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第二章 クラン街の悪夢

第46話 サキュバスの事情

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注意:ここからはサキュバスのクランを視点に二話ほど物語を書いています。

 インキュバス・サキュバスの両制を持つ魔物、クランは自宅で休んでいた。
昨日まで趣味のコスプレをして大忙しだったため、疲れがたまっていた。
起きたのは昼の十二時近くであり、自分でも寝過ぎたかな、と罪悪を感じている。

インキュバス・サキュバスと両性になれるといっても、個人的な好みは偏るモノだ。
クランはどちらかというと、女性のコスプレが好きであり、服の数も女性物が圧倒的に多い。

だからといって、男性物が嫌いということも無く、日によって変えていた。
折角、両方が着こなせるのだ。
どちらかに決めるというのももったいない。

彼女の夢は、コスプレ喫茶を建てる事だが、今のところ資金が足りず、そのため暗殺の仕事もこなしている。

魔物という種族から、親から受け継いだ能力と連絡経路により、仕事をするのは困らなかった。

男も女も虜にできる容姿の上、相手の思考を読み取り、ターゲットの好きな人物になりすますことも出来る。
これほど暗殺向きの能力もそうは無い。

しかし、クランの性格からいって、相手の精気を吸い取って殺すというのは好きな事では無い。

もしも資金が溜まったら、伝統の暗殺家業を止め、お客と仲良くなれるコスプレ喫茶を開店するつもりだ。

今まで殺した人物も、悪人を識別してターゲットにしていた。
最近得た異次元を利用する殺し方も、自分の分からない所で死ぬように考えて作り出した。
今回違う所はと言えば、悪人ではない事である。

噂では、異世界で戦争を止めた英雄だという。
今回の仕事を選んだ理由は、知り合いが依頼して来た事と、一回の仕事でコスプレ喫茶が開けるという事だ。

初めて悪人ではないターゲットなので多少気不味い思いを感じたが、依頼人の話ではとても優秀で死ぬ事は無いと言う。

手加減無しに、全力で仕事をしてくれという依頼人の頼みで、いつも通りの亜空間を使って追い詰める。
まず、自分の身体を使い、精気を吸い取る方法でほとんどの奴は殺せる。

中には、妻を愛していて誘惑を退ける奴もいた。
亜空間が無い時は取り逃がしていたが、使えるようになってからは取り逃がした事は無い。

元の世界と繋がっている事を理解すると、みんな食糧や飲料水があるからと油断して、必死で亜空間の出口を捜さなくなるのだ。
七日耐えれば自然に出口が出現すると思い込み、食糧と水分を確保して何もしない。

それが罠なのだ。
七日経つと確かに亜空間の出口は出現するが、上空千メートルからの自然落下となるのだ。
これによって、ターゲットは命を落とす事になる。

運悪く食糧や飲み物を手にできなかった奴もいたが、かなり稀なケースだった。
いずれにしろ今まで亜空間を攻略し、無事に脱出した人物はいない。
時計を見て、今回のターゲットのタイムリミットが来ている事を知りつぶやいた。

「今日か……。無事だと良いけど、能力不足で死んでいるかもな。
この私に負けるようじゃ、異次元世界の魔物から身を守ることも出来ない。
仕方ないけど、異次元の守護者としては失格だね」

そう言いつつ、気晴らしにテレビを見る事にする。
嫌な事があった時は、テレビを見て気を紛らわせるのが彼女の習慣だった。
いくら悪人を選んでいるとはいえ、中には家族思いの奴もいた。

そういう奴を暗殺すると、気が重い。
散らかった部屋の中で、ビールを飲みつつ、お菓子をつまむ。

この仕事が最後の暗殺だと思うと、気も少しは軽くなる。
お前達の分まで私は幸せになるからね、と謝罪も込めて記憶に留めようとしていた。

「ああ、喉が痛い! まだ一週間前の疲れが残っているよ。
カラオケで歌い過ぎて、声がやばい事になっていたからな。
いくら少女の姿といっても、機械とカラオケなんて勝負するもんじゃないよ。

この一週間、まるでおっさんの声だったよ。
あいつもかなり引いていたしな。
さすがに、美女があんな声を出したら引くよね」

クランがマモルを襲った時に声を出さなかったのは、カラオケによる歌い過ぎが原因だった。

ストレス発散に歌いまくる。
すると、数日は声がおっさんの声のようになるのだ。
みんなも歌い過ぎには注意してね!
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