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輝く星だけが

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「あー……ああー」
 ガロンさんは、とても落ち込んだ様子だったけど。
 私はそれどころじゃなかった。

 好きなひと……。聞き間違えじゃなかったら、ガロンさんは今、そう言った……わよね?

 ガロンさんが、私を好き……?

「!」

 急に体中の体温が上がるのを感じる。
 って、いやいやいや。
 ガロンさんのことだから、大事な部下のひとりとして、とか、闇獣の世話係として、とか。

 そういうこと……よね。
 ……勘違いして恥ずかしい。
「……ラファリア」

 赤くなったり、青くなったりしていると、落ち込みから回復したらしいガロンさんに名前を呼ばれた。

「……はい」

 勘違いしてごめんなさい。また、距離を見誤るところだった。

「……その。俺は、あなたが好きだ。あなたに恋をしている」
「……え?」

 勘違い……じゃなかった!?!?!?

「あなたが帰ってきたら、話すと約束していただろう。それが、その……俺の気持ちだ」
「えっ、……ええ?」
「……あなたは竜王相手に怖い思いをしたばかりで、こんなことを言うつもりではなかっただのが……口が滑った」

 申し訳ない、とガロンさんに謝られて、首を振る。
「驚きすぎて……今日の怖い思いも全部吹き飛んだので、大丈夫です」

 えっ、ええ!?
 ガロンさんが、ガロンさんが、私を、好き??????

 頭の中では、まだ、混乱していた。

「……そうか。それなら、良かった……? 良かった、のか?」

 ガロンさんは、なんとも言い難い顔をしていた。
「返事は、いつでもいいし、何ならしなくてもいい」
「ええっ」

 告白の返事をしなくてもいいなんて、初めて聞いた。
「その、あなたに気まずい思いをしてほしいわけじゃないんだ。あなたは、この国で、健やかに過ごしてほしい」
「……ガロンさん」

 わかっていたけれど、ガロンさんは、優しすぎでは!?

「約束したから、伝えただけだから、だから……」
 そういって、手を離して去ろうとした、ガロンさんの手を握る。

 私の心臓は、早鐘のように、脈打っていた。

「……ラファリア?」
 ガロンさんが、戸惑った声を上げる。
 それもそものはず。
 私自身も、自分の行動に戸惑っていた。

「……ガロンさん」
「……どうした?」

 ガロンさんが私を、見つめる。
 その星のような瞳を見つめ返しながら、私は、息を吸い込んだ。

「……ガロンさん、私、ガロンさんに甘えていたんです」
「……あ、ああ。それは、嬉しかった」
「……それに、なぜだか、ガロンさんに手を握られると動悸もするんです」
「……そう、なのか?」

 俺も今は、動悸がすごい、そうつぶやいたガロンさんの顔は真っ赤だった。

「……それに、それに。レガレス陛下に、口づけられそうになった時――」
「なんだと?」

 ガロンさんの表情が急に変わった。
「……え」
「口づけされそうになったのか、竜王に? 触れられただけでなく?」

 詰め寄られて、ぱちぱちと瞬きする。
「あれ、言ってませんでしたか……?」
「聞いていない。まさか、あなたにそんなことをするなんて……」
 ガロンさんは、やっぱりあの時に……と小さく呟いていたけれど。

「……ということは、今はどうでもよくて」
「いや、どうでも良くはないだろう。あなたが、怖い思いをしたんだ」

 ガロンさんは、これ以上ないほど、怒った顔をしていたけれど。

「どうでも、いいんです。だって――そのおかげで気づけたから」

 そうだ、私は、もう。
 自分の気持ちに気づいていた。

「……何に?」

 ガロンさんが私を見つめる。その瞳には、期待と不安が入り混じっていた。
「私、……私、あなたが――ガロンさんが、好き、なんです」

 ……は、と息を深く吐き出す。

 告白ってこんなに緊張するのね。
 先に告白したガロンさんは、きっと、もっと、緊張しただろう。

「ガロンさん、好きです。あなたに恋を、しています。だから……その。返事はいらないって、言われたけど、でも――!!」

 私は、あなたと一緒にいたい。ちゃんと、恋人として。

 伝えたかった言葉は、口の中で消えた。

 強く、抱きしめられたから。
「俺も……あなたが、好きだ。あなたに、恋をしている」

 ガロンさんの言葉は……ううん。体も、震えていた。
「……ああ、でも、本当に?」
「はい。私は、ガロンさん、他の誰でもない、あなたが好きです」

 花奏師をやめて初めて酒場で飲む私に、アドバイスをくれたガロンさん。
 それどころか、ガロンさんは、私に新しい居場所と仕事をくれた。

 ガロンさんは、いつだって、優しくて、私をちゃんと見てくれていた。

 そんなあなただから、私は、あなたを、好きになったの。


「……はぁ」
「ガロンさん?」

 ガロンさんは、ぎゅうっと、私を強く抱きしめた。
「もう一度、言ってくれないか。これが、夢じゃないかと、怖いんだ」

 可愛らしいお願いに私はもちろん、頷いた。
「はい。ガロンさん、あなたが好きです。……大好きです。夢だったら、私が、困ります」

 ぎゅっと、ガロンさんを抱きしめ返す。

 ――空に輝く星だけが、私たちを見ていた。
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