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無茶振りがすぎる聖女様

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「だからね、ラウラ、あなたにぴったりだと思うのよ!」
「……は?」

 聖女様のお言葉に、私は目を瞬かせた。
 なにがだからで、ぴったりなのか。その説明は何一つ受けていなかった。

「だーかーら、あなたが、あの冷徹公爵の結婚相手にぴったりってこと!」

 冷徹公爵ーーそう呼ばれているのは、我が国アルグリアのロドルフ・イクト公爵しか、知らないけど……。

 その結婚相手に私がぴったりとは、どういうことかしら。

「ほら、見てみなさいよ。この釣書」
 聖女様のお言葉通り、掲げられた釣書に目を通す。
 そこには思った通り、イクト公爵の情報がつらつらとかかれてあった。

「隣国にまでその名が轟く、冷徹侯爵がわたくしと結婚したいだなんて、頭沸いてるとしか思えないわ」

 そう言って投げ捨てられた釣書を、慌てて拾ってテーブルの上に置く。

「でも……あなたならぴったりでしょ? 冷徹公爵と、ニセモノ聖女! これ以上ない組み合わせだわぁ!」
 つまり、今日の聖女様の私に対する嫌がらせは、これらしい。
「しかし、アメリ様……」

 嫌がらせにしては、今日のはずいぶんと規模が大きい。自分に向けられた縁談を、私に押し付けようだなんて。まぁ、ただ私のことを「ニセモノ」呼ばわりしたいためのだしに使われただけで、実際に私を結婚させるつもりはなーー。

「しかしもなにもなくってよ」
「え?」

 聖女アメリ様は鋭い瞳で私を見つめた。

「あなたが、この! 冷徹公爵と! 結婚するの!!」

 アメリ様は今日はまたずいぶんストレスが溜まっているのね。
 そう思いながら、その瞳を見つめ返すと……。

「わたくしには、真実の愛……そう、運命で結ばれるべき相手がいるの! だから、この縁談、あなたに任せるわね」
「……その、真実の愛の相手はどちらに?」

 そんな相手なんて、一切聞いたことがないけど。

「いるにきまってるでしょ? わたくしを誰だと思っているの。アルグリア国が聖女、アメリよ!!」
「はぁ、そうですか」

 もう何百回は聞いたそのセリフに、適当に相槌を打つと、それが気に食わなかったのかアメリ様は、どんどんと床を鳴らした。

「とーにーかーく、ラウラ、あなたが結婚するの! ニセモノなあなたにぴったりな役割なんだから。イクト公爵にはそう返事をしておくわね」
「いくら、アメリ様でも……それはさすがにどうかと」

 だってイクト公爵は、私ではなく、アメリ様に釣書を送ってきたわけで。

 そんな中、急に縁談はお目当てじゃないわたしが受ける、なんて返事をしたって、はいそうですと納得できるはずもない。

 なーんて、思っていたのだけれど。

 予想に反して、イクト公爵から送られてきた返事は、了承を記す短いものだけだった。
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