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二度目の生
10 後悔
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「そう、そうです! ミカ様、飲み込みが早いですね」
魔王が手配してくれた、この世界の言葉を教えてくれる教師に、誉められて、頬をかく。
二週間程度で、簡単な読み書きならできるようになっていた。
この異世界に来るまでは、勉強、特に英語が大嫌いだった私が、文法は日本と同じとはいえ、外国語をここまで、覚えられるとは思わなかった。
──人間、何事もやる気なんだな、と痛感する。けれど、それは、同時に今までの私がどれだけこの世界に無関心だったか、という現れでもある。私は、きっと、与えられるものを享受するばかりで、自分から積極的に何かをしようとはしなかった。だって、いずれは去る国だ。そう思っていたのもある。けれど、それ以上に、傲慢な部分があったのかもしれない。だから、きっと、見捨てられたのだ。私がもっと、周囲に歩み寄っていたら、何の力も持たない私でも、殺されることはなかったんじゃないだろうか?
──ガレン。
教科書の端に小さく、名前を書く。
貴方の名前を、書けるようになった。
どうして、私は、貴方が私の名前の由来を聞いてくれたときに、貴方の名前の由来を、その形を聞かなかったのだろう。
貴方は、私をただ一人、美香と呼んでくれたのに。
そのことを後悔しながら、授業に耳を傾けた。
■ □ ■
「美香、どこにいるのです」
──聖女が、美香が、行方不明になった。それも、自分が目を離したせいで。城中の者が、彼女の行方を探している。単純に私が今牢につながれていないのは、第五王子という身分のお陰だろう。
城内の図書室への入り口は一つだけ。美香と別れたこの入り口だけだ。
図書室は、入り組んではいるが、美香ほどの年齢で、そう迷うものでもない。
いるはずがないと思いながら、もう一度、図書室の中を探す。
ついに、最奥までたどり着いてしまった。当然のことながら、美香はいない。
一冊落ちてしまっている本を拾い上げて、棚に戻して、立ち去ろうと──
「本が、落ちている?」
落ちている本は分厚くそう簡単に落ちるものではない。
「まさか──」
そんなはずはない、そうであるはずがない。けれど。
もう一度、本棚へ視線を向ける。
本の配置が変わっている。
試しに、本棚を横に軽く押してみた。本はかなりの重量があり、簡単には動きそうもないように見える。
──が、本棚はあっさりと、横にスライドした。
現れた扉を開ける。
しばらく、使われていないそこは埃っぽくなっていた。そのため、くっきりと足跡が残っている。
その大きさは、私の知っているものだった。
「──美香」
魔王が手配してくれた、この世界の言葉を教えてくれる教師に、誉められて、頬をかく。
二週間程度で、簡単な読み書きならできるようになっていた。
この異世界に来るまでは、勉強、特に英語が大嫌いだった私が、文法は日本と同じとはいえ、外国語をここまで、覚えられるとは思わなかった。
──人間、何事もやる気なんだな、と痛感する。けれど、それは、同時に今までの私がどれだけこの世界に無関心だったか、という現れでもある。私は、きっと、与えられるものを享受するばかりで、自分から積極的に何かをしようとはしなかった。だって、いずれは去る国だ。そう思っていたのもある。けれど、それ以上に、傲慢な部分があったのかもしれない。だから、きっと、見捨てられたのだ。私がもっと、周囲に歩み寄っていたら、何の力も持たない私でも、殺されることはなかったんじゃないだろうか?
──ガレン。
教科書の端に小さく、名前を書く。
貴方の名前を、書けるようになった。
どうして、私は、貴方が私の名前の由来を聞いてくれたときに、貴方の名前の由来を、その形を聞かなかったのだろう。
貴方は、私をただ一人、美香と呼んでくれたのに。
そのことを後悔しながら、授業に耳を傾けた。
■ □ ■
「美香、どこにいるのです」
──聖女が、美香が、行方不明になった。それも、自分が目を離したせいで。城中の者が、彼女の行方を探している。単純に私が今牢につながれていないのは、第五王子という身分のお陰だろう。
城内の図書室への入り口は一つだけ。美香と別れたこの入り口だけだ。
図書室は、入り組んではいるが、美香ほどの年齢で、そう迷うものでもない。
いるはずがないと思いながら、もう一度、図書室の中を探す。
ついに、最奥までたどり着いてしまった。当然のことながら、美香はいない。
一冊落ちてしまっている本を拾い上げて、棚に戻して、立ち去ろうと──
「本が、落ちている?」
落ちている本は分厚くそう簡単に落ちるものではない。
「まさか──」
そんなはずはない、そうであるはずがない。けれど。
もう一度、本棚へ視線を向ける。
本の配置が変わっている。
試しに、本棚を横に軽く押してみた。本はかなりの重量があり、簡単には動きそうもないように見える。
──が、本棚はあっさりと、横にスライドした。
現れた扉を開ける。
しばらく、使われていないそこは埃っぽくなっていた。そのため、くっきりと足跡が残っている。
その大きさは、私の知っているものだった。
「──美香」
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