私は、木になりたい。

夕立悠理

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「リリー様ぁ、リリーお嬢様ぁ、隠れていないで出て来て下さーい!!」
使用人たちが私を探して屋敷中を駆け回っているとき、私は木の上に隠れていました。
 数年前の私は、今と違って少しお転婆な娘でした。
「……ぜったいいくもの」
その時は確かお母様が風邪を引かれたとかで、祭りにいくのは中止になりました。
 でも、その年は私にとって初めての祭りでずっと楽しみにしていたのです。いけなくなったと言われて、はいそうですか、と納得できるほど大人でもありませんでした。

 『欲しいものは勝ちとるまで諦めてはダメよ』
というお母様の言葉に則り、祭りに参加する気満々でした。

 「そろそろいいかな」
門まであと少し、というところで、使用人に私が脱走したことがばれたので、近くの木に登りました。
 使用人たちもまだ、私は屋敷の中にいるだろう、という判断をしたので、その間に木から飛び降ります。木から飛び降りたら、庭の外です。そこまで高い木でもありませんでしたし、万が一怪我をしてもたいしたことにはならないと思っていました。

 「え」
「……きゃああああ!!」
誤算があったとすれば、落ちた先に人がいたことです。
 私と同じくらいの背の男の子は避けようとせず、受け止めようと頑張ってくれました。しかし、落下で何倍にもなった私の体重を支えきれるはずがなく、二人してごろごろと転がりました。
 この時の私は非常に運が良かったと言えるでしょう。
 派手な音がしましたが、二人とも怪我一つしませんでした。
 もしも、この男の子に怪我をさせようものなら……今考えても、恐ろしいです。


 「……だいじょうぶ?」
私のせいで巻き込まれた彼は、自分の体よりも先に私の心配をしてくれました。
「だいじょうぶです。ごめんなさい!!私のせいでまきこんでしまって……。けがはありませんか?」
 「ないよ。でも、危ないから、今度から気をつけてね」
そう言って、彼は綺麗な顔で優しく微笑みました。

……ここまでなら、よかったのに。

 少し恥ずかしくも、まあ幼いころの思い出という形に収まったでしょう。
 しかし、ここで私は重大なミスを犯しました。

「……君は、この辺りに住んでいるの?」
「はい」
「じゃあ、僕といっしょに祭りをまわってくれないかな?」

聞くと、彼はこの辺りに来たのは初めてで、困っていたといいます。
 私のせいで、怪我をさせかけたという罪悪感と祭りに参加できるのならなんだっていい、という気持ちで、すぐに頷きました。
 黒歴史の始まりです。
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みんなの感想(1件)

クロウ
2018.09.03 クロウ

面白いです!
文字数もちょうどよくて、飽きずに最後まで読めます。

これからも頑張ってください!

夕立悠理
2018.09.03 夕立悠理

お読みくださりありがとうございます。
面白いといっていただけて嬉しいです!
更新、頑張ります!

解除

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