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二度目の生
22 囚われる
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ガレンに前回の記憶があるなら、どうして、私を放っておいてくれないの。聖女だって祭り上げて、今度は聖女じゃなかったから見捨てたくせに。ああ違う。こんな考え方やめようって決めたのに。
そんなマイナスな思考がぐるぐる周り、結局昨晩は一睡もできなかった。
「巫女」
呼び掛けられてはっとする。書類整理の手が止まっていた。せっかく、魔王に与えられた仕事だ。私情ははさまず、しっかりとこなしたい。
「申し訳ありません、陛下。すぐに再開します」
「巫女」
「はい」
「そんなことより、顔色が悪い。昨晩眠れなかったのか?」
しまった。隈はなんとか隠せたつもりだったけれど、顔色の悪さはどうにも、できなかったらしい。
「……はい。考え事をしていて。あの、陛下」
「どうした?」
クリスタリアのことを想うならガレンのことをいった方がいいだろう。でも、何と言うのか正解なのか。
「もしかしたら、アストリアの間者が──」
私が言いかけたところで、執務室の扉が慌ただしく開く。
「兄上!」
「ユーリンか、どうした?」
「アストリアの間者を捕らえました!」
ガレン!? もう見つかったのか、と驚きながら、ユーリンの方へ視線を向けると、ユーリンに縛られている男はガレンではなかった。そのことに、安堵してしまった自分に動揺する。どうして。もうガレンのことは何とも思ってないはずなのに。
「地下牢に連れていけ」
「はっ!」
男はそのままずるずると引きずられていく。地下牢で尋問を受けるのだろうか。
「すまない、巫女。手荒なことを見せたな。顔色も悪いし、今日はもう部屋に戻れ」
「……はい」
魔王の言葉に甘えて、部屋に戻る。結局、ガレンのことは言い出せないままだった。
ベッドの中に入る。寝不足なせいか、眠気はすぐにやってきた。
■ □ ■
「美香」
名前を呼ばれて振り返ると、ガレンが笑っていた。
「どうしたのです? こんな夜更けに。嫌な夢でもみたのですか?」
「……うん。嫌な夢を見たの」
夢? そうか、今までのことは全部夢だったんだ。本物の聖女が現れて、聖女を騙った罪で処刑されそうになったのも、ガレンに見捨てられたのも、時間が巻き戻ったのも。
やっぱり、ガレンが私を見捨てるはずなかったんだ。
「それはお辛いでしょう」
「眠れるまで傍にいてくれる?」
きっと、ガレンが傍にいてくれたら、もう嫌な夢なんて見ないから。そう言うと、ガレンは困った顔をした。
「それはできません」
ガレンの声は泣きそうだった。
「何で?」
「だって貴方は──」
──聖女ジャナイ
「え──」
視界がぐるぐる回る。気づけば、ガレンの隣に黒髪の可憐な少女がたっていた。
「ガレン、その人は?」
無邪気な声で少女はガレンに尋ねる。ガレンの隣は私の居場所だったのに。
「彼女は──いえ、貴方が気にするほどのこともありませんよ」
ガレンは少女をつれて、振り返らず、去っていく。
「待って、ガレン」
行かないで、私を──
「おいていかないで!」
叫んで、はっと、目が覚めた。
「夢、か」
ガレンのことはもうたちきったはずなのに、私は未だに彼の影にとらわれたままだ。
窓を見ると、雨が降っていた。もしかして、記憶の雨だろうか。
魔王だったら。私と違って、強い、魔王だったら、こんなときどうするだろう。考えて、首を降る。これじゃあ、魔王に依存しているだけだ。
私自身が強くならなくちゃ、いけないのに。
まさか、ガレンと少し会っただけで、ここまで心乱されるとは思わなかった。
もっと楽しいことを考えよう。明日の朝ごはんとか。
けれど、一向に気持ちは切り替えられず、気づけば朝になっていた。
そんなマイナスな思考がぐるぐる周り、結局昨晩は一睡もできなかった。
「巫女」
呼び掛けられてはっとする。書類整理の手が止まっていた。せっかく、魔王に与えられた仕事だ。私情ははさまず、しっかりとこなしたい。
「申し訳ありません、陛下。すぐに再開します」
「巫女」
「はい」
「そんなことより、顔色が悪い。昨晩眠れなかったのか?」
しまった。隈はなんとか隠せたつもりだったけれど、顔色の悪さはどうにも、できなかったらしい。
「……はい。考え事をしていて。あの、陛下」
「どうした?」
クリスタリアのことを想うならガレンのことをいった方がいいだろう。でも、何と言うのか正解なのか。
「もしかしたら、アストリアの間者が──」
私が言いかけたところで、執務室の扉が慌ただしく開く。
「兄上!」
「ユーリンか、どうした?」
「アストリアの間者を捕らえました!」
ガレン!? もう見つかったのか、と驚きながら、ユーリンの方へ視線を向けると、ユーリンに縛られている男はガレンではなかった。そのことに、安堵してしまった自分に動揺する。どうして。もうガレンのことは何とも思ってないはずなのに。
「地下牢に連れていけ」
「はっ!」
男はそのままずるずると引きずられていく。地下牢で尋問を受けるのだろうか。
「すまない、巫女。手荒なことを見せたな。顔色も悪いし、今日はもう部屋に戻れ」
「……はい」
魔王の言葉に甘えて、部屋に戻る。結局、ガレンのことは言い出せないままだった。
ベッドの中に入る。寝不足なせいか、眠気はすぐにやってきた。
■ □ ■
「美香」
名前を呼ばれて振り返ると、ガレンが笑っていた。
「どうしたのです? こんな夜更けに。嫌な夢でもみたのですか?」
「……うん。嫌な夢を見たの」
夢? そうか、今までのことは全部夢だったんだ。本物の聖女が現れて、聖女を騙った罪で処刑されそうになったのも、ガレンに見捨てられたのも、時間が巻き戻ったのも。
やっぱり、ガレンが私を見捨てるはずなかったんだ。
「それはお辛いでしょう」
「眠れるまで傍にいてくれる?」
きっと、ガレンが傍にいてくれたら、もう嫌な夢なんて見ないから。そう言うと、ガレンは困った顔をした。
「それはできません」
ガレンの声は泣きそうだった。
「何で?」
「だって貴方は──」
──聖女ジャナイ
「え──」
視界がぐるぐる回る。気づけば、ガレンの隣に黒髪の可憐な少女がたっていた。
「ガレン、その人は?」
無邪気な声で少女はガレンに尋ねる。ガレンの隣は私の居場所だったのに。
「彼女は──いえ、貴方が気にするほどのこともありませんよ」
ガレンは少女をつれて、振り返らず、去っていく。
「待って、ガレン」
行かないで、私を──
「おいていかないで!」
叫んで、はっと、目が覚めた。
「夢、か」
ガレンのことはもうたちきったはずなのに、私は未だに彼の影にとらわれたままだ。
窓を見ると、雨が降っていた。もしかして、記憶の雨だろうか。
魔王だったら。私と違って、強い、魔王だったら、こんなときどうするだろう。考えて、首を降る。これじゃあ、魔王に依存しているだけだ。
私自身が強くならなくちゃ、いけないのに。
まさか、ガレンと少し会っただけで、ここまで心乱されるとは思わなかった。
もっと楽しいことを考えよう。明日の朝ごはんとか。
けれど、一向に気持ちは切り替えられず、気づけば朝になっていた。
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