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死んだと思った。実際、死んだ、はずだ。
「……ん」
「……様! お嬢様!」

 ゆっくりと目を開ける。ここは、死後の世界かしら。そう思いながら瞬きをすると、心配そうな顔をした侍女のセリーが目に入った。

「あぁ、お嬢様! 良かった。お嬢様は木から落ちて3日も寝込まれていたんですよ」
木から? 神殿ではなく? あぁ。そういえば、そんなこともあったかもしれない。なんだか、キラキラ光って綺麗な木だったのよね。セリーと一緒に森に散策にでたときに、私が木に登りたがって。それで。でも、3日も寝込んだかしら? せいぜいが、一時間くらいだった気がする。もしかして、セリーも死んだのかと思ったけれど、これは走馬灯というやつかしら。

 「すぐに、旦那様と奥様をお呼びしますね」
お父様とお母様はすぐにやってきた。
「シエンナ、本当に良かった!」
「お前が目を覚まさなければ、どうしようかと」
お父様とお母様は涙ぐんでいる。でも。走馬灯ならわがままになってもいいわよね。

 「イーディスのことよりも、私の方が大切ですか?」
イーディス。私の弟。私はこの弟のことが嫌いだった。もっというと、憎かった。跡取りの彼が産まれてから、お父様とお母様は彼に夢中になったから。おかげで、私の婚約者の話もたち消えになったし。そんなことを考えながら、意地悪な質問をなげかけると、お父様たちは顔を曇らせた。

 「すまなかった。そんなことを聞かせるほど私たちは、シエンナに寂しい想いをさせていたんだな」
「イーディスのことは愛してるわ。でも、シエンナ、それはあなたもよ」
愛してる。その言葉は、イーディスが産まれてから、聞けなくなった言葉だった。

 あぁ、なんだ。そっか。これは私の願望から見ている夢かもしれないけれど。私はとっくに、特別だったんだ。それなのに、死ぬなんて馬鹿なことをしてしまったかもしれない。

 「──お父様、お母様、ごめんなさい」
寂しかったの。ずっと。だからって、なにも言わずに死んでごめんなさい。涙が、零れる。

 でも、最後に特別な私になれて良かった。私は満ち足りた気分になりながら、目を閉じた。

 次に目を開けたとき、そこは死後の世界だろう。

 そう思って、目を開ける。

 相変わらず、心配そうなお父様とお母様がいた。

 ……走馬灯、長くない?
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