7 / 9
一緒に
しおりを挟む
家族でとる、とっても美味しい夕食の後。
私は大好きなお風呂に浸かりながら、ここ最近のことを思い返していた。
前世の記憶を思い出し、お兄様が物語のラスボスで私がそんなお兄様が闇堕ちする原因となるヒロインだとわかって。だから、大事なお兄様が道を踏み外さないように、王子様と恋に落ちないようにするって決めた。
それから、お兄様にも婚約者がいるといいと思って、婚約者候補を探したものの、結果は惨敗。
家に帰ると、なぜだか機嫌がいいお兄様と、お兄様と話してから複雑そうなお父様と一緒にごはんを食べて今に至る。
「うーん」
頭の中が大分整理されたけれど……。
やっぱり、婚約者の件は、お父様に相談するのもいいかもしれない。
でも、不審に思われるかなぁ。
いきなり、義兄の婚約者を探してくれといってくる娘なんて、どうした!?ってなるよね。
「どうしよう」
何が最適かわからないけれど。そろそろ体も温まってきたし、お風呂からあがろう。このままではのぼせてしまう。
そう思って、湯船から上がり、タオルで水分をとった後、自室で髪を乾かそう――。
「……え?」
自室に戻った私は目を疑った。
「ほら、セレス、風邪をひいちゃうよ?」
バスタオルを広げて、私の前に立っているのは、紛れもなくキルシュお兄様、その人である。
……って、いやいやいやいや。
なんでお兄様が、私の部屋に?
「お兄様?」
「侍女のアズが代わってくれてね」
つまり、アズの代わりに、私の髪を乾かしてくれると??? もしかしなくても、このタオルはそのためのタオルですか??
「ほら、椅子に座って」
お兄様は、ぴかぴかの笑顔でそういうと、私を椅子に座らせた。優しくとんとんと叩きながら、私の髪の毛から水分をとっていく。
私の長い赤い髪は、乾かすのに時間がかかる。
それでもお兄様はご機嫌で――それこそ、鼻歌でも歌いそうなほど――髪を乾かしていく。
「……ありがとうございます」
大切な人に、頭や髪を触られるのは心地いい。うっとりと目を閉じて、その多幸感を味わう。
「ううん、僕がしてみたかったんだ。セレスティアの髪に興味があってね」
「そうなんですね」
なるほど、髪に興味が。
お兄様ってば、髪伸ばしても似合いそうだけれど……というかラスボスになった時は髪が長いけど、少なくとも今は短い。だから、興味があったのだろう。
「それにしても、お兄様」
「ん? どうしたの、セレス」
鏡越しにお兄様を見る。その顔はやっぱり機嫌が良さそう。
「お兄様は、今日はご機嫌ですね?」
別にいつもは機嫌が悪いとかじゃないけど。
帰った後あたりからずっと、上機嫌だ。
「……わかる? さすがだね」
「……ええ、まぁ」
私じゃなくても、みんなが思うことだと思うけど。
「うん、いいことがあったんだ」
「! それはよかったです」
いいこと。なんだろう。
お兄様は、パーティーで当たり障りない関係を築いたって、馬車の中で言ってたから、パーティーではなさそう。
となると、出る前?
でも、機嫌がいいのはお兄様が帰ってきて、お父様と話した後だもんね。
お父様から褒められたのかな。
それは、確かに嬉しいかも。
「セレスは、考えている顔もかわいいね」
お兄様が甘く微笑んだ。
そういえば、今日のお兄様はシスコンメーターも振り切れていた!
「……お兄様はどんな顔もかっこいいです」
私のブラコンメーターは元々振り切れているとはいえ、さすがに照れくさい。そう思いながら、ちらりと鏡を見ると――。
「!」
真っ赤だった。お兄様の顔がこんなに赤くなるなんて珍しい! 今回は間違いなく、照れ……だよね?
ちょっと、ブラコンすぎたかな?
「……ふぅん。僕って、セレスにとってかっこいいんだ」
「え? はい。それはもう」
そういえば、かっこいいー! とかきれい! とかもあんまりお兄様に伝えてこなかった気がする。
「ふぅん」
お兄様は、興味なさそうに返事したものの、顔が満更でもなさそうだ。
……ほっとしつつ、髪を乾かし終わったので、櫛で髪を解かす。
お兄様の手でつるつるさらさらになっていく様は、見ていて圧巻だった。
「ほら、終わったよ。よくじっとできたね」
私は五歳児じゃなくて、十歳児なので、さすがに……。
そう抗議しようとしたとき。
お兄様がぱちりと指を鳴らし、ひまわりの花が私の手の中に落ちてきた。
「わぁ! きれい!」
お兄様ったら相変わらず魔法がお上手ですこと。
……ん?
魔法をまだ習っていない私はともかく。
お兄様は魔法をある程度使える。それにラスボスなだけあって、魔力量や使える魔法の種類も多様だ。
何が言いたいかというと。
「お兄様の魔法で髪を乾かせば、すぐだったのでは?」
そうそう。
お兄様の魔法でささっと髪を乾かせば、それでおーけーだったんじゃないの?
「それは、いやだよ。そんな真似は絶対にしないけどセレスの綺麗な髪になにかあったら……」
なるほど。私もお兄様の髪に何かあったらいやだもんね。
「お兄様、ありがとうございました。すっかり乾きました! お花もありがとうございます」
さっきもらった花と一緒に、水を張った小皿に浮かべる。
うん、とっても風情があるね!
「ううん、こちらこそありがとう。セレスを堪能できたよ。おやすみ、セレス」
「はい、おやすみなさい、お兄様」
シスコンを拗らせすぎな発言をスルーしつつ、お兄様を見送った。
「……あ」
「?」
お兄様が途中で振り向く。
「ねぇ、セレス」
「はい」
「今夜は雨が降りそうなんだ。だから……」
お兄様は完璧だけど、雷が苦手なのよね。
……それは、ご両親が亡くなった日に、雷が降っていたからなんだけれど。
「一緒に寝ましょう!」
私は大好きなお風呂に浸かりながら、ここ最近のことを思い返していた。
前世の記憶を思い出し、お兄様が物語のラスボスで私がそんなお兄様が闇堕ちする原因となるヒロインだとわかって。だから、大事なお兄様が道を踏み外さないように、王子様と恋に落ちないようにするって決めた。
それから、お兄様にも婚約者がいるといいと思って、婚約者候補を探したものの、結果は惨敗。
家に帰ると、なぜだか機嫌がいいお兄様と、お兄様と話してから複雑そうなお父様と一緒にごはんを食べて今に至る。
「うーん」
頭の中が大分整理されたけれど……。
やっぱり、婚約者の件は、お父様に相談するのもいいかもしれない。
でも、不審に思われるかなぁ。
いきなり、義兄の婚約者を探してくれといってくる娘なんて、どうした!?ってなるよね。
「どうしよう」
何が最適かわからないけれど。そろそろ体も温まってきたし、お風呂からあがろう。このままではのぼせてしまう。
そう思って、湯船から上がり、タオルで水分をとった後、自室で髪を乾かそう――。
「……え?」
自室に戻った私は目を疑った。
「ほら、セレス、風邪をひいちゃうよ?」
バスタオルを広げて、私の前に立っているのは、紛れもなくキルシュお兄様、その人である。
……って、いやいやいやいや。
なんでお兄様が、私の部屋に?
「お兄様?」
「侍女のアズが代わってくれてね」
つまり、アズの代わりに、私の髪を乾かしてくれると??? もしかしなくても、このタオルはそのためのタオルですか??
「ほら、椅子に座って」
お兄様は、ぴかぴかの笑顔でそういうと、私を椅子に座らせた。優しくとんとんと叩きながら、私の髪の毛から水分をとっていく。
私の長い赤い髪は、乾かすのに時間がかかる。
それでもお兄様はご機嫌で――それこそ、鼻歌でも歌いそうなほど――髪を乾かしていく。
「……ありがとうございます」
大切な人に、頭や髪を触られるのは心地いい。うっとりと目を閉じて、その多幸感を味わう。
「ううん、僕がしてみたかったんだ。セレスティアの髪に興味があってね」
「そうなんですね」
なるほど、髪に興味が。
お兄様ってば、髪伸ばしても似合いそうだけれど……というかラスボスになった時は髪が長いけど、少なくとも今は短い。だから、興味があったのだろう。
「それにしても、お兄様」
「ん? どうしたの、セレス」
鏡越しにお兄様を見る。その顔はやっぱり機嫌が良さそう。
「お兄様は、今日はご機嫌ですね?」
別にいつもは機嫌が悪いとかじゃないけど。
帰った後あたりからずっと、上機嫌だ。
「……わかる? さすがだね」
「……ええ、まぁ」
私じゃなくても、みんなが思うことだと思うけど。
「うん、いいことがあったんだ」
「! それはよかったです」
いいこと。なんだろう。
お兄様は、パーティーで当たり障りない関係を築いたって、馬車の中で言ってたから、パーティーではなさそう。
となると、出る前?
でも、機嫌がいいのはお兄様が帰ってきて、お父様と話した後だもんね。
お父様から褒められたのかな。
それは、確かに嬉しいかも。
「セレスは、考えている顔もかわいいね」
お兄様が甘く微笑んだ。
そういえば、今日のお兄様はシスコンメーターも振り切れていた!
「……お兄様はどんな顔もかっこいいです」
私のブラコンメーターは元々振り切れているとはいえ、さすがに照れくさい。そう思いながら、ちらりと鏡を見ると――。
「!」
真っ赤だった。お兄様の顔がこんなに赤くなるなんて珍しい! 今回は間違いなく、照れ……だよね?
ちょっと、ブラコンすぎたかな?
「……ふぅん。僕って、セレスにとってかっこいいんだ」
「え? はい。それはもう」
そういえば、かっこいいー! とかきれい! とかもあんまりお兄様に伝えてこなかった気がする。
「ふぅん」
お兄様は、興味なさそうに返事したものの、顔が満更でもなさそうだ。
……ほっとしつつ、髪を乾かし終わったので、櫛で髪を解かす。
お兄様の手でつるつるさらさらになっていく様は、見ていて圧巻だった。
「ほら、終わったよ。よくじっとできたね」
私は五歳児じゃなくて、十歳児なので、さすがに……。
そう抗議しようとしたとき。
お兄様がぱちりと指を鳴らし、ひまわりの花が私の手の中に落ちてきた。
「わぁ! きれい!」
お兄様ったら相変わらず魔法がお上手ですこと。
……ん?
魔法をまだ習っていない私はともかく。
お兄様は魔法をある程度使える。それにラスボスなだけあって、魔力量や使える魔法の種類も多様だ。
何が言いたいかというと。
「お兄様の魔法で髪を乾かせば、すぐだったのでは?」
そうそう。
お兄様の魔法でささっと髪を乾かせば、それでおーけーだったんじゃないの?
「それは、いやだよ。そんな真似は絶対にしないけどセレスの綺麗な髪になにかあったら……」
なるほど。私もお兄様の髪に何かあったらいやだもんね。
「お兄様、ありがとうございました。すっかり乾きました! お花もありがとうございます」
さっきもらった花と一緒に、水を張った小皿に浮かべる。
うん、とっても風情があるね!
「ううん、こちらこそありがとう。セレスを堪能できたよ。おやすみ、セレス」
「はい、おやすみなさい、お兄様」
シスコンを拗らせすぎな発言をスルーしつつ、お兄様を見送った。
「……あ」
「?」
お兄様が途中で振り向く。
「ねぇ、セレス」
「はい」
「今夜は雨が降りそうなんだ。だから……」
お兄様は完璧だけど、雷が苦手なのよね。
……それは、ご両親が亡くなった日に、雷が降っていたからなんだけれど。
「一緒に寝ましょう!」
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした
黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん!
しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。
ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない!
清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!!
*R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に
「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」
と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。
確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。
でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。
「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」
この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。
他サイトでも投稿しています。
※少し長くなりそうなので、長編に変えました。
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる