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第四章 ハルピュイアと悲劇の少女

第六話 木霊とメアリー

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 オレとメアリーは、室外機専用の場所に閉じ込められ、救助を待っていた。
遠野さんと鏡野が犯人を追い詰めて、別荘の鍵を奪還するつもりだが、しばらくはオレとメアリーが二人切りだ。
今日初めて会っただけに、どうやって時間を過ごせばいいのか分からない。

メアリーは、見た感じ遠野さんの様に髪が長く清楚な感じが漂っている。
しかし、中身は小学生の様で、全く警戒心は無いし、着ている白衣の下はブルーのブラとパンツだけだ。
医学の知識があるらしいし、遠野さんとも親しい関係の様だ。

オレは、遠野さんの話題から話をする。
実際、遠野さんの事はもっと知りたいと思っていた。
なんかいじめみたいな事があって、人と関わらない様にしていたらしいがどんな事があったのだろうか? 

「遠野さん、小学校六年生くらいの時に、幻獣になる事が原因で、嫌な事があったらしいけど、何か知っている?」

「おお、そうなのか。
僕がいた時は、すでにある程度まで幻獣化していたと思うぞ。
えるふは、男女ともに人気者だったと記憶しているが……。
僕が学校に来なくなってから、何か事件が起こったのかもな」

「そうなのか。
オレが高校で会った時には、すでに友達を作る気も無いくらい傷付いていたけどな。
いつも一人で本を読んでいて、誰とも付き合おうとしていないようだった。
近所で事件が起こった事を理由に、オレが遠野さんに近付いたのが仲良くなるきっかけだったしな……。
そうか、人気者だったのか……」

オレはちょっと嬉しかった。
もしも遠野さんが人気者だったら、オレの事など関心を持っていないかもしれない。
遠野さんからしたら悪い事だったかもしれないが、オレからしてみたら恋のライバルも少なくて良い事だった。
声には出さなかったが、微笑してしまう。
メアリーは、オレの笑顔を見たようだが、気にしないように話し続ける。

「ああ、クッキーとか焼いて持って来るし、自分で作った弁当も美味しかった。
掃除も定期的にして綺麗好きだ。
僕も本気でえるふと結婚しようと思っていた」

メアリーは無表情な顔をして、とんでもない事を口にした。
メアリーは、レズなのだろうか? 
オレは不安を抱きつつ、恐る恐るメアリーに尋ねる。

「遠野さんと本気で結婚って、メアリーはレズなのか? 
二人とも女同士なんだけど……」

メアリーは微笑を浮かべて、こう語り掛けて来る。

「本気と言っただろう。
本気で、僕が男になって、えるふと結婚する気だった。
えるふの幻獣化がヒントになって、男女の性別を変える事も出来ると考えている。
というか、本当の愛と言うなら、そのくらいの奇跡を起こしてもらわないとな。
同性愛ごときで満足されては困るよ。

本気で研究して、男女どちらでも子供を産む事ができるようにしてもらいたいものだ。
まあ、僕はもう遠野えるふに興味は無いけどな。
料理はうまいかもしれないが、ケーキ作りを怠ったえるふに価値など無い。
僕の結婚対象には相応しくない! という事で、木霊君は安心してえるふとラブラブするが良い! 
重要なのはケーキだよ、ケーキ!」

メアリーはそう言って、オレの背中を叩いた。
遠野さんがケーキ作りをうまくなった時は、どうなるのだろうか? 
オレは不安を感じつつ、別の話題に移る。
メアリーは幻住高校に入学する気満々で、オレにいろいろ尋ねて来る。
興味があるのは、美女の話題ばかりだ。
誰が美味しいケーキを作れるかとか、掃除が得意そうなのは誰かなどだ。

最終的に、オレの知り合いでは、天草夏美が一番料理も得意で、ケーキ作りもうまいという結論になった。
メアリーの恋愛対象は、天草夏美に移ったようだ。
まあ、クラスも別々になる可能性が高いし、事実だから良いか。
メアリーは、どう見てもA組(アミメット組)ではなく、C組(カプリコーン組)タイプだった。
オレとメアリーがそんな話をしている頃、遠野さんと鏡野真梨は犯人を追い詰めていた。

 遠野さんの飛行能力により、バイクに乗って逃走している犯人・羽比名(はねびな)に追い付いていた。
夕日でまだ明るかったのと、山道による起伏が、犯人の逃走を阻んでいた。
そのため、空を飛べる遠野さんは、山道を無視して、一直線に犯人のバイクを追い越す事ができる。

鏡野の指示により、犯人の乗っているバイクの逃走経路に先回りをして待ち伏せする。
遠野さんは、ハーピーモードでそこまで来る事が限界だったようで、鏡野真梨を山道に下ろすと、急激な疲労感を感じ、道路の隅に倒れ込んでしまう。
最後の力を振り絞り、何とか髪形をロングヘアーに戻し、そのまま眠り込む。

鏡野と犯人の決戦が開始しようとしていた。
犯人は、まだ二人が脱出している事を知らないため、低速で山道を下っている。
もしも、二人が別荘から空を飛んで脱出した事を目撃していたのなら、何らかの反応を見せたかもしれない。

しかし、予想外の脱出方法と、夕日の光が二人の存在を全く隠していた。
そのため、鏡野が走れば追い付けるくらいのスピードで走っていた。
山道は、木や山が影になって視界も狭いので、鏡野の反応も一歩遅れてしまう。
犯人のバイクに一瞬追い越されてしまうが、鏡野の脚力により、バイクに追い付く事ができる。
山道はカーブが多いので、カーブに沿って犯人が曲がる所を狙い攻撃した。

バランスを傾けていた事と、思わぬ鏡野真梨の攻撃を受け、犯人の乗っているバイクは転倒して、ガードレールに激突する。
低速運転のおかげか、犯人は軽傷で立ち上がって来た。
鏡野真梨の存在を一瞬で理解し、攻撃して来る。
どうやってここまで来たのか、どうやって別荘から脱出したのかなど考えず、反射的にパンチで攻撃して来る。
鏡野が犯人のパンチを避けると、状況を理解したのか、いろいろと鏡野に問いかけて来た。

「くっそ! どうやってここまで追いかけて来たんだ? 
別荘からどうやって脱出したんだ? 化け物め……」

鏡野真梨のバイクを蹴り倒す脚力を見て、犯人は納得したようだ。
こいつなら、鉄の扉を蹴破り、ここまで追い付く事ができるかもしれないと……。
犯人は素手では勝てないと悟り、ナイフを取り出す。
しかし、ナイフを構えるよりも早く鏡野の蹴りを手に喰らい、頼みの綱のナイフは道端に弾き飛ばされてしまった。

鏡野の直感能力により、犯人が武器を取り出す動きを察知し、ナイフを弾き飛ばしたのだ。
鏡野真梨は何度か危険な目に遭った事がある様で、その経験から犯人の次の動きが分かる洞察能力も培っていた。
並みの人間ならば、武器を持っていようと鏡野真梨の敵ではない。
チャリンという音がし、鏡野真梨はナイフの存在に気付いた。

「ナイフか……。
悪かったな、ウチが弾き飛ばしてしまったわ。
次はどうするんや?」

犯人は自分の武器が無くなった事を確認すると、鏡野真梨に恐怖を感じた。
慌てて逃げようとする。

「うわあああ、俺が悪いんじゃない! 
つばめが悪いんだ……。
俺を脅迫するからああなったんだ……」

走って逃走しようとする羽比名(はねびな)の背後を、鏡野は一瞬にして回り込む。

「アホか……。どんな理由やろうと、女の子を傷付ける奴は、最悪なんだよ!」

鏡野の回し蹴りを喰らい、羽比名(はねびな)は吹っ飛んで気絶した。
ガードレールにぶち当たり、ガードレールが少し歪んでいた。
鏡野は犯人に近付き、最後の言葉をかける。
格好を付けているが、前後が繋がっている為、後ろだけではよく分からない。
犯人の羽比名は、全く分からなかっただろう。

「それだけは覚えておきな!」

犯人の羽比名(はねびな)は気絶していたので聞こえていないが、身体で理解した事だろう。
鏡野真梨の一撃を喰らい、改心して欲しいモノだ。
倒れている羽比名(はねびな)の荷物を探り、鏡野は別荘の鍵を手に入れる。

遠野さんも疲れているが、山道に置き去りにするのは危険だった。
眼を覚ました羽比名(はねびな)に人質にされてしまう危険もある。
そう判断した鏡野は、遠野さんを背負って別荘に戻る。
たとえ羽比名(はねびな)が目を覚まして逃走したとしても、警察に通報すればすぐに捕まるだろう。

鏡野はそう考え、十五分ほど山道を、遠野さんを背負って帰っていく。
鏡野は別荘に辿り着くと、遠野さんをベッドに眠らせ、オレとメアリーを室外機のある場所から解放し、警察に通報した。
警察は一時間ほどしてからこの別荘に訪れ、オレ達に事件の真相を聞く。

道端で倒れている犯人を逮捕し、この事件は幕を閉じた。
後で聞いた話だが、羽比名(はねびな)は演劇部であり、女装が得意だった。
その事を利用し、事件に興味を持った人々と連絡を取り、事件を解決しようと奮闘するふりをして、現場でお姉さんと偽って出迎えようと計画していた。

しかし、ほとんどの探偵が報酬目当てだったため、お金がないという事で断っていた。
本物のお姉さんは、何も知らずに生活していたという。
被害者が最後にスーパーに来た時にも、被害者と一緒にいた女性は、彼が変装しており、そのため従業員からお姉さんと解釈されたらしい。

その後、本当のお姉さんが訪ねた時には、お姉さんを被害者の友達と思い込んでいたようだ。
遠野さんは、被害者の部屋から犯人が男性である事を気付いていたが、ネイルアートや付け睫毛など自分の得意ではない分野に気が取られていて、犯人の女装を見抜けなかったと言う。

普段、化粧とかしない事が油断の原因だった。
本物のひばりさんは、妹の高校卒業アルバムを先生達から無理言って入手する。
妹さんは卒業出来なかったが、せめて同級生の卒業アルバムくらいは見せてあげたかったそうだ。

妹と一緒に見ているつもりで卒業アルバムを見ていたが、眠気を感じてそのまま眠ってしまい、その後回収し忘れていたという。
本人としては、本棚にしまったと思っていたらしい。
こういう不思議な事は偶にある、と遠野さんは語った。
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