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後日談
眩しい未来
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「雅人さん」
「……ん? なあに? 立花ちゃん」
私たちが婚約者になって、一年が経とうとしていた。雅人さんは無事外部の大学に合格し、大学生だ。私は高校三年生。
「……私って、子供っぽいですよね」
不意に思ったことを口にすると、雅人さんは首をかしげた。
「そうかな? そんなこと思ったことないけれど」
「……本当ですか?」
「うん」
雅人さんが繋いだ手を握る力を強くした。
それを幸せだと感じると同時に、子供な私は
だったら、なんで。と口に出したくなる。
でも、そんなことを言ったら本当に子供だから代わりに無言になった私を、雅人さんは覗き込んだ。
「立花ちゃん、どうしたの?」
そういって、柔らかく笑う。
「俺じゃ、力になれないかな」
細められた目は、優しい。
「雅人さんは……かっこいいです。すごく」
「えっ!? あ、ありがとう」
雅人さんが照れたように赤くなる。
「それに、すごく大人だなと思います」
でも、それに比べて私は……。
「私は、まだ子供なのに。雅人さんはずっと先を歩いてるみたい」
「──もしかして、さっきの子達のこと?」
……バレてしまった。
今日は、雅人さんが大学で講義があり、デートは大学で待ち合わせだった。
そこで目にしたのは、たくさんの女の人に囲まれる雅人さんだった。雅人さんは、私に気づくと、真っ先に駆け寄ってきてくれた。別に雅人さんの想いを疑っているわけじゃない。
でも、雅人さんを囲んでいた女の人たちはきらきら輝いていて大人っぽく、私と雅人さんの間にある一年の差を思わず感じてしまった。
目を逸らした私に、雅人さんは真剣な顔をした。
「あのね、立花ちゃん。俺は、立花ちゃんのことが好きだよ」
「……はい」
頷く。そこはもう、この一年の間も少しも疑っていないことだった。
「だから、──立花ちゃんに大人びて見られているならすごく嬉しい」
「え?」
「俺さ、余裕ぶってるけど、実はあんまり余裕ないんだ。これでも」
そんなこと、考えてみたことがなかった。雅人さんはいつも私のずっと先を歩いていて、私はそれを追いかけるばかりだと。
「立花ちゃんに少しでもカッコつけたくて毎日そんなことばっかり考えてる」
「本当ですか……?」
「本当なんです」
ほっとした。なんだ、私だけじゃなかったんだ。
「今だって、可愛い立花ちゃんを前にして、抱き締めたいのも我慢してるし」
「……それは、我慢しないでください」
小さな声でそういうと、雅人さんはえっ、いいの!? と驚いた。
大好きな人と触れあいたい。そう思っているのは、私もだった。
「……じゃあ」
そっと雅人さんが私を抱き締めた。私はその胸に顔を埋める。雅人さんのいい香りが、胸いっぱいに広がってとても幸福な気持ちになる。
「ねぇ、立花ちゃん」
「なんでしょう?」
「俺は、立花ちゃんのほうが、心配なんだけどなぁ」
「?」
わからなくて首をかしげると、雅人さんは、少しすねた顔をした。
「だって、立花ちゃんの近くにはまだ王塚がいるでしょ。やっぱり学校が離れてるとさ、心配」
「私が好きなのは雅人さんです」
私がきっぱりとそういうと、雅人さんは顔を赤くした。
「俺、本当に立花ちゃんの好きな人なんだね」
「……はい。とてもとても大好きな人ですよ」
大好きなんて、言葉じゃ足りないくらい。そう思って、そうか、こういうときに、この言葉を使うのかとふと、思う。
「愛しています」
「! 立花ちゃん、それ……反則」
雅人さんの顔が、これ以上ないくらい赤くなる。でも、それは私もだろうから、おあいこだった。
「俺も立花ちゃんのこと、愛してる。あぁー、結婚まであと数年もあるのかぁ」
俺、我慢できるかな、と呟いた雅人さんに強く抱きつく。
ほんとは、何一つ我慢しないでほしい、ということは口には出さずに代わりに、頬に口づけた。
途端にぴしりと固まる雅人さんに笑う。
「えっ? えっ?? 立花ちゃん、待って、ちょ、ちょっとまって」
雅人さんは未だ混乱しているけれど、そんな雅人さんの手を引いて歩き出す。
──これからもこの人と歩んでいく。
私の眩しい未来は、始まったばかりだ。
※※※※
お読みくださりありがとうございます。
これからまた、度々番外編を投稿していこうと思います。よろしくお願いします!
「……ん? なあに? 立花ちゃん」
私たちが婚約者になって、一年が経とうとしていた。雅人さんは無事外部の大学に合格し、大学生だ。私は高校三年生。
「……私って、子供っぽいですよね」
不意に思ったことを口にすると、雅人さんは首をかしげた。
「そうかな? そんなこと思ったことないけれど」
「……本当ですか?」
「うん」
雅人さんが繋いだ手を握る力を強くした。
それを幸せだと感じると同時に、子供な私は
だったら、なんで。と口に出したくなる。
でも、そんなことを言ったら本当に子供だから代わりに無言になった私を、雅人さんは覗き込んだ。
「立花ちゃん、どうしたの?」
そういって、柔らかく笑う。
「俺じゃ、力になれないかな」
細められた目は、優しい。
「雅人さんは……かっこいいです。すごく」
「えっ!? あ、ありがとう」
雅人さんが照れたように赤くなる。
「それに、すごく大人だなと思います」
でも、それに比べて私は……。
「私は、まだ子供なのに。雅人さんはずっと先を歩いてるみたい」
「──もしかして、さっきの子達のこと?」
……バレてしまった。
今日は、雅人さんが大学で講義があり、デートは大学で待ち合わせだった。
そこで目にしたのは、たくさんの女の人に囲まれる雅人さんだった。雅人さんは、私に気づくと、真っ先に駆け寄ってきてくれた。別に雅人さんの想いを疑っているわけじゃない。
でも、雅人さんを囲んでいた女の人たちはきらきら輝いていて大人っぽく、私と雅人さんの間にある一年の差を思わず感じてしまった。
目を逸らした私に、雅人さんは真剣な顔をした。
「あのね、立花ちゃん。俺は、立花ちゃんのことが好きだよ」
「……はい」
頷く。そこはもう、この一年の間も少しも疑っていないことだった。
「だから、──立花ちゃんに大人びて見られているならすごく嬉しい」
「え?」
「俺さ、余裕ぶってるけど、実はあんまり余裕ないんだ。これでも」
そんなこと、考えてみたことがなかった。雅人さんはいつも私のずっと先を歩いていて、私はそれを追いかけるばかりだと。
「立花ちゃんに少しでもカッコつけたくて毎日そんなことばっかり考えてる」
「本当ですか……?」
「本当なんです」
ほっとした。なんだ、私だけじゃなかったんだ。
「今だって、可愛い立花ちゃんを前にして、抱き締めたいのも我慢してるし」
「……それは、我慢しないでください」
小さな声でそういうと、雅人さんはえっ、いいの!? と驚いた。
大好きな人と触れあいたい。そう思っているのは、私もだった。
「……じゃあ」
そっと雅人さんが私を抱き締めた。私はその胸に顔を埋める。雅人さんのいい香りが、胸いっぱいに広がってとても幸福な気持ちになる。
「ねぇ、立花ちゃん」
「なんでしょう?」
「俺は、立花ちゃんのほうが、心配なんだけどなぁ」
「?」
わからなくて首をかしげると、雅人さんは、少しすねた顔をした。
「だって、立花ちゃんの近くにはまだ王塚がいるでしょ。やっぱり学校が離れてるとさ、心配」
「私が好きなのは雅人さんです」
私がきっぱりとそういうと、雅人さんは顔を赤くした。
「俺、本当に立花ちゃんの好きな人なんだね」
「……はい。とてもとても大好きな人ですよ」
大好きなんて、言葉じゃ足りないくらい。そう思って、そうか、こういうときに、この言葉を使うのかとふと、思う。
「愛しています」
「! 立花ちゃん、それ……反則」
雅人さんの顔が、これ以上ないくらい赤くなる。でも、それは私もだろうから、おあいこだった。
「俺も立花ちゃんのこと、愛してる。あぁー、結婚まであと数年もあるのかぁ」
俺、我慢できるかな、と呟いた雅人さんに強く抱きつく。
ほんとは、何一つ我慢しないでほしい、ということは口には出さずに代わりに、頬に口づけた。
途端にぴしりと固まる雅人さんに笑う。
「えっ? えっ?? 立花ちゃん、待って、ちょ、ちょっとまって」
雅人さんは未だ混乱しているけれど、そんな雅人さんの手を引いて歩き出す。
──これからもこの人と歩んでいく。
私の眩しい未来は、始まったばかりだ。
※※※※
お読みくださりありがとうございます。
これからまた、度々番外編を投稿していこうと思います。よろしくお願いします!
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お読みくださり、ありがとうございます。面白かったといっていただけてとても嬉しいです!!頑張ります!
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