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第五章 選ばれし者 授けられし力
第一話 天使イィザエル その2
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「あれぇ? もしかして通じてない? ちょっとミャアちゃぁん、私の言葉オカシイかしら?」
余りのギャップに呆然とする僕らを見て、イィザエル様は確実に話す事のできるミャアに尋ねた。
「イィザエル様大丈夫ニャ。ちゃんと人間の言葉を話しているのニャ」
「え~? じゃあ声が小さかったのかしら。あーあー。んっんっ……」
「……そう言う問題じゃないと思うニャ。マスターたちはイィザエル様の見た目とのギャップに戸惑っているだけだと思うニャよ」
「あらぁ、そうなの? 驚かせちゃったかしら」
「え、えーっと失礼しました。ミャアの言う通り、その何というか……もっとこう威厳のある感じなんだろうなぁって思っていましたのでぇ……」
僕がそう答えると、隣でシィスが激しく同意してぶんぶんと首を縦に振りまくる。
それを見たイィザエル様は、実に良い笑顔で笑いながら答えた。
「あら、イメージ壊しちゃった? まぁ確かに普段『神の使徒』として降臨するときは、そういうスタイルを取ってるんだけどネ。その方が神様に対する信仰心もあがるし、キミが言ったようにソレっぽいでしょ? まぁミャアちゃんとは既に何度も話してるし、今は緊急事態だから畏れを抱かせるよりも、この方が話しやすいかなって思ったのよ。えっとぉ……」
そう言いながら二人の顔を見比べ始めた天使様に、僕らは慌てて挨拶をした。
「天使イィザエル様。申し遅れました。僕はアニス・アンブラシス。アンブラシス士爵領領主ピーター・アンブラシスと母リリィが嫡男。こちらは妹のシィスです」
「シィス・アンブラシスです。イィザエル様、お目にかかれて光栄に存じます」
両肘を脇に密着させ、両掌を上に向けたまま胸の前に掲げて首を垂れる。
妹は女性なので、同じようにしながらも両手を胸ではなく腰骨の辺りで左右に広げて見せ、軽く膝を折って会釈をした。
元々は相手に掌を見せることで、武器は持っておらず敵意は無いですよ。という事を示すジェスチャーだったらしいけど、今では貴き方々の挨拶としてこのスタイルが定着している。
ド田舎暮らしの僕らは他貴族と会う事が滅多にないので、このスタイルの挨拶なんて数える程しかしたことはないけれど、母さんから貴族としての最低限のマナーだとしっかり教え込まれていた。母さんは王都産まれ王都育ちの子爵家四女なので、マナーにはうるさいのだ。
正直僕もシィスも畏まったマナーの勉強は苦手なんだけれど、習っておいて良かったぁ。と心底思った。イィザエル様が超フレンドリーだとしても、万が一にも失礼があったらイケナイからね。
貴族風の挨拶を終えて顔を上げても、まだイィザエル様は僕らをじぃーっと見比べている。
「……あのぉ?」
「あら? ごめんなさいね。えっと、アニス君に、シィスちゃん……ね」
「は、はい。以後お見知りおきをって――キャッ、ちょ、イィザエル様!? 何を――」
シィスが返事をしている間につかつかと寄ってきたイィザエル様は、彼女の身体を前後左右から触ったり、眺めたり、摘まんだりして何やら確認らしきことをしはじめた。
「イィザエル様!? もしかして妹に興味がおわりですか? 一応、妹は女の子ですが、イィザエル様のお相手には――」
「一応って何よっ! ちゃんと女の子よ!」
「あ、ゴメンなさいね。そういうコトではなかったのよ? ただ面白かったからちょっと……ふーん……成程ねぇ」
そう言いながら今度は僕の方へ向き直ると、シィス程ではないけれど僕のことも同じようにベタベタと調べ始める。
「あ、あの。一体何を!?」
「ふむふむ……そういうコト……うんうん……」
身をよじって逃れようとも思ったけれど、イィザエル様の表情は真剣そのものだったので、僕は取り敢えず天使様が満足為されるまでそのままじっとしている事にした。
暫くの間、僕たちを交互に調べたあと、イィザエル様は数秒だけ黄色い瞳に光を宿して僕らを眺め、感慨深げに口を開いた。
「成程ねぇ……面白い事になってるわね、貴方達」
「面白い……ですか?」
「えぇ。魂の波動が殆ど同じ。微妙なブレは……男女の性差によってもたらされているって感じかしら」
「は、はぁ……あの、僕たちは双子の兄妹なので……よくわからないんですけど、魂の波動というのが似ているのはそういう――」
「似ているんじゃない。同じなのよ。殆ど同じ! 信じられないわ、こんな事ってあるのね」
そう言ってイィザエル様は、心底驚いたという表情で僕らを見つめた。
余りのギャップに呆然とする僕らを見て、イィザエル様は確実に話す事のできるミャアに尋ねた。
「イィザエル様大丈夫ニャ。ちゃんと人間の言葉を話しているのニャ」
「え~? じゃあ声が小さかったのかしら。あーあー。んっんっ……」
「……そう言う問題じゃないと思うニャ。マスターたちはイィザエル様の見た目とのギャップに戸惑っているだけだと思うニャよ」
「あらぁ、そうなの? 驚かせちゃったかしら」
「え、えーっと失礼しました。ミャアの言う通り、その何というか……もっとこう威厳のある感じなんだろうなぁって思っていましたのでぇ……」
僕がそう答えると、隣でシィスが激しく同意してぶんぶんと首を縦に振りまくる。
それを見たイィザエル様は、実に良い笑顔で笑いながら答えた。
「あら、イメージ壊しちゃった? まぁ確かに普段『神の使徒』として降臨するときは、そういうスタイルを取ってるんだけどネ。その方が神様に対する信仰心もあがるし、キミが言ったようにソレっぽいでしょ? まぁミャアちゃんとは既に何度も話してるし、今は緊急事態だから畏れを抱かせるよりも、この方が話しやすいかなって思ったのよ。えっとぉ……」
そう言いながら二人の顔を見比べ始めた天使様に、僕らは慌てて挨拶をした。
「天使イィザエル様。申し遅れました。僕はアニス・アンブラシス。アンブラシス士爵領領主ピーター・アンブラシスと母リリィが嫡男。こちらは妹のシィスです」
「シィス・アンブラシスです。イィザエル様、お目にかかれて光栄に存じます」
両肘を脇に密着させ、両掌を上に向けたまま胸の前に掲げて首を垂れる。
妹は女性なので、同じようにしながらも両手を胸ではなく腰骨の辺りで左右に広げて見せ、軽く膝を折って会釈をした。
元々は相手に掌を見せることで、武器は持っておらず敵意は無いですよ。という事を示すジェスチャーだったらしいけど、今では貴き方々の挨拶としてこのスタイルが定着している。
ド田舎暮らしの僕らは他貴族と会う事が滅多にないので、このスタイルの挨拶なんて数える程しかしたことはないけれど、母さんから貴族としての最低限のマナーだとしっかり教え込まれていた。母さんは王都産まれ王都育ちの子爵家四女なので、マナーにはうるさいのだ。
正直僕もシィスも畏まったマナーの勉強は苦手なんだけれど、習っておいて良かったぁ。と心底思った。イィザエル様が超フレンドリーだとしても、万が一にも失礼があったらイケナイからね。
貴族風の挨拶を終えて顔を上げても、まだイィザエル様は僕らをじぃーっと見比べている。
「……あのぉ?」
「あら? ごめんなさいね。えっと、アニス君に、シィスちゃん……ね」
「は、はい。以後お見知りおきをって――キャッ、ちょ、イィザエル様!? 何を――」
シィスが返事をしている間につかつかと寄ってきたイィザエル様は、彼女の身体を前後左右から触ったり、眺めたり、摘まんだりして何やら確認らしきことをしはじめた。
「イィザエル様!? もしかして妹に興味がおわりですか? 一応、妹は女の子ですが、イィザエル様のお相手には――」
「一応って何よっ! ちゃんと女の子よ!」
「あ、ゴメンなさいね。そういうコトではなかったのよ? ただ面白かったからちょっと……ふーん……成程ねぇ」
そう言いながら今度は僕の方へ向き直ると、シィス程ではないけれど僕のことも同じようにベタベタと調べ始める。
「あ、あの。一体何を!?」
「ふむふむ……そういうコト……うんうん……」
身をよじって逃れようとも思ったけれど、イィザエル様の表情は真剣そのものだったので、僕は取り敢えず天使様が満足為されるまでそのままじっとしている事にした。
暫くの間、僕たちを交互に調べたあと、イィザエル様は数秒だけ黄色い瞳に光を宿して僕らを眺め、感慨深げに口を開いた。
「成程ねぇ……面白い事になってるわね、貴方達」
「面白い……ですか?」
「えぇ。魂の波動が殆ど同じ。微妙なブレは……男女の性差によってもたらされているって感じかしら」
「は、はぁ……あの、僕たちは双子の兄妹なので……よくわからないんですけど、魂の波動というのが似ているのはそういう――」
「似ているんじゃない。同じなのよ。殆ど同じ! 信じられないわ、こんな事ってあるのね」
そう言ってイィザエル様は、心底驚いたという表情で僕らを見つめた。
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