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わかりやすい人

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 アスノ殿下は、しばらくジュリアン殿下の話をそれはもう親しげにした後、帰っていきました。

「……リーネ殿下」

 ミミリの言いたいことはわかります。
「ふふ、とっても面白いことになりそうね」
 私は微笑んで頷きました。

「……しかし。恐れながらリーネ殿下、リーネ殿下が愛するに値するお方でしょうか?」

 私は決めました。
 ジュリアン殿下に泣いて愛を乞わせると。
 しかし、そのためには私がジュリアン殿下を溺愛しなければなりません。

 ジュリアン殿下は、初夜にいきなり「愛することはない」と言ってくるような方ではありますが……。

「ええ、そう思うわ」
 頷いて見せます。

 ジュリアン殿下は確かに女性の趣味も悪いですし、同年代の貴族の方と比べて幼い部分もございます。

 でも、そうですね……そういうところを、可愛らしいと思いました。

 私に惚れ込ませるなら、私もジュリアン殿下への溺愛に嘘があってはなりません。
 その溺愛は、せめて期限の間だけは本物でないと、ジュリアン殿下も心を動かされないでしょうから。

 ミミリは複雑そうな顔で、畏まりました、と礼をして、退出しようとします。

「ミミリ」

 私はそんな彼女を呼び止めました。

「はい」

 ミミリの可愛らしい緑の瞳を見つめます。

「ありがとう。あなたがいてくれて、本当に心強く思っているわ」
 ミミリが私の性格を理解した上で、私を案じてくれていることは、十分わかっています。
 そして、私の幸せを願ってくれていることも。

「私は……」

 私は俯いたミミリのそばによりました。
「ミミリ、触れてもいいですか?」
「……はい」
 ミミリが頷いたのを確認して、ミミリを抱きしめます。

「ミミリーー大好きよ。いつも、わがままばかりでごめんなさい」
 どんなときも、私のそばにいてくれたミミリ。
 父と母に叱られた時も。
 姉に虐められたので、やり返した時も。
 私の飼っていた小鳥を天に見送る時も。

 どんなときだって、そばで、私を支えてくれていました。

 私たちは別人なので、完全にお互いのことを理解できてはいないでしょう。
 それでも。

 ミミリが私を大切に思ってくれていることはわかります。そして、私自身もミミリを大切に思っていることも。

「約束……してくださいますか?」

 ミミリは、小さな声で私に尋ねました。

「ミミリの望むことなら」

 ミミリは、ずるいですね、と苦笑したあと、真剣な顔で私を見つめました。

「絶対に幸せになると約束してください。私はリーネ殿下、あなたの選択に従います。しかしその先には、必ずリーネ殿下の幸せがある選択をなさってください」
「わかったわ。約束する」

 私もミミリを見つめ返します。

 それから、ふっ、と互いに笑いました。

「リーネ殿下は、お優しいから心配なのです」
 ……変なことをいいますね。
「私の性格の悪さは、ミミリが一番知っているでしょう」

 虐めてきた姉にやり返したときのことを思い出しながらそう言うと、ミミリは微笑みました。

「私はリーネ殿下以上に、優しい方を知りません」
 知ろうとも思いませんが。

 そう付け足された言葉に苦笑します。
「ミミリは私を持ち上げすぎよ」

「私はリーネ殿下の侍女ですから。リーネ殿下が一番だと思うのは当然では?」

 あまりにも得意げにいうものだから笑ってしまいました。

◇◇◇

 ミミリと穏やかな時間を過ごした後。
 また前触れもなく、来客が現れました。

 その来客は、むすっとした顔で、私の向かい側のソファに座りました。

「ジュリアン殿下、いかがなさいましたか?」

 たしか、朝食も一緒に取られないほど、お忙しかったはずでは?
 なんていう嫌味は言わずに、にっこりと微笑みます。

「義姉上がこちらにきたそうだな」

 ……あらあらまぁまぁ。

 なんて、わかりやすいお方でしょうか。
 
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