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一周目

両親の死

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次に私が目を覚ましたとき、見知らぬベッドの上だった。
「……?」
お母さんはどこだろう。いつも柔らかな声で起こしてくれるのに。きょろきょろと辺りを見回していると徐々に頭が覚醒してきた。

 魔力量をはかってもらう途中で寝てしまった私は、神官さんたちに運ばれてそれで──。

 「お母さん! お父さん!」
すぐに助けにいかないと。ベッドから飛び降りて、見知らぬ部屋から抜け出そうとしたとき、扉が開いた。

 入ってきたのは若い神官さんだった。神官さんは、私を見ると目を伏せた。
「あのあと、水魔法の得意な神官を向かわせた。幸いなことに燃えたのはあの村だけだったが、娘、あの村に生き残りは──」

 最後まで聞きたくなくて、部屋から飛び出そうとしたとき、鈴のような声の主が部屋に入ってきた。

 「貴女が、エルマリーさん? 初めまして、私はフィオーレ──すごい! 本当に私にそっくりだわ!!!」

 顔をあげると、私と同じ顔がそこにはあった。まるで、鏡を見ているようだ。

 ぎょっとして、立ち止まってしまった。

 それに、フィオーレ。神の子の名前だ。
「フィオーレ様、当初の目的をお忘れですか?」
若い神官さんが冷たい声で言う。

 「そうね……。エルマリーさん」
フィオーレが優しげな顔をつくり、そっと私の両手を包む。
「アルフレッドから、話を聞いたわ、お父様とお母様のことはとても残念だったわね」
「!」

 思わず手を振り払った。
「何が残念なの。お母さんとお父さんは死んでない!」

 本当に神の子かもしれないフィオーレ相手にそんなことをしてよかったとは思えない。

 けれど、その場にいた神官さん──おそらくアルフレッドさんも私を咎めなかった。

 「ごめんなさい、無神経なことをいってしまったわ。……許してもらえるかしら」
瞳に涙をためたフィオーレは、私と同じ顔をしているのに、なぜだか私が悪いことをしているような気分になってくる。

 「……許します」
「よかったぁ! ありがとう」
ぱあっと、花のような笑みを浮かべたフィオーレを尻目に今度こそ、部屋を抜け出そうとする。

 お父さんもお母さんも死んでいない。
 はやく、助けにいかないと。

 ケーキとプレゼントをもって、私を待ってる。

 部屋から飛び出すと、ぶつかった。顔を見ると、年配の神官さんだった。

 「ごめんなさい、じゃあ」
「お嬢さん、現実を受け止めなさい」
「!?」
そういうと、痛ましげな顔をしながら、私を部屋に連れ戻した。

 そして、ポケットからなにかを取り出す。
「これに見覚えはありませんか?」
「! それは、おかあ、さんの」
お母さんのブローチだった。お母さんのお母さんがお母さんに贈ったというそれは、私が結婚するときにお母さんから贈ってもらう予定だったものだ。

 昨日だって、お母さんの胸元で輝いていたはずの、それが、なんで、神官さんがもっているの。

 「遺体は損傷が激しくてね、お嬢さんにはとても見せられないけれど、これでわかってもらえるんじゃないかな」

 そういって、神官さんは私にブローチを握らせた。

 「……あ、あ、」

 震える手を開くと、ブローチはところどころ煤焦げていて、けれど、真ん中の宝石だけはかわらずきらきらと煌めいている。

 『ねぇねぇ、お母さん、そのブローチほしい!』
『だめよ、これはエルマリーが結婚するときにプレゼントしてあげる』

 そのブローチが、今、私の手にある。

 まさか、お母さんの誕生日プレゼントがブローチのわけないだろう。ブローチが私のものになるのなんかずっと、後でよかった。なんてことない日常がずっと続けばよかったのに。

 からだから力が抜ける。

 気づけば、床にへたりこんでいた。

 「う、あ……」

 ──エルマリー、貴女は幸福な子よ


 「うわああああああ、ああああああ」

 涙で前がみえない。そのとき、お母さんと同じお日様の香りがした。

 フィオーレが泣きながら、私を抱き締めたのだ。
 「その悲しみを私にも分けて」


 分けれるはずもない。だって、お母さんが。お父さんが。

 けれど、なぜか私の腕はフィオーレの背に回っていた。

 泣きつかれて眠るまでずっと、フィオーレは私を抱き締めていた。
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