上 下
72 / 76
二度目の恋

72 朧月夜

しおりを挟む
「離縁は、双方の合意がないとできない。私は、したくない」
魔王はきっぱりと言い切った。

 「オドウェル様は、私のことを愛しているわけではないでしょう」
私は、魔王のことを愛しているが、魔王は私を愛していない。それなら、離縁することに躊躇いを覚える必要はないはずだ。

 「貴方のことをまだあまり知らないが、知りたいと思っている。だから、嫌だ。離縁以外の方法を考える」
「オドウェル様。離縁、しましょう」
私が再びそう言うと、魔王は子供のように首を降った。

 「オドウェル様」
サリー嬢は言っていた。よい后とは、王が間違ったときに正す者だと。たとえ僅かな間であったとしても、私はよい后でありたい。

「私が好きになったのは、他の何よりもクリスタリアを愛しているオドウェル様です。今のオドウェル様は、違うのですか」

 魔王は、本来なら、私ごときで悩んだりしない。クリスタリアのことを一番に考える。私のように恋一つのために、世界を捨てられないひと。でも、そんなひとだからこそ、好きになった。

 魔王を真っ直ぐに見つめる。暫く無言で見つめあった後、先にそらしたのは魔王だった。

 「……わかった。二日後、離縁式を行う」



 結婚してから、一週間も立たないうちに、離婚するとは我ながら波乱万丈な人生だ。

 離婚するといっても、現代のようにただ書類にサインをするのではなく、離縁式を行わなければならないらしい。ちなみに、代々の魔王で、離縁式を行った魔王はいないそうだから、私は、魔王の汚点になってしまうことは確実だった。巻き戻し後は、サリー嬢に会っていないが、会えばかなりの鞭を受けることになるだろう。


 でも、魔王と離婚して、巫女の力を取り戻して、カスアン神を倒して。その後は──?

 この世界では、同一人物との再婚はできない。

 魔王の、あ、愛人になるとか?

 いや、だから、そもそも、魔王は私を愛していないのだ。
 それに、クリスタリアにとって、后の座が空になることは、好ましくない。魔王はいずれ、他の女性を娶るだろうし、そのときに、愛人などという不誠実なことはしないだろう。

 だから、離縁して、カスアン神を倒したら、魔王とはお別れだ。

 魔王のいる、世界に残ろうと思った。だから、私にとって、魔王のいない世界は、残る意味がない。魔王と離縁すれば、巫女の力が戻るのなら、私は、私の世界に帰ることもできる。

 いっそ、元の世界に帰ろうか。

 何だか、それもいい気がした。私は元々、この世界にとっての異分子だ。やっぱり、本来のあるべき場所へ戻るのがいいのかもしれない。

 そんなことを考えながら、月を眺めていると、ガレンが、私の部屋を訪ねてきた。

 「ガレン、どうしたの?」
私を見ると、ガレンは苦しそうな顔をした。
「ガレン……?」
「私は、魔王が、美香を幸せにするのなら、諦めても良いと思いました。ですが、魔王が美香の手を離すならば。カスアン神を倒した後、私の元へ来ませんか?」

 「……ガレン」
「美香が、魔王を好きでも構いません。いつか、振り向いてくれるまで、待ち続けます。だから、考えてもらえませんか?」

 それだけ言うと、ガレンは、去っていってしまった。ガレンの考えは、どこまでも私を思いやってのことだった。だって、自分のことが好きじゃない人と一緒にいたって、辛いだけだ。でも、ガレンの優しさに甘えちゃだめだ。魔王がだめだったから、ガレンのところに行く、なんて不誠実なことはできない。

 ──やっぱり、全部終わったら、元の世界へ帰ろう。

 そう決めて、ベッドで眠った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗もう私に関わらないでください!

藍川みいな
恋愛
エリック様と結婚して3年が経ちます。結婚するまでは、愛されているのだと思っていました。 あんなに優しかったエリック様が、次々と愛人を連れて来て、“彼女は大切な女性だ”と私に紹介する。我慢の限界を迎えた私は、離縁して欲しいとお願いしました。それがきっかけで、エリック様は豹変し、暴力をふるってきた。身も心もボロボロになったある日、私は永遠に彼から逃げようと決意した。 舞踏会が開かれた王城のバルコニーから身を投げ、私の人生は幕を閉じた……はずだった。 次の瞬間、何故か10歳の自分に戻っていたのです。 やり直す機会をもらった私は、もう二度と彼に人生を奪われない為に強くなる決心をする。 *巻き戻る前の話は、かなり気分の悪い話になっています。ご注意ください。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全44話で完結になります。 *感想は全て“ネタバレを含む”の仕様にはしていません。感想欄はネタバレの可能性があります。 いつもあたたかい感想を、ありがとうございます。

【完結】猛反した王子は、婚約破棄を頑張りたい。

❄️冬は つとめて
恋愛
婚約者を断頭台に送ってしまった王子。逆行し過去に戻って来てしまった。猛反省した王子は、婚約破棄へと頑張ります。 『氷の王、クラウス。』過去に戻る前の話を書き出しました。宜しければ、其方もどうぞ。 注)思い込みの激しい悲劇のヒーロー振る主人公がお嫌いな方は不快に感じる場合がありますので、おすすめできません。スルーをお願いいたします。

【完結】「離婚して欲しい」と言われましたので!

つくも茄子
恋愛
伊集院桃子は、短大を卒業後、二年の花嫁修業を終えて親の決めた幼い頃からの許嫁・鈴木晃司と結婚していた。同じ歳である二人は今年27歳。結婚して早五年。ある日、夫から「離婚して欲しい」と言われる。何事かと聞くと「好きな女性がいる」と言うではないか。よくよく聞けば、その女性は夫の昔の恋人らしい。偶然、再会して焼け木杭には火が付いた状態の夫に桃子は離婚に応じる。ここ半年様子がおかしかった事と、一ヶ月前から帰宅が稀になっていた事を考えると結婚生活を持続させるのは困難と判断したからである。 最愛の恋人と晴れて結婚を果たした晃司は幸福の絶頂だった。だから気付くことは無かった。何故、桃子が素直に離婚に応じたのかを。 12/1から巻き戻りの「一度目」を開始しました。

【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです

冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。 あなたを本当に愛していたから。 叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。 でも、余計なことだったみたい。 だって、私は殺されてしまったのですもの。 分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。 だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。 あなたはどうか、あの人と幸せになって --- ※ R-18 は保険です。

狂おしいほどに君を愛している

音無砂月
恋愛
スカーレット・ブラッティーネ ブラッティーネ公爵家の妾腹であり、傲慢で我儘。息を吸うように人を貶める歴代最高の悪女 そう歴史書に記載されている彼女だがバットエンドを迎えるたびに時間が巻き戻り何度も同じ、しかし違う結末を迎えていたことを知るものはいない。

【完結】旦那様に隠し子がいるようです。でも可愛いから全然OK!

曽根原ツタ
恋愛
 実家の借金返済のため、多額の支度金を用意してくれるという公爵に嫁ぐことを父親から押し付けられるスフィミア。冷酷無慈悲、引きこもりこ好色家と有名な公爵だが、超ポジティブな彼女は全く気にせずあっさり縁談を受けた。  公爵家で出迎えてくれたのは、五歳くらいの小さな男の子だった。 (まぁ、隠し子がいらっしゃったのね。知らされていなかったけれど、可愛いから全然OK!)  そして、ちょっとやそっとじゃ動じないポジティブ公爵夫人が、可愛い子どもを溺愛する日々が始まる。    一方、多額の支度金を手に入れたスフィミアの家族は、破滅の一途を辿っていて……? ☆小説家になろう様でも公開中

【完結】愛に溺れたらバッドエンド!?巻き戻り身を引くと決めたのに、放っておいて貰えません!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ジスレーヌは、愛する婚約者リアムに尽くすも、 その全てが裏目に出ている事に気付いていなかった。 ある時、リアムに近付く男爵令嬢エリザを牽制した事で、いよいよ愛想を尽かされてしまう。 リアムの愛を失った絶望から、ジスレーヌは思い出の泉で入水自害をし、果てた。 魂となったジスレーヌは、自分の死により、リアムが責められ、爵位を継げなくなった事を知る。 こんなつもりではなかった!ああ、どうか、リアムを助けて___! 強く願うジスレーヌに、奇跡が起こる。 気付くとジスレーヌは、リアムに一目惚れした、《あの時》に戻っていた___ リアムが侯爵を継げる様、身を引くと決めたジスレーヌだが、今度はリアムの方が近付いてきて…?   異世界:恋愛 《完結しました》  お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

婚約破棄した殿下が今更迫ってきます!迷惑なのでもう私に構わないで下さい

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のリリアーナは、王太子でもある婚約者、アレホから “君を愛する事はない。惨めな生活を送りたくなかったら、僕と婚約破棄して欲しい” と迫られた。隣にはアレホが愛する伯爵令嬢、マルティの姿も。 1年もの間、アレホから一方的に攻められ、マルティからは酷い暴言や暴力を受け続けていたリリアーナ。父親でもある公爵にアレホとの婚約破棄を懇願するが“もう少し辛抱してくれ”と、受け入れてもらえなかった。 絶望し生きる希望すら失いかけていたリリアーナは、藁をもすがる思いで修道院へと向かった。そこで出会った修道長の協力のお陰で、やっと両親もアレホとの婚約破棄に同意。ただ、アレホはマルティから魅了魔法に掛けられている事、もうすぐで魔法が解けそうだという事を聞かされた。 それでも婚約破棄したいと訴えるリリアーナの気持ちを尊重した両親によって、無事婚約破棄する事が出来たのだった。 やっとこれで平和に暮らせる、そう思っていたリリアーナだったが、ある出来事がきっかけで完全に魅了魔法が解けたアレホは、あろう事かリリアーナに復縁を迫って来て…

処理中です...