上 下
29 / 76
二度目の生

29 ガレン

しおりを挟む
「話し合う前に、ルールを決めよう。お互いが話しているときは、最後まで聞くこと。いい?」
私がそういうと、ガレンは頷いた。
「他の者に聞かれないように防音の魔法もかけましょう」
私には魔法は使えないので、それはガレンにお願いする。

 「……できました」
「どっちから話す?」
「私……いえ、美香から」
「わかった」

 私は、私が覚えている限りのことを話した。アストリアに召喚され、聖女になってほしいといわれたこと。自分ではできる限りのことはしたつもりだったこと。けれど、私が召喚された一年後、本物の聖女が現れ、私の居場所はどんどんなくなっていったこと。そして、最終的に聖女を騙った罪で、処刑されたこと。

 全てを話終えると、ガレンは頷いた。
「やはり、美香には記憶があるのですね」
「……うん。ガレンの話を聞かせてくれる?」
「わかり、ました」

 ここから先はガレンの話だ。


 美香、貴方は気づいていなかったかもしれませんが、美香が召喚されたとき、私もその場にいたのです。私たちに、自分勝手な理由で召喚され、美香はとても戸惑っていましたね。でも、優しい貴方は、最終的に私たちの願いに頷いてくれた。何て、貴方は慈悲深いのだろうとそう思いました。私たちの世界では唯一の黒い瞳を不安げに揺らしながら、でも、確かに頷いてくれたこと、とても嬉しく思いました。

 それから、私は貴方の護衛になりました。貴方の護衛になれたことは私の誉れです。この世界では当たり前のことでも、貴方にとっては未知のことばかり。その一つ一つに、驚き表情を変える貴方をとても好ましく思いました。

 そして、美香、貴方が私に思いを傾けてくれているのもとても嬉しかった。貴方に名前を呼ばれる度、貴方の瞳に私が映る度、私は特別な存在になれた気がした。

 ──失礼、話が脱線してしまいましたね。戦を知らない世界で育ったという貴方が、戦場に立つのはどれほど辛く、困難なことだったでしょう。

 それでも、貴方は私たちを支え続けてくれた。貴方はまさに、聖女だった。聖女以外の何者でもなかった。ある日、までは。

 その日は、突然やって来ました。確か、その日は雨が降っていた。雨が花に変わったかと思うと、まばゆい光がみち、その眩しさに目を閉じて、再び目を開いたとき、そこには一人の少女が立っていました。少女は自らを聖女と名乗り、次々に魔物を滅ぼしていったのです。


 彼女が、現れた後、私は王に呼び出されました。そして、真実を聞かされたのです。美香、貴方を聖女ではなく、厄災をもたらす巫女として召喚したのだと。巫女が現れれば、聖女はいずれ現れる。そのために、召喚したのだと聞かされました。そして、聖女が現れた以上、厄災を招く可能性のある巫女はもう要らない。……殺せと、貴方を、美香を、殺せと言われました。

 私は、それを拒絶しました。けれど、王命が下った以上、そうなることはもう決まっていたのです。私は、美香の護衛から外され、『聖女』の護衛に。『聖女』の評判があがると同時に、美香の評判はどんどん下がり、そして、あの日を迎えました。

 けれど、私は諦められなかった。
 どうして、何も出来ない貴方が、何も出来ないとわかっていながら、震える足で戦場に立った貴方が、聖女ではなく、厄災を招く巫女だと言うのでしょう。

 そんなはずない。そんなことあっていいはずがない。

 諦められなかった私は、ある方法を使うことにしました。王族にだけ伝わる禁じられた魔法。

 「まさか……」
信じられない思いで、ガレンを見つめる。ガレンはゆっくりと頷いた。金の瞳は涙の膜でゆらゆらと揺れていた。
「……時を戻す、魔法です」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

昨日無表情な彼女が溺愛されて、今日聖女になる話。

夕立悠理
恋愛
──アリアナ、お前はなんて可愛げがないんだ。 貴族がみんな持っているはずの、魔力がないことがわかったアリアナは、属国である小さな島国に嫁ぐことになる。 そこで、溺愛されていくうちに、無表情と呼ばれていた彼女は徐々に表情を取り戻していく。 実は、アリアナが今まで無表情だったのには、アリアナも知らない秘密があり──。 これは、追放された少女が愛されて幸せになるまでの話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

エフィーシアの特に何の役にも立たない前世。

夕立悠理
恋愛
侯爵令嬢エフィーシアは五才のとき、前世の記憶を思い出した。世界を救った聖女だったという記憶だ。前世は前世、今世は今世で、割りきって生きようと決めたある日、エフィーシアに婚約者ができる。  けれど、彼は、エフィーシアが前世で振られたセドリックに姿がそっくりで──。 ※間違えて消してしまったので、再投稿です。

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

回帰令嬢ローゼリアの楽しい復讐計画 ~拝啓、私の元親友。こまめに悔しがらせつつ、あなたの悪行を暴いてみせます~

星名こころ
恋愛
 ルビーノ公爵令嬢ローゼリアは、死に瀕していた。親友であり星獣の契約者であるアンジェラをバルコニーから突き落としたとして断罪され、その場から逃げ去って馬車に轢かれてしまったのだ。  瀕死のローゼリアを見舞ったアンジェラは、笑っていた。「ごめんね、ローズ。私、ずっとあなたが嫌いだったのよ」「あなたがみんなに嫌われるよう、私が仕向けたの。さようならローズ」  そうしてローゼリアは絶望と後悔のうちに人生を終えた――はずだったが。気づけば、ローゼリアは二年生になったばかりの頃に回帰していた。  今回の人生はアンジェラにやられっぱなしになどしない、必ず彼女の悪行を暴いてみせると心に誓うローゼリア。アンジェラをこまめに悔しがらせつつ、前回の生の反省をいかして言動を改めたところ、周囲の見る目も変わってきて……?  婚約者候補リアムの協力を得ながら、徐々にアンジェラを追い詰めていくローゼリア。彼女は復讐を果たすことはできるのか。 ※一応復讐が主題ではありますがコメディ寄りです。残虐・凄惨なざまぁはありません

処理中です...