7 / 76
二度目の生
7 望むこと
しおりを挟む
ユーリンは、再び私の頭に布を被せると、(おそらく)執務室から出て、私を引きずった。
連れられたのは、豪華な客室だった。
「巫女殿には、この部屋を使っていただく」
聖女として扱われた前いた人間の国──名前をアストリアという──の城の客室より、豪華かもしれない。
客室につくと、私の髪を覆っていた布を外し、ユーリンはすまなさそうに言った。
「申し訳無いが、戦争が落ち着くまでは巫女殿のことを伏せることになるだろう。その髪も客室から外に出るときは、布で隠してくれ。世話係はもちろんつけるが、それも限られた者のみだ。戦争が終われば、自由にできるのだが」
……? 聖女が魔物側に寝返ったとして、人間側のやる気を削ぐことはしないのだろうか?
私の疑問が顔に出ていたのか、ユーリンは苦笑した。
「そういえば、巫女殿は利用価値という言葉を連呼していたな。俺たちが貴方を利用することはない。いや、兄上──それに、俺たちを好きになってほしいとは思うが……、心のあり方も貴方の自由だ」
そういって、ユーリンは世話係を連れてくるといって、去っていった。
「貴方の自由、か」
人間の国アストリアでは聞かなかった言葉だ。操り人形になりたくなくて、その結果殺されたくなくて、魔物の国クリスタリアに来たけれど、そんな言葉がもらえるとは思っていなかった。
そのことになぜか、少しだけ泣きそうになって目元を擦る。
そういえば、戦争が終われば、とユーリンは言った。現在の戦況は魔物側が優勢だが、一年後には『聖女』が現れる。『聖女』は圧倒的な力で、戦争を人間側の勝利へと導いていった。
私がこのまま、魔物側に残るつもりなら、その存在を知らせておいた方がいいだろう。でも。
今生では、僅かな時間とはいえ、前生では、一年間アストリアにいたのだ。それに、アストリアにはガレンもいる。最終的には殺されそうになったとはいえ、愛着のある国だ。その国を裏切るようなことをいっていいのだろうか。
私の望みは自由に生きることであって、誰かを傷つけることではない。
私が悩んでいると、控えめに扉がノックされる。ユーリンが私の世話係を連れて戻ってきたのだろう。
慌てて返事をして、招き入れる。
「貴方の世話を担うサーラだ」
サーラは、茶色い髪に翠の瞳をしていた。微笑がとても美しい。
「初めまして、巫女様。サーラと申します」
「初めまして。美香と言います」
「巫女様のことは伏せるように仰せつかっております。失礼ですが、お名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
私が頷くと、サーラは嬉しそうに微笑んだあと、私の名前を呼んだ。ただ、響きが、美香ではなくマイカになってしまっている。何度も繰り返したあとにようやく、美香に近いミカ、の音になった。
「これからよろしくお願いいたします、ミカ様」
「こちらこそお願いします」
サーラさんと呼ぶと、サーラでいいと言われたので、今度からサーラと呼ぶことにする。
「挨拶は終わったようだな。それでは、これで俺は失礼する」
ユーリンは、そういって去っていった。
──さて、何をしよう。
連れられたのは、豪華な客室だった。
「巫女殿には、この部屋を使っていただく」
聖女として扱われた前いた人間の国──名前をアストリアという──の城の客室より、豪華かもしれない。
客室につくと、私の髪を覆っていた布を外し、ユーリンはすまなさそうに言った。
「申し訳無いが、戦争が落ち着くまでは巫女殿のことを伏せることになるだろう。その髪も客室から外に出るときは、布で隠してくれ。世話係はもちろんつけるが、それも限られた者のみだ。戦争が終われば、自由にできるのだが」
……? 聖女が魔物側に寝返ったとして、人間側のやる気を削ぐことはしないのだろうか?
私の疑問が顔に出ていたのか、ユーリンは苦笑した。
「そういえば、巫女殿は利用価値という言葉を連呼していたな。俺たちが貴方を利用することはない。いや、兄上──それに、俺たちを好きになってほしいとは思うが……、心のあり方も貴方の自由だ」
そういって、ユーリンは世話係を連れてくるといって、去っていった。
「貴方の自由、か」
人間の国アストリアでは聞かなかった言葉だ。操り人形になりたくなくて、その結果殺されたくなくて、魔物の国クリスタリアに来たけれど、そんな言葉がもらえるとは思っていなかった。
そのことになぜか、少しだけ泣きそうになって目元を擦る。
そういえば、戦争が終われば、とユーリンは言った。現在の戦況は魔物側が優勢だが、一年後には『聖女』が現れる。『聖女』は圧倒的な力で、戦争を人間側の勝利へと導いていった。
私がこのまま、魔物側に残るつもりなら、その存在を知らせておいた方がいいだろう。でも。
今生では、僅かな時間とはいえ、前生では、一年間アストリアにいたのだ。それに、アストリアにはガレンもいる。最終的には殺されそうになったとはいえ、愛着のある国だ。その国を裏切るようなことをいっていいのだろうか。
私の望みは自由に生きることであって、誰かを傷つけることではない。
私が悩んでいると、控えめに扉がノックされる。ユーリンが私の世話係を連れて戻ってきたのだろう。
慌てて返事をして、招き入れる。
「貴方の世話を担うサーラだ」
サーラは、茶色い髪に翠の瞳をしていた。微笑がとても美しい。
「初めまして、巫女様。サーラと申します」
「初めまして。美香と言います」
「巫女様のことは伏せるように仰せつかっております。失礼ですが、お名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
私が頷くと、サーラは嬉しそうに微笑んだあと、私の名前を呼んだ。ただ、響きが、美香ではなくマイカになってしまっている。何度も繰り返したあとにようやく、美香に近いミカ、の音になった。
「これからよろしくお願いいたします、ミカ様」
「こちらこそお願いします」
サーラさんと呼ぶと、サーラでいいと言われたので、今度からサーラと呼ぶことにする。
「挨拶は終わったようだな。それでは、これで俺は失礼する」
ユーリンは、そういって去っていった。
──さて、何をしよう。
2
お気に入りに追加
2,775
あなたにおすすめの小説
〖完結〗もう私に関わらないでください!
藍川みいな
恋愛
エリック様と結婚して3年が経ちます。結婚するまでは、愛されているのだと思っていました。
あんなに優しかったエリック様が、次々と愛人を連れて来て、“彼女は大切な女性だ”と私に紹介する。我慢の限界を迎えた私は、離縁して欲しいとお願いしました。それがきっかけで、エリック様は豹変し、暴力をふるってきた。身も心もボロボロになったある日、私は永遠に彼から逃げようと決意した。
舞踏会が開かれた王城のバルコニーから身を投げ、私の人生は幕を閉じた……はずだった。
次の瞬間、何故か10歳の自分に戻っていたのです。
やり直す機会をもらった私は、もう二度と彼に人生を奪われない為に強くなる決心をする。
*巻き戻る前の話は、かなり気分の悪い話になっています。ご注意ください。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全44話で完結になります。
*感想は全て“ネタバレを含む”の仕様にはしていません。感想欄はネタバレの可能性があります。
いつもあたたかい感想を、ありがとうございます。
【完結】猛反した王子は、婚約破棄を頑張りたい。
❄️冬は つとめて
恋愛
婚約者を断頭台に送ってしまった王子。逆行し過去に戻って来てしまった。猛反省した王子は、婚約破棄へと頑張ります。
『氷の王、クラウス。』過去に戻る前の話を書き出しました。宜しければ、其方もどうぞ。
注)思い込みの激しい悲劇のヒーロー振る主人公がお嫌いな方は不快に感じる場合がありますので、おすすめできません。スルーをお願いいたします。
【完結】「離婚して欲しい」と言われましたので!
つくも茄子
恋愛
伊集院桃子は、短大を卒業後、二年の花嫁修業を終えて親の決めた幼い頃からの許嫁・鈴木晃司と結婚していた。同じ歳である二人は今年27歳。結婚して早五年。ある日、夫から「離婚して欲しい」と言われる。何事かと聞くと「好きな女性がいる」と言うではないか。よくよく聞けば、その女性は夫の昔の恋人らしい。偶然、再会して焼け木杭には火が付いた状態の夫に桃子は離婚に応じる。ここ半年様子がおかしかった事と、一ヶ月前から帰宅が稀になっていた事を考えると結婚生活を持続させるのは困難と判断したからである。
最愛の恋人と晴れて結婚を果たした晃司は幸福の絶頂だった。だから気付くことは無かった。何故、桃子が素直に離婚に応じたのかを。
12/1から巻き戻りの「一度目」を開始しました。
【完結】 いいえ、あなたを愛した私が悪いのです
冬馬亮
恋愛
それは親切な申し出のつもりだった。
あなたを本当に愛していたから。
叶わぬ恋を嘆くあなたたちを助けてあげられると、そう信じていたから。
でも、余計なことだったみたい。
だって、私は殺されてしまったのですもの。
分かってるわ、あなたを愛してしまった私が悪いの。
だから、二度目の人生では、私はあなたを愛したりはしない。
あなたはどうか、あの人と幸せになって ---
※ R-18 は保険です。
狂おしいほどに君を愛している
音無砂月
恋愛
スカーレット・ブラッティーネ
ブラッティーネ公爵家の妾腹であり、傲慢で我儘。息を吸うように人を貶める歴代最高の悪女
そう歴史書に記載されている彼女だがバットエンドを迎えるたびに時間が巻き戻り何度も同じ、しかし違う結末を迎えていたことを知るものはいない。
【完結】旦那様に隠し子がいるようです。でも可愛いから全然OK!
曽根原ツタ
恋愛
実家の借金返済のため、多額の支度金を用意してくれるという公爵に嫁ぐことを父親から押し付けられるスフィミア。冷酷無慈悲、引きこもりこ好色家と有名な公爵だが、超ポジティブな彼女は全く気にせずあっさり縁談を受けた。
公爵家で出迎えてくれたのは、五歳くらいの小さな男の子だった。
(まぁ、隠し子がいらっしゃったのね。知らされていなかったけれど、可愛いから全然OK!)
そして、ちょっとやそっとじゃ動じないポジティブ公爵夫人が、可愛い子どもを溺愛する日々が始まる。
一方、多額の支度金を手に入れたスフィミアの家族は、破滅の一途を辿っていて……?
☆小説家になろう様でも公開中
【完結】愛に溺れたらバッドエンド!?巻き戻り身を引くと決めたのに、放っておいて貰えません!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ジスレーヌは、愛する婚約者リアムに尽くすも、
その全てが裏目に出ている事に気付いていなかった。
ある時、リアムに近付く男爵令嬢エリザを牽制した事で、いよいよ愛想を尽かされてしまう。
リアムの愛を失った絶望から、ジスレーヌは思い出の泉で入水自害をし、果てた。
魂となったジスレーヌは、自分の死により、リアムが責められ、爵位を継げなくなった事を知る。
こんなつもりではなかった!ああ、どうか、リアムを助けて___!
強く願うジスレーヌに、奇跡が起こる。
気付くとジスレーヌは、リアムに一目惚れした、《あの時》に戻っていた___
リアムが侯爵を継げる様、身を引くと決めたジスレーヌだが、今度はリアムの方が近付いてきて…?
異世界:恋愛 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄した殿下が今更迫ってきます!迷惑なのでもう私に構わないで下さい
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のリリアーナは、王太子でもある婚約者、アレホから
“君を愛する事はない。惨めな生活を送りたくなかったら、僕と婚約破棄して欲しい”
と迫られた。隣にはアレホが愛する伯爵令嬢、マルティの姿も。
1年もの間、アレホから一方的に攻められ、マルティからは酷い暴言や暴力を受け続けていたリリアーナ。父親でもある公爵にアレホとの婚約破棄を懇願するが“もう少し辛抱してくれ”と、受け入れてもらえなかった。
絶望し生きる希望すら失いかけていたリリアーナは、藁をもすがる思いで修道院へと向かった。そこで出会った修道長の協力のお陰で、やっと両親もアレホとの婚約破棄に同意。ただ、アレホはマルティから魅了魔法に掛けられている事、もうすぐで魔法が解けそうだという事を聞かされた。
それでも婚約破棄したいと訴えるリリアーナの気持ちを尊重した両親によって、無事婚約破棄する事が出来たのだった。
やっとこれで平和に暮らせる、そう思っていたリリアーナだったが、ある出来事がきっかけで完全に魅了魔法が解けたアレホは、あろう事かリリアーナに復縁を迫って来て…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる