そっとその頬に触れた。
「……? どうしたの?」
まるで労わるように、私の頬を撫でる白くて長い指先。
その指に、まだ落とし切れていなかった返り血がついているのを見て、私は顔を顰めた。
「悪魔、汚れるわよ」
『……構わん』
? 本当にどうしたんだろう。
最近の悪魔は、なんだかおかしい。
以前なら、せいぜい励めよ、くらいしか言わなかったくせに。
まるで、心配しているように見える。
『ソフィア』
「なに?」
悪魔は、ゆっくりと私の名前を呼ぶと、私を見つめた。
『……魔獣の心臓集めはやめてもよい』
!?!?!?!?!?!!?!!??
「――なに、を」
何を言っているの、この悪魔は。
「ふざけないで! あなたは神になるんでしょう!?」
悪魔を睨みつけ、語気を強くする。
この悪魔に心臓を捧げ、そして神としてまた君臨させること。
それを条件に時を戻してもらったのに。
悪魔側から契約の解除のようなことを言い出すとは、どういうことなの。
『我は……』
悪魔は、長い睫毛をそっと伏せた。
もともと神だったという言葉も納得できるほど、この悪魔は美しい。
絵になるその姿でさえ、今は腹立たしく思う。
「神になってくれるんでしょ! それで、リッカルド様と私の運命を変えてくれるんでしょ!?」
もし、また私とリッカルド様が女神の使いに選ばれてしまったら。
私は今度こそ、リッカルド様の隣に立つことを選ばない。
そうすれば、女神は、この国を去ってしまう。加護が失われたこの国に、どれほどの被害がでるのか想像もつかない。
『――それほど、あの男が大事か?』
悪魔の、深紅の瞳が私を映す。
「……当たり前よ。だって、私は――リッカルド様を殺したんだもの」
私が追い詰めたリッカルド様は二度と生き返ることはないけれど。もう二度と、あの人が死んだ、なんていう報告は聞きたくない。
『そこで、好きだから、とは言わないんだな』
「……それ、は、好き、だけど」
以前の私は恋をしていたと間違いなく断言できる。そして今の私もリッカルド様に対して好意を抱き続けているのは間違いない。
でも、大事か、と問われて、まっさきに好きだから、と言うには、私が犯してしまった罪は、大きすぎる。
『……ならば、やり直せばよい。今のあの男は生きていて、お前も生きているのだから』
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