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 ……お兄様とくっついて眠る夜。
「……おにーさま、もう寝ました?」
 指を絡めたまま、そっと小声で言ったけれど、反応がない。

 もう寝てしまったみたいだ。

 雨は強く降っているものの、雷の音はしなかった。
 ほっと息を吐きつつ、お兄様が起きない程度の声で囁く。
「セレスは、お兄様が一番大事です」

 優しくてちょっと……かなり、シスコン気味な兄様。
 あなたが、死なずにいてくれるなら、私はなんだってできるもの。
「だから……王子様は、お断りなんです」
 それでも、まだ今日見たお兄様とは違う青の瞳が頭から離れないのは、物語補正なのかもしれない。
「おにいさま、私は……」
 ずっと――。

 ◇◇◇

「カイト兄上」
「どうしたの、ユーグ」
 年齢よりもかなり大人びている弟に名前を呼ばれ、振り返る。
「兄上は、ご機嫌ですね?」
「ん、あぁ……そう、かも」
 家族の前だけの砕けた言葉で、頷いた。
「どうされたんですか?」
「今日は、パーティーがあったでしょう」
 また、あの子のことを思い出したながら、うっとりとため息をつく。

「そこで、気になる方でも?」
「うん。とっても気になる女の子がいたんだ」

 ……といっても、たった、1分しか話してない女の子だけれど。
「兄上が、珍しいですね」
「そうだね。でも、なぜだか、気になるんだ」
 私が話しかけた途端、走り去っていった可憐な赤髪の女の子。名前は、セレスティア•シュトム――シュトム公爵家の令嬢だ。
 といっても、名乗ってすらくれなかったけれど。

「今度こそもっと、仲良くなれるといいな」

 また、今度、子供たちだけのパーティーがある。そこで、話しかけてみよう。そう思いながら、窓に目をやる。
 さっきまで振り続けていた雨は、すっかり上がっていた。
「おやすみ、私はもう、寝るよ。マルクス」
 かわいい弟の頭を撫でてから、自室に戻る。
 ――今夜は、いい夢が見られそうだった。
 
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