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たくさんの愛を
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アイゼン殿下はぱちぱちと、瞳を瞬かせた。
あれ、聞こえなかったかしら。それならば、もう一度……。
「ですから、わたしはアイゼン殿下に一目惚れを――」
「はぁっ!?」
もう一度ゆっくりというと、アイゼン殿下の透き通るような白い頬が朱に染まった。
「そ、そんなふうに媚びをうらなくていい! 僕は……嫌われてることになれているから」
――嫌われることになれている。
王位を継ぐ者が代々継承する金の髪と瞳を、アイゼン殿下は持って生まれなかったから、アイゼン殿下は疎まれて育ってきたからだろう。
でも……。
「だから……っ! なにをし――!?」
「なにって、口づけでございます」
アイゼン殿下の白い手の甲にもう一度口づけを落す。
「そ、そそっそれが、なにっていってるんだ!」
「わたしの本気が伝わるかと思いまして」
「本気……?」
「はい。わたしは、本気でアイゼン殿下に恋をしたのだと。どうすれば、信じていただけますか?」
何にも動じることはないと思っていた。でも、そうじゃなかったのね。
単純に、これほどまでに胸を高鳴らせるひとに出会ってなかっただけだった。
「……じゃあ、聞くけど」
アイゼン殿下は、ひとつ咳払いをしてわたしを見つめた。
「一目惚れってことは、僕の見た目が気に入ったってこと?」
「そうですね。まずは、アイゼン殿下のその黒い瞳ですね。まるで黒曜石のようなその瞳を綺麗だと思いまして。瞳とお揃いの黒髪も好きです。すっと通った鼻筋も、赤い唇も。それに、髪や瞳と対照的な白い肌も。それから……」
「わかったから! もういいってば!」
「信じていただけました?」
伝わったならいいのだけど。
「……うん」
「アイゼン殿下、わたしはアイゼン殿下のことをもっと知りたいです」
「僕を、知りたい?」
心底意外そうな顔でわたしを見つめるアイゼン殿下に、にっこりと微笑む。
「はい。恋しいアイゼン殿下、あなたが何が好きで、何が嫌いで、どんなときに幸福を感じるのかなど、あなたのすべてが知りたいです」
「こ、こここ恋しいとか言わないでよ……!」
「どうしてですか? だって、こんなに恋しいのに」
わたしは、握ったままだったアイゼン殿下の手を、わたしの胸にあてた。
どくどくと、いつも以上に早いこの鼓動がアイゼン殿下に伝わるはずだ。
「……だ」
アイゼン殿下は、しばらくわたしの鼓動を聞いてから、ぽつりとつぶやいた。
「え?」
「僕は第一王子なのに、王位を継げないから、みんな僕を嫌ったんだ。でも、オドウェルはみんなに愛されてる」
「……はい」
アイゼン殿下の弟君であるオドウェル殿下は金の髪と瞳を持って産まれてきた。
「君は、こんな僕の見た目が好きだって、僕を知りたいって言うけど。僕には、家族からも愛されなかったし、友人もいないし、君にちゃんと気持ちを返せるか、わからない」
「アイゼン殿下は、お優しいですね」
「僕が、優しい?」
わたしは立ち上がると、アイゼン殿下を見つめた。
「はい。わたしに応えようと考えてくださるじゃないですか。その優しさが、とても嬉しいです。またひとつ、アイゼン殿下の好きなところが見つかりました。それに……」
「それに?」
「いいことを思いつきました!」
わたしは、アイゼン殿下にぎゅっと抱きついて、片方の手で頭を撫でた。
「ご家族からの愛が得られなかったのなら、ひとつ年上のわたしが義姉として。友人からの親愛が得られなかったのならば、親友として。そしてもちろん、婚約者兼、将来のあなたのお嫁さんとして。わたしが今まであなたが愛を得られなかったぶん、あなたを愛します!」
あれ、聞こえなかったかしら。それならば、もう一度……。
「ですから、わたしはアイゼン殿下に一目惚れを――」
「はぁっ!?」
もう一度ゆっくりというと、アイゼン殿下の透き通るような白い頬が朱に染まった。
「そ、そんなふうに媚びをうらなくていい! 僕は……嫌われてることになれているから」
――嫌われることになれている。
王位を継ぐ者が代々継承する金の髪と瞳を、アイゼン殿下は持って生まれなかったから、アイゼン殿下は疎まれて育ってきたからだろう。
でも……。
「だから……っ! なにをし――!?」
「なにって、口づけでございます」
アイゼン殿下の白い手の甲にもう一度口づけを落す。
「そ、そそっそれが、なにっていってるんだ!」
「わたしの本気が伝わるかと思いまして」
「本気……?」
「はい。わたしは、本気でアイゼン殿下に恋をしたのだと。どうすれば、信じていただけますか?」
何にも動じることはないと思っていた。でも、そうじゃなかったのね。
単純に、これほどまでに胸を高鳴らせるひとに出会ってなかっただけだった。
「……じゃあ、聞くけど」
アイゼン殿下は、ひとつ咳払いをしてわたしを見つめた。
「一目惚れってことは、僕の見た目が気に入ったってこと?」
「そうですね。まずは、アイゼン殿下のその黒い瞳ですね。まるで黒曜石のようなその瞳を綺麗だと思いまして。瞳とお揃いの黒髪も好きです。すっと通った鼻筋も、赤い唇も。それに、髪や瞳と対照的な白い肌も。それから……」
「わかったから! もういいってば!」
「信じていただけました?」
伝わったならいいのだけど。
「……うん」
「アイゼン殿下、わたしはアイゼン殿下のことをもっと知りたいです」
「僕を、知りたい?」
心底意外そうな顔でわたしを見つめるアイゼン殿下に、にっこりと微笑む。
「はい。恋しいアイゼン殿下、あなたが何が好きで、何が嫌いで、どんなときに幸福を感じるのかなど、あなたのすべてが知りたいです」
「こ、こここ恋しいとか言わないでよ……!」
「どうしてですか? だって、こんなに恋しいのに」
わたしは、握ったままだったアイゼン殿下の手を、わたしの胸にあてた。
どくどくと、いつも以上に早いこの鼓動がアイゼン殿下に伝わるはずだ。
「……だ」
アイゼン殿下は、しばらくわたしの鼓動を聞いてから、ぽつりとつぶやいた。
「え?」
「僕は第一王子なのに、王位を継げないから、みんな僕を嫌ったんだ。でも、オドウェルはみんなに愛されてる」
「……はい」
アイゼン殿下の弟君であるオドウェル殿下は金の髪と瞳を持って産まれてきた。
「君は、こんな僕の見た目が好きだって、僕を知りたいって言うけど。僕には、家族からも愛されなかったし、友人もいないし、君にちゃんと気持ちを返せるか、わからない」
「アイゼン殿下は、お優しいですね」
「僕が、優しい?」
わたしは立ち上がると、アイゼン殿下を見つめた。
「はい。わたしに応えようと考えてくださるじゃないですか。その優しさが、とても嬉しいです。またひとつ、アイゼン殿下の好きなところが見つかりました。それに……」
「それに?」
「いいことを思いつきました!」
わたしは、アイゼン殿下にぎゅっと抱きついて、片方の手で頭を撫でた。
「ご家族からの愛が得られなかったのなら、ひとつ年上のわたしが義姉として。友人からの親愛が得られなかったのならば、親友として。そしてもちろん、婚約者兼、将来のあなたのお嫁さんとして。わたしが今まであなたが愛を得られなかったぶん、あなたを愛します!」
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