15 / 18
今宵は
しおりを挟む
「……兄上と比べないのは、リーネが初めてだ。だから、嬉しかった。――ありがとう」
そう言って微笑んだジュリアン殿下に私は……。
「私も嬉しいです。初めて私の名前を呼んでくださったから」
ジュリアン殿下の琥珀の瞳が見開かれました。
「私は……。いや、そうだな」
一度首を振ると、ジュリアン殿下は私の左手を取りました。
その手の薬指には、私たちが夫婦である証――結婚指輪がはめられています。
「すまない」
「いえ。でも、これからはもっと呼んでくださるとうれしいです」
この国は、私の祖国ではありません。
私を呼び捨てにする権利を持つのは、夫たるジュリアン殿下だけなのです。
私の薬指を撫でると、ジュリアン殿下は頷きました。
「約束する」
真摯な琥珀の瞳に嬉しくなります。
思わず、笑みがこぼれました。
「――……」
「? ジュリアン殿下?」
ジュリアン殿下が、私の耳に触れました。
耳には、ジュリアン殿下のカフリンクスとおそろいの緑琥珀のイヤリングをつけています。
「似合ってる」
短いその言葉。
「……先ほど言うのを忘れた」
ばつが悪そうに少し早口で付け加え、横を向いた顔は、まるで子供みたいでした。
「……っふ」
その表情がおかしくて、なんだか胸がふわふわとして――笑ってしまいました。
「もう言わない」
拗ねたような言葉に、また笑いたくなるのを我慢して琥珀色の瞳を見つめます。
「そんなこと言わないでください。ジュリアン殿下も、とても素敵です」
琥珀色の瞳が嬉しそうに細められた後、すぐに思い直したように、元の大きさに戻ります。
「……別に」
どうでもよさそうな言葉のわりには、耳が赤くて。
あまり説得力がありません。
本当に、可愛らしい人。
――と、移動が終わってしまいました。
貴族たちにぐるっと取り囲まれます。
ここからは、特に面白くもない腹の探り合いのお時間なので、割愛します。
「――リーネ」
夜会がお開きになり、私の自室までジュリアン殿下が送ってくださいました。
「はい、ジュリアン殿下」
ジュリアン殿下を見つめます。
ジュリアン殿下は、何かいいたげに口をもごもごと動かしました。
なので、ゆっくりとジュリアン殿下の心が落ち着くまで待ちます。
「おやすみ、リーネ。……良い夢を」
きっと、言いたかったのは違うことだったのでしょう。
でも、ジュリアン殿下に初めて言われた夜の挨拶だったので、追及はしませんでした。
「はい。おやすみなさいませ、ジュリアン殿下」
「……あぁ」
後ろ姿を見送ります。
白い結婚ではなく、本当の夫婦だったのなら、そもそもここで別れる必要はないのですが。
ジュリアン殿下の愛はアスノ殿下に今のところは捧げておられるので仕方ないですね。
まぁ、絶対に泣かせて愛を乞わせてやりますが。
……でも。
『おやすみ、リーネ』
とっても嬉しかったので、今宵は一旦復讐は忘れて、その言葉を抱きしめて眠るとしましょう。
そう言って微笑んだジュリアン殿下に私は……。
「私も嬉しいです。初めて私の名前を呼んでくださったから」
ジュリアン殿下の琥珀の瞳が見開かれました。
「私は……。いや、そうだな」
一度首を振ると、ジュリアン殿下は私の左手を取りました。
その手の薬指には、私たちが夫婦である証――結婚指輪がはめられています。
「すまない」
「いえ。でも、これからはもっと呼んでくださるとうれしいです」
この国は、私の祖国ではありません。
私を呼び捨てにする権利を持つのは、夫たるジュリアン殿下だけなのです。
私の薬指を撫でると、ジュリアン殿下は頷きました。
「約束する」
真摯な琥珀の瞳に嬉しくなります。
思わず、笑みがこぼれました。
「――……」
「? ジュリアン殿下?」
ジュリアン殿下が、私の耳に触れました。
耳には、ジュリアン殿下のカフリンクスとおそろいの緑琥珀のイヤリングをつけています。
「似合ってる」
短いその言葉。
「……先ほど言うのを忘れた」
ばつが悪そうに少し早口で付け加え、横を向いた顔は、まるで子供みたいでした。
「……っふ」
その表情がおかしくて、なんだか胸がふわふわとして――笑ってしまいました。
「もう言わない」
拗ねたような言葉に、また笑いたくなるのを我慢して琥珀色の瞳を見つめます。
「そんなこと言わないでください。ジュリアン殿下も、とても素敵です」
琥珀色の瞳が嬉しそうに細められた後、すぐに思い直したように、元の大きさに戻ります。
「……別に」
どうでもよさそうな言葉のわりには、耳が赤くて。
あまり説得力がありません。
本当に、可愛らしい人。
――と、移動が終わってしまいました。
貴族たちにぐるっと取り囲まれます。
ここからは、特に面白くもない腹の探り合いのお時間なので、割愛します。
「――リーネ」
夜会がお開きになり、私の自室までジュリアン殿下が送ってくださいました。
「はい、ジュリアン殿下」
ジュリアン殿下を見つめます。
ジュリアン殿下は、何かいいたげに口をもごもごと動かしました。
なので、ゆっくりとジュリアン殿下の心が落ち着くまで待ちます。
「おやすみ、リーネ。……良い夢を」
きっと、言いたかったのは違うことだったのでしょう。
でも、ジュリアン殿下に初めて言われた夜の挨拶だったので、追及はしませんでした。
「はい。おやすみなさいませ、ジュリアン殿下」
「……あぁ」
後ろ姿を見送ります。
白い結婚ではなく、本当の夫婦だったのなら、そもそもここで別れる必要はないのですが。
ジュリアン殿下の愛はアスノ殿下に今のところは捧げておられるので仕方ないですね。
まぁ、絶対に泣かせて愛を乞わせてやりますが。
……でも。
『おやすみ、リーネ』
とっても嬉しかったので、今宵は一旦復讐は忘れて、その言葉を抱きしめて眠るとしましょう。
328
お気に入りに追加
765
あなたにおすすめの小説
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる