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二度目の生
29 ガレン
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「話し合う前に、ルールを決めよう。お互いが話しているときは、最後まで聞くこと。いい?」
私がそういうと、ガレンは頷いた。
「他の者に聞かれないように防音の魔法もかけましょう」
私には魔法は使えないので、それはガレンにお願いする。
「……できました」
「どっちから話す?」
「私……いえ、美香から」
「わかった」
私は、私が覚えている限りのことを話した。アストリアに召喚され、聖女になってほしいといわれたこと。自分ではできる限りのことはしたつもりだったこと。けれど、私が召喚された一年後、本物の聖女が現れ、私の居場所はどんどんなくなっていったこと。そして、最終的に聖女を騙った罪で、処刑されたこと。
全てを話終えると、ガレンは頷いた。
「やはり、美香には記憶があるのですね」
「……うん。ガレンの話を聞かせてくれる?」
「わかり、ました」
ここから先はガレンの話だ。
美香、貴方は気づいていなかったかもしれませんが、美香が召喚されたとき、私もその場にいたのです。私たちに、自分勝手な理由で召喚され、美香はとても戸惑っていましたね。でも、優しい貴方は、最終的に私たちの願いに頷いてくれた。何て、貴方は慈悲深いのだろうとそう思いました。私たちの世界では唯一の黒い瞳を不安げに揺らしながら、でも、確かに頷いてくれたこと、とても嬉しく思いました。
それから、私は貴方の護衛になりました。貴方の護衛になれたことは私の誉れです。この世界では当たり前のことでも、貴方にとっては未知のことばかり。その一つ一つに、驚き表情を変える貴方をとても好ましく思いました。
そして、美香、貴方が私に思いを傾けてくれているのもとても嬉しかった。貴方に名前を呼ばれる度、貴方の瞳に私が映る度、私は特別な存在になれた気がした。
──失礼、話が脱線してしまいましたね。戦を知らない世界で育ったという貴方が、戦場に立つのはどれほど辛く、困難なことだったでしょう。
それでも、貴方は私たちを支え続けてくれた。貴方はまさに、聖女だった。聖女以外の何者でもなかった。ある日、までは。
その日は、突然やって来ました。確か、その日は雨が降っていた。雨が花に変わったかと思うと、まばゆい光がみち、その眩しさに目を閉じて、再び目を開いたとき、そこには一人の少女が立っていました。少女は自らを聖女と名乗り、次々に魔物を滅ぼしていったのです。
彼女が、現れた後、私は王に呼び出されました。そして、真実を聞かされたのです。美香、貴方を聖女ではなく、厄災をもたらす巫女として召喚したのだと。巫女が現れれば、聖女はいずれ現れる。そのために、召喚したのだと聞かされました。そして、聖女が現れた以上、厄災を招く可能性のある巫女はもう要らない。……殺せと、貴方を、美香を、殺せと言われました。
私は、それを拒絶しました。けれど、王命が下った以上、そうなることはもう決まっていたのです。私は、美香の護衛から外され、『聖女』の護衛に。『聖女』の評判があがると同時に、美香の評判はどんどん下がり、そして、あの日を迎えました。
けれど、私は諦められなかった。
どうして、何も出来ない貴方が、何も出来ないとわかっていながら、震える足で戦場に立った貴方が、聖女ではなく、厄災を招く巫女だと言うのでしょう。
そんなはずない。そんなことあっていいはずがない。
諦められなかった私は、ある方法を使うことにしました。王族にだけ伝わる禁じられた魔法。
「まさか……」
信じられない思いで、ガレンを見つめる。ガレンはゆっくりと頷いた。金の瞳は涙の膜でゆらゆらと揺れていた。
「……時を戻す、魔法です」
私がそういうと、ガレンは頷いた。
「他の者に聞かれないように防音の魔法もかけましょう」
私には魔法は使えないので、それはガレンにお願いする。
「……できました」
「どっちから話す?」
「私……いえ、美香から」
「わかった」
私は、私が覚えている限りのことを話した。アストリアに召喚され、聖女になってほしいといわれたこと。自分ではできる限りのことはしたつもりだったこと。けれど、私が召喚された一年後、本物の聖女が現れ、私の居場所はどんどんなくなっていったこと。そして、最終的に聖女を騙った罪で、処刑されたこと。
全てを話終えると、ガレンは頷いた。
「やはり、美香には記憶があるのですね」
「……うん。ガレンの話を聞かせてくれる?」
「わかり、ました」
ここから先はガレンの話だ。
美香、貴方は気づいていなかったかもしれませんが、美香が召喚されたとき、私もその場にいたのです。私たちに、自分勝手な理由で召喚され、美香はとても戸惑っていましたね。でも、優しい貴方は、最終的に私たちの願いに頷いてくれた。何て、貴方は慈悲深いのだろうとそう思いました。私たちの世界では唯一の黒い瞳を不安げに揺らしながら、でも、確かに頷いてくれたこと、とても嬉しく思いました。
それから、私は貴方の護衛になりました。貴方の護衛になれたことは私の誉れです。この世界では当たり前のことでも、貴方にとっては未知のことばかり。その一つ一つに、驚き表情を変える貴方をとても好ましく思いました。
そして、美香、貴方が私に思いを傾けてくれているのもとても嬉しかった。貴方に名前を呼ばれる度、貴方の瞳に私が映る度、私は特別な存在になれた気がした。
──失礼、話が脱線してしまいましたね。戦を知らない世界で育ったという貴方が、戦場に立つのはどれほど辛く、困難なことだったでしょう。
それでも、貴方は私たちを支え続けてくれた。貴方はまさに、聖女だった。聖女以外の何者でもなかった。ある日、までは。
その日は、突然やって来ました。確か、その日は雨が降っていた。雨が花に変わったかと思うと、まばゆい光がみち、その眩しさに目を閉じて、再び目を開いたとき、そこには一人の少女が立っていました。少女は自らを聖女と名乗り、次々に魔物を滅ぼしていったのです。
彼女が、現れた後、私は王に呼び出されました。そして、真実を聞かされたのです。美香、貴方を聖女ではなく、厄災をもたらす巫女として召喚したのだと。巫女が現れれば、聖女はいずれ現れる。そのために、召喚したのだと聞かされました。そして、聖女が現れた以上、厄災を招く可能性のある巫女はもう要らない。……殺せと、貴方を、美香を、殺せと言われました。
私は、それを拒絶しました。けれど、王命が下った以上、そうなることはもう決まっていたのです。私は、美香の護衛から外され、『聖女』の護衛に。『聖女』の評判があがると同時に、美香の評判はどんどん下がり、そして、あの日を迎えました。
けれど、私は諦められなかった。
どうして、何も出来ない貴方が、何も出来ないとわかっていながら、震える足で戦場に立った貴方が、聖女ではなく、厄災を招く巫女だと言うのでしょう。
そんなはずない。そんなことあっていいはずがない。
諦められなかった私は、ある方法を使うことにしました。王族にだけ伝わる禁じられた魔法。
「まさか……」
信じられない思いで、ガレンを見つめる。ガレンはゆっくりと頷いた。金の瞳は涙の膜でゆらゆらと揺れていた。
「……時を戻す、魔法です」
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