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第二章 クラン街の悪夢

第40話 バルベロという少女

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 バルベロとオレが扉をくくると、そこは巨大なショッピングモールだった。
さっきの部屋は近未来的だったが、この部屋は現代風に作られていた。
そこにいる人々は、人間もいればロボットのようなアンドロイドもいる。

どうやらここは、アンドロイドの実験施設内の休憩場所のようだ。
有名なハンバーガーショップもあれば、玩具屋やキャラクターグッズショップもある。
人間と一緒に共存できるようにこうした施設を作っているのだろうか? 

オレが辺りを見回していると、バルベロは一つの高級料理店に入ろうとする。
はっきり言ってお金を持ってなどいない。

バルベロに奢る事も、自分の食事を食べることも出来ない。
そのため、オレは拒否をする。

「いや、ここは値段が高い! あっちのハンバーガーショップにしよう!」

すると、バルベロは驚いた顔をして言う。

「え、愛の告白でしょ? もっと良い店にしないと雰囲気が……」

「いや、内密の話って言っても、必ずしも愛の告白ではないから……」

オレがそう言うと、バルベロはしぶしぶ了解した。
しかし、不満をつぶやいている。

「ちぇっ、高級料理店で愛の告白だと思ったのに……。期待して損した」

「オレには妻がいるから愛の告白は無いよ。異世界の情報を知っているんじゃないのかよ」

「まあ、愛の告白ではないにしろ、秘密の会合なら値段の高い店が良いかと思って……。でも、あなたは貧乏だったわね」

人工知能にどこか異常があるのだろうか? 
もう、普通の女子高生にしか見えなかった。
ロボット技術としてはすごいのだろうが、神秘的なオーラは全く感じない。

オレの注文通りに、ハンバーガーショップに入る。
たとえハンバーガーショップといっても、こんな秘密の施設のショップは高いはずだ。
タックスをがっぽりと取って来る店だってある。

普通の場所ではない事を肝に銘じて注意する必要があるのだ。
もちろん代金は割り勘、奢るなどという事は彼女や妻、親族以外にはする事などできない。それをバルベロに前もって伝えておいた。

「ちっ、しけているわね。普通は接待をするくらいの状況なのよ。
今回は見逃がしてあげるけど、これから個人的に相談する時は奢りの上に、私の要求する店に連れていってもらうわよ。いいわね!」

そう言いながらバルベロは、シェイクを口に含んだ。それを見てオレは騒ぎ出す。

「何を飲んでいるんだ、君は! そんな飲み物を飲んだら、本当に壊れてしまうぞ!」

そう、こんな生意気な小娘でも、中身は精密な機械なのだ。
液体物や食べ物は危険物と同じ扱いのはずだ。

そのため、シェイクを取りあげようとする。
バルベロはその行為を見ながらポカンとしている。

「あの、これは人体にも無害な燃料よ。
それに、私なら人間の食べ物や飲み物を飲んでもエネルギーに変えられるし……。

人間の身体から研究に研究を重ねて開発された人工動力エンジンを持っているから……。私が人間と比べてできない事は、子供を産むことくらいなんだけど……」

「人間の科学はここまでできるようになったのか」

オレは日本科学の発展に驚きを隠せなかった。
実際には、ここまでできているのだが、アンドロイドの存在に反対する勢力もあり、公にはできないという事だ。

確かに、ここまで人間に近いアンドロイドができていると分かると、中には恐怖を感じる人がいるだろう。

そのためテレビで報道できるのは、ぎこちない動きで人々を安心させられるアンドロイドに限られているのだ。

もしもバルベロのようなアンドロイドが存在する事を世の中に知られてしまえば、多くの問題が起こる可能性がある。

人間とは、一方では素晴らしい技術に憧れる反面、その技術が実現すると恐怖を感じる愚かな生き物なのだ。

特に何もしなければ戦う必要もないのに、戦う理由を自ら作り出し滅びていくという性質を持っているのかもしれない。

みんなもアンドロイドが登場したとしても、不必要に恐れる事が無いように注意しようね。
そういう者が出るという認識を今の内から持っていよう。

そうすれば将来、不安を感じる事は無くなるだろうからね。
仕事は激減するかもしれないけど……。

「で、相談と言うのは何?」

オレが最高水準の科学技術に感動していると、バルベロがそう尋ねて来た。
これ以上、日本のアンドロイドに驚いている時間は無い。

こうしている間にも、オレやシルビアさんに危険が迫っているかもしれないのだ。
オレはこうお願いする。

「オレがアルスター王国の危機を救ってから、アルスター王国の人々が言ったのか知らないが、異次元の守護者と言われている。
しかし、オレは、異次元の魔物達にとって脅威となる存在だと思われたくないんだ。

シルビアさんや家族にも危険が及ぶし、オレ自身も終始警戒していなきゃならないなんて、とてもじゃないが耐えられない。

出来れば、オレの存在は無能力者で、異次元の魔物達には無視できる存在だと思わせておきたい。
まあ、機械の君には理解できない感情かも知れないが……」

「いえ、確かに警戒されない方が伸び伸び調査出来るかもしれませんね。
それに、強い人を倒す基本戦術は、その人の大切な人物を狙うというのが効果的ですから……。

必然的に、シルビアさんや子供に危険が及びます。分かりました。
私の願いを叶えてくれるなら、あなたを異次元の無能力者にしてあげますよ」

バルベロはそう言って笑う。

「お前の願いって何だよ?」

オレはそう尋ねるが、バルベロは話をはぐらかした。

「それは後ほど……。
それよりも、あなたの代わりに標的となる人物を仕立て上げないといけませんね。
嵐山とギンロウも、私の情報操作によって危険を回避しています。

あなたの代わりに、剣王アルシャードを英雄に仕立てあげましょう。
シナリオはこうです。

先に異次元に来た嵐山は、任務を放棄して自分の趣味に走りだし、幼い王女のキーリアと相思相愛になる。
嵐山が役に立たなくなり、新たな人物であるミスターマモルを送り込んだ。

しかし、彼も役立たずであることが判明し、ダメな男好きのシルビアさんと相思相愛になってしまう。

立て続けの失敗に国王は困り果ててしまうものの、そこに現れた剣王アルシャードによって次々と解決していく。
オーク達とオーガを正しい道へと矯正し、マモルを責任感ある一人前の男にした。

そして、暴走し過ぎた嵐山とキーリアを止め、アルスター王国に平和を取り戻し去っていった。

そして、マモルがサキュバスの罠によって、亜空間に行ってしまってからも、巧みなアドバイスによって助け出した。
剣王アルシャードは今もどこかでみんなを守っているのです。

こんな感じでどうでしょうか? 
あんな雑魚なら魔物に襲われても構いませんし、一人身だから気楽でしょう」

バルベロは機械だったんだなと思わせるような、冷酷で恐ろしい提案をしてくる。
アルシャードには気の毒だがこの際仕方ない。

本物の剣王になってくれる事を期待して、オレはこの提案を賛成する事にした。
どうか、無事に再会できる日が来る事を……。

更に、オレはバルベロに尋ねる。

「後、サキュバスの居場所が知りたいんだけど。
有名な暗殺者らしいし、居場所くらいわからないか?」

「分かりますよ。ただ、今から四日後くらいまでは不在の予定です。
本来、亜空間が消え去る四日後に、アジトに戻って来ると思いますけど……」

「どこに行っているんだよ? 
後、サキュバスに依頼した奴はどんな奴だよ?」

バルベロは無表情になり答えた。

「その質問にお答えする事はできません。他の質問をお願いします」

どうやらバルベロでも分からない事はあるらしい。
情報がそこまで拾えなかったのだろうか? 

しかし、四日後にアジトへ帰る事が分かった。
そこを包囲すればいいだけだ。

オレはハンバーガーとシェイクをたいらげ、バルベロが食べ終わるのを待っていた。
機械のくせに、食べるのは女子高生のように遅かった。

バルベロを本来の部屋まで送り、長官と嵐山と合流して家まで帰る事になった。
行きと同じように、帰りも目隠しをして帰る。
そのため、バルベロに会いたいと思うなら、長官の許可を取らなければならない。

しかし、バルベロと別れる時にメールアドレスはゲットしていたため、連絡と相談はいつでも出来る。

バルベロはメールでこう言って来た。

「今日はゆっくり休んでください。
といっても、興奮して休めないかもしれませんけど……。

今日のあなたはずっと興奮しっぱなしですね。
危険な体験をしたので無理はありませんけど、お風呂などに入ってゆっくりしてください」

バルベロのメールを見て、オレは独り言をつぶやいた。

「良く分かっているな。今日はどうしても休めそうにない。
シルビアさんと愛し合いたいからな♡」

サキュバスの誘惑と孤独感によって、シルビアさんと結ばれたいという思いが強まっていた。
三十歳を過ぎて、性欲の衰えを感じていたが、今夜なら大丈夫だろう。

子供を作るとしたら、今夜しかありえない。
オレはそんな事を思いながら、シルビアさんに会えるのを心待ちにしていた。

そして、その想いがやむ事も無く、子供を作る事に成功したのだ。
その事が分かるのは、しばらくしてからだったが……。
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