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第十一章 こそこそ文芸部
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十一
放課後は、一度職員室に寄ってから部活へ向かった。
校舎内はもうひと気がほとんどなく、静かだ。ぺたぺたという私の靴音が廊下に響く。
「あら」
二階の廊下を歩いていると、意外な人物に出くわした。高柳くんだ。校舎内で会うのは珍しい。
「うん」
彼は小さく頷いた。挨拶のつもりだろう。なんとなく一緒に並んで歩き出した。
「お互いゆっくりね。また倉持くんから謎かけでも受けてたの」
「いや。彼とはさっき出くわしたけれど、謎かけはなかった」
「……それも珍しいわね」
「上の空だったよ」
「そう。あら?」
立ち止まる。廊下の奥からきゃっきゃと女の子たちの声が聞こえた。
彼は怪訝そうに私を見る。女子生徒の嬌声など、きっと彼には皆同じに聞こえることだろう。だが私には分かった。それは藤枝さんグループのはしゃぐ声だった。
彼はすぐ察してくれた。少し先に進むと、廊下の角からこっそり伺う。私も同じようにした。
見知った後ろ頭の一群が見えた。間違いなく藤枝さんたちだ。きゃははと声を上げてからひそひそと囁き合い、今度はくすくす笑っていた。話は全く聞こえない。
「やり過ごそうか」
彼は声をひそめた。
それに答える前に、私の目線は藤枝さんの手元に釘づけになっていた。革靴だ。私の位置からでも、それが女子生徒の外履きであることはすぐに分かった。
なにをしているのだろう? ここは二階である。外に通じる出入り口は一階にしかない。靴も普通ならば昇降口の下駄箱にあるはずだ。
すぐに彼女は思いも寄らない行動に出た。革靴を持った手を窓の外に突き出すと、ぱっと離して下へ落としたのだ。
女の子たちは顔を見合わせ、またくすくす笑うとその場を離れた。こちらへ来るかと思ったが反対方向へ去っていった。
「行こう」
高柳くんが声をかけてくる。
「今の、私の靴かしら」
可能性としてはあると思う。
「分からない。確認してみよう」
私たちは早足で廊下を進み、一階を目指した。曲がり角や階段では、進む先に藤枝さんたちの姿がないかどうか、いちいち確かめた。
昇降口に着くと、彼はすぐ自分の靴を履き換えた。
「僕は外に行く。靴の落とされた場所を見るよ」
「分かった」
私も小走りで下駄箱へ向かい、自分の靴があるかどうかを確認した。
やがて戻ってきた彼は、手ぶらだった。
「靴は?」
問うと、彼はかぶりを振る。
「なかったよ」
「なかった?」
意外な返事だった。そんな馬鹿な。確かにさっき、藤枝さんは窓から投げ落としていた。
「君の靴は?」
彼は問うてくる。
「なかったわ」
「……そうか」
彼は考え込む。
「奇妙だな。君の靴が下駄箱から消えて、おそらく藤枝さんはそれを窓から投げ落とした。でもその靴はどこにも見当たらない」
「どこへ消えたのかしら」
嘆息した。
内履きを履き替えている間、彼は黙ったままだった。この奇妙な出来事について、考えを巡らせているようだった。
放課後は、一度職員室に寄ってから部活へ向かった。
校舎内はもうひと気がほとんどなく、静かだ。ぺたぺたという私の靴音が廊下に響く。
「あら」
二階の廊下を歩いていると、意外な人物に出くわした。高柳くんだ。校舎内で会うのは珍しい。
「うん」
彼は小さく頷いた。挨拶のつもりだろう。なんとなく一緒に並んで歩き出した。
「お互いゆっくりね。また倉持くんから謎かけでも受けてたの」
「いや。彼とはさっき出くわしたけれど、謎かけはなかった」
「……それも珍しいわね」
「上の空だったよ」
「そう。あら?」
立ち止まる。廊下の奥からきゃっきゃと女の子たちの声が聞こえた。
彼は怪訝そうに私を見る。女子生徒の嬌声など、きっと彼には皆同じに聞こえることだろう。だが私には分かった。それは藤枝さんグループのはしゃぐ声だった。
彼はすぐ察してくれた。少し先に進むと、廊下の角からこっそり伺う。私も同じようにした。
見知った後ろ頭の一群が見えた。間違いなく藤枝さんたちだ。きゃははと声を上げてからひそひそと囁き合い、今度はくすくす笑っていた。話は全く聞こえない。
「やり過ごそうか」
彼は声をひそめた。
それに答える前に、私の目線は藤枝さんの手元に釘づけになっていた。革靴だ。私の位置からでも、それが女子生徒の外履きであることはすぐに分かった。
なにをしているのだろう? ここは二階である。外に通じる出入り口は一階にしかない。靴も普通ならば昇降口の下駄箱にあるはずだ。
すぐに彼女は思いも寄らない行動に出た。革靴を持った手を窓の外に突き出すと、ぱっと離して下へ落としたのだ。
女の子たちは顔を見合わせ、またくすくす笑うとその場を離れた。こちらへ来るかと思ったが反対方向へ去っていった。
「行こう」
高柳くんが声をかけてくる。
「今の、私の靴かしら」
可能性としてはあると思う。
「分からない。確認してみよう」
私たちは早足で廊下を進み、一階を目指した。曲がり角や階段では、進む先に藤枝さんたちの姿がないかどうか、いちいち確かめた。
昇降口に着くと、彼はすぐ自分の靴を履き換えた。
「僕は外に行く。靴の落とされた場所を見るよ」
「分かった」
私も小走りで下駄箱へ向かい、自分の靴があるかどうかを確認した。
やがて戻ってきた彼は、手ぶらだった。
「靴は?」
問うと、彼はかぶりを振る。
「なかったよ」
「なかった?」
意外な返事だった。そんな馬鹿な。確かにさっき、藤枝さんは窓から投げ落としていた。
「君の靴は?」
彼は問うてくる。
「なかったわ」
「……そうか」
彼は考え込む。
「奇妙だな。君の靴が下駄箱から消えて、おそらく藤枝さんはそれを窓から投げ落とした。でもその靴はどこにも見当たらない」
「どこへ消えたのかしら」
嘆息した。
内履きを履き替えている間、彼は黙ったままだった。この奇妙な出来事について、考えを巡らせているようだった。
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